TZ 8310:John Zorn "Shir Hashirim"(2013)

 荘厳なアカペラ女性カルテットが楽しめる一枚。本盤の女性ボーカル5人はSapphites名義でクレジットされた。創作経緯を紐解くと、本盤はちょっと異質なコンセプトだと思う。
 録音は2010年の9月。発売の13年まで3年ほど醸された。次々にリリースするジョン・ゾーンにしては珍しい。本盤は彫刻家/画家のオーギュスト・ロダンにインスパイアされて作曲tという。ジャケット絵もロダンの作品だ。凝ったジャケット・デザインと相まって、非常に綺麗な仕上がりだ。

 本盤に至ると思われる、ゾーンが作った女性コーラスの楽曲を整理してみよう。
 そもそもはゾーンのソロ"Mysterium"(TZ 8018,2005)収録"Frammenti Del Sappho"で女性5人が歌う楽曲が現れた。メンバーは本盤の5人と一人だけ違う。Kathryn Mulvehillでなく、Martha Sullivanだった。
 5年後、Sapphites名義で本盤が吹き込まれる。

 次に2年後、2012年10月の4日と5日にゾーンはアイルランドで新曲"Holy Visions"を発表した。ライブ案内のFacebookはこちら
 このライブでは5年前の"Frammenti Del Sappho"と"Holy Visions"を披露した。ところが歌手は本盤参加のメンバーではない。全員顔ぶれを変え、Neue Vocalsolisten Stuttgart名義のユニットへ歌唱を任せた。具体的なその際の5人は、Sarah Maria Sun,Susanne Leitz-Lorey, Angelika Lenter, Truike van der Poel, Sabine Czinczelだった。

 ゾーンはさらに1年後、"Holy Visions"を再演する。ゾーン生誕60歳記念ツアーの一環として、13年7月12日のイギリスにて。
 このときの"Holy Visions"メンバーは、Jane Sheldon,Lisa Bielawa(★),Mellissa Hughes,Abby Fischer(★),Kirsten Sollek(★)。(★)印が本盤参加のメンバーだ。
 当時の紹介ページがこちら。ある程度継続的な活動に見える。 当日のライブレビューがこちらこちら。観客による携帯撮影の映像もYoutubeにあった。


 後者のレビューによれば"Holy Visions"は12世紀の作曲家ヒルデガルト・フォン・ビンゲンにインスパイアされ作曲とある。11曲のストローフィ形式からなるらしい。

 つい"Holy Visions"の整理が長くなったが、本盤が実際に発売されたのは、上記ライブの後。同年12月に出た。つまりぐるり廻ってリリース上では"Holy Visions"のライブ発表の次に"Shir Hashirim"の発売になる。録音は"Shir Hashirim"が先なのに。リアルタイムで追っかけてたら、(録音クレジット見なければ)"Holy Visions"が進化して"Shir Hashirim"に至ったかのよう。誤解だが。

 ざっと検索した限りだと本盤"Shir Hashirim"は、本盤のみで終わってしまってる。ならばなぜゾーンは"Shir Hashirim"の音源を引っ張り出してリリースにつなげ、"Holy Visions"を未CD化のままなのか。メンバーも"Holy Visions"とかぶるのに。
 それとも輪廻構造のごとく、どこかで"Holy Visions"がいつかはCD化されるのか。その時の歌い手はどの顔ぶれだろう。本項書くため調べてたら、なんだか色々と考えてしまった。

 "Shir Hashirim"のテーマはユダヤの"雅歌"を指す。英語なら"Song of Songs"。Wikiによると"雅歌"ヘブライ聖書の中の一編で、ユダヤ教では「諸書」の"11巻"の一つ。
 11って数字は前述の"Holy Visions"に通じる気がする。オカルト趣味で数値作曲も得意とするゾーンだぞ。偶然だろうか。"Shir Hashirim"の発展系が"Holy Visions"だろうか。

 "Shir Hashirim"の楽曲構造は、主旋律の概念が希薄だ。涼やかなハーモニーが輪唱風に重なっていく。伴奏と主旋律でなく、全体が和音で動く。全てがリフで伴奏の積み重ねで楽曲が浮かび上がる印象あり。おそらくすべてが譜面だろう。

 宗教的な荘厳さが清涼に立ち上る一方で、和音の響きや進行が異様な雰囲気がしばしば。ぼくは楽典面で語る知識は無いため、誰かの楽曲構造による分析を読んでみたい。
 譜割も当然のごとく4拍子で割れない。そこかしこに変拍子を感じる。ハイトーンから低音まで、使う声域も幅広い。変てこで幻想的な世界だ。
 粛然たる雰囲気を漂わせつつ、構造は複雑で玄妙。そんなゾーンの作曲術が昇華した一枚。

Personnel:
Lisa Bielawa: Voice
Martha Cluver: Voice
Abigail Fischer: Voice
Kathryn Mulvehill: Voice
Kirsten Sollek: Voice



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