TZ 7047:John Zorn "The String Quartets"(1999)

 クラシック弦楽四重奏曲集。作曲は88年から96年まで幅広いが、録音は98年暮れから99年春に4回に分け録音された。あくまでジョン・ゾーン作品集としてアルバムの統一性を意識したつくり。この後も多作する「テーマ音楽」「コラージュ性」「オカルティック趣味」など、さまざまな要素が本作で萌芽になっている。


 もとはクロノス・カルテットの委嘱3曲と、Masada Songbookを作曲の合間に思いついた1曲、という。本盤の奏者はクラシック畑バリバリでは無く、盟友Mark FeldmanやErik Friedlanderを含むインプロも得意な奏者を集めた。
 ジョン・ゾーンによると収録曲それぞれ"Cat O'nine Tails","The Dead Man","Memento Mori","Kol Nidre"は、視覚的、肉感的、感情的、精神的を象徴する楽曲という。

 各曲は作曲順に収録された。"Cat O'nine Tails"はさまざまな弦楽四重奏曲をコラージュした作品で、ゾーンはユーモラスと本曲を評する。聴覚より知的なユーモアだ。また譜面を見れば確かに、視覚的にも楽しめそう。楽曲的には抽象的な跳躍がひっきりなしに発生し、何とも忙しない。
 あまりクラシックを聴いたことが無いが、それでも時たま聞き覚えのあるフレーズが、いきなり飛び出すびっくり箱の楽しさもあり。
 サブテーマはテックス・アヴェリー meets マルキド・サド、だそう。アニメ的なモーフィングとSM的残酷さととれば、この表現もわかるような気がする。

 クロノス・カルテット版の演奏はこちら。本盤よりすっきりさを強調に聴こえる。抜けのいい録音のせいか。


 "The Dead Man"(1990)は13曲の小品集。ジョルジュ・バタイユの著作にインスパイアされ、ウェーベルンのバガテル(小品集形式)も意識、という。各小品には音楽用語が付与された。SMを強烈にイメージした作品で、東京やNYの一室でSMするときのBGMに、と妄想しているそう。
 ライナーに掲載の譜面は本曲から。手書きで読みづらいが、一小節ごとに拍子がガラガラ変わり、若干のインプロ要素も伺える。

 楽曲全体から伝わるのは、うっすらした陰影と奇妙に落ち着かないスピード感と、ときおりの綺麗な和音。落差激しくムードが頻繁にガラガラと変わる。各曲1分未満の作品ばかりで、勢いと雰囲気の変貌に右往左往してるまに、楽曲が終わってしまう。
 緻密な構成とハイテクニックで、乱調の美を演出した。

 "Memento Mori"(1992)は約30分の作品。トラックを間で切らない。ゾーンの解題を読んでも今一つピンとこないが、即興詩のように思い浮かぶまま楽想を書き進めた、ということか。
 無闇にハイテンションで疾走せず、穏やかな風景の進展をじっくり感じた。重厚で幻想的、かつクラシカルな秩序と取り留めない展開。そんな相反する要素を味わえる。ときどき変則奏法が入るものの、和音のふくよかな響きと前衛のバランスが産む不安定な調和っぷりは本曲が最も楽しめる。

"Kol Nidre"(1996)のユダヤ・メロディがMasadaに通じる。8分ほどの小品で、ドローンめいた低音上を断片ながら美しい旋律が、緩やかに奏でた。Masadaの作品にしばしばみられるのが、この断片さ。アドリブ・テーマのきっかけとして、あまり長くしないって計算に加え、断章集という宗教に通じるゾーンの拘りな気がしてならない。
 この曲も、メロディが浮かんでは消える。もっと展開を、もっと盛り上がりを、と祈っても叶うことは無い。淡々と滑らかにひとつながりの旋律が提示され、休符に繋がる。
 チェロはしぶとくロング・トーンを続ける。
 時たま聴こえる、カルテット一丸でクレッシェンドする迫力が、素晴らしくきれいだ。

Personnel:
Mark Feldman: Violin
Erik Friedlander: Cello
Joyce Hammann: Violin
Lois Martin: Viola

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