TZ 7203:灰野敬二 "Tenshi no Gijinka:天使の擬人化"(1995)

  世界に誇る異形のミュージシャンである灰野が、Tzadikで発表したソロ。
  金物の玄妙な響きと、強烈なボーカル。迫力と生々しさが本盤の魅力だ。金物、声、民族楽器と、当時は灰野の新境地とも言える一枚だった。当時のライブでは演奏してたのかもしれない。けれども音盤化はされてこなかった。

 
 彼の活動でも比較的初期、海外で名が売れ始めたころのリリースのはず。そもそも灰野はロックを基調にしつつも、あらゆる音楽ルールにとらわれない。奔放かつ自由に音を紡ぎ、それでいてロックを強烈に感じされる。不思議な立ち位置こそが灰野の魅力だ。ジョン・ゾーンのトレードマークが軋むサックスだとしたら、灰野のそれは轟音ギターのはず。だがあえて本盤ではそれを封印した。アルバムの幕開けは、金属を叩く音と強烈な即興シャウトだ。

 テンポもビートも音階も、灰野は全て無視する。だが強烈な存在感と不思議な一貫性で、ある一定の連続を音楽へ与える。それが凄いところだ。音楽のルールを全て外れながらも、灰野の作品は無秩序なノイズでなく即興音楽になっている。

 本盤の前半は、絞り出すシャウトで低音から高音まで幅広い声域を見せつけつつ、中心は金属の響き。一発録音でなく、ダビングを繰り返した。曲によってはボーカルもループでなく、ダビング。後の灰野はエフェクターを駆使し一発録音的な音像を意識させるが、ここでは多重録音を躊躇わなかった。

 もしこれが日本ですべて録音され、TZADIKは流通のみなら灰野の一要素、と取って本盤は終わる。ところが画期的なのは、NYのBC StudioでオーナーのMartin Bisiにより録音されたことだ。
 金物の残響たっぷりの音は、日本人の価値観では特に違和感はない。ぶっちゃけ、風鈴を筆頭とした、わびさび文化の変奏とも解釈できる。だが敢えて西洋人文化で、なおかつ灰野自身もおそらくは探りの過程だった、このアプローチを取ったところが凄い。
 よほど明確な音楽ビジョンがないと、ここまで大胆には踏み込めない。

 (6)以降で聴ける弦楽器やバグパイプめいた響きも、断続する灰野の歌声と相まって混沌で神秘的な雰囲気が、とことん強調された。録音直前にNYで買ったというエスラージサロッドの音色だそう。

 アルバム全体で、重苦しい緊迫感はむしろ希薄だ。透徹な凛々しい風景が漂う。

 後年TZADIKで灰野は吉田達也とのデュオなど、何枚もアルバムを発表した。しかしソロ名義は、いまだに本盤のみ。多数のアルバムをその後、海外のレーベルから出し続けてるのに。不思議だ。

Personnel:
灰野敬二: Vocals And All Instruments


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