TZ 8316:Eyvind Kang "Alastor: The Book of Angels vol. 21"(2014)

 どっぷりアラブ風味の密度濃く、繊細で玄妙なアンサンブルが味わえる傑作アルバム。ただしオーケストラの妙味だけでなく多重録音の密室性が産み出す、こじんまりしたパーソナル感もそこここから滲む面白さ。じっくり聴くほどに、面白さが溢れてくる。
 リーダーのEyvind KangはTzadikに"7 Nades"(1996)を発表したバイオリニスト。


 緻密なアラビック・オーケストラを冒頭で聴かせたと思えば、西洋クラシック風味に振れる。(4)ではバイオリン独奏を生かし、しっとり聴かせた。即興やアドリブに任せずきっちりと譜面を作り、その上で時にソロを遊ばせる作曲家寄りのアプローチ。全曲ジョン・ゾーンのMasada第二弾レパートリーとはいえ、しっかりとKangは自らの世界観へ音楽を取り入れ、豪華でエキゾティックに優美な世界を描いた。なお本盤収録曲は他のMasada Book 2とはかぶらないようだ。Masada 2 は奏者違いのアレンジ妙味ってあんまり楽しめる印象が無いな。アルバムごとに曲が全部違う感じ。

 本盤にはtsでクリッターズ・バギンのスケーリックが参加した。(9)で空気を朗々と震わしソロを取る。
 tpのCuong Vuもリーダー・アルバムを数枚出す、ベトナム系アメリカ人の奏者。シンセ演奏に加え録音/ミックス/共同プロデュースを担当のRandall DunnはシアトルのバンドMaster Musicians Of Bukkakeのメンバーだ。
 
 クレジット見るとKangの多重録音とも、実際のオーケストラとも取れる。いずれにせよさまざまな弦楽器と鍵盤を操るKangの演奏と作曲力は抜群だ。Masadaのスピードでなく、貪欲な自由度に着目したアプローチ。どの曲もゆったりした寛ぎと余裕を感じさせる。(8)の滴るような落ち着きも良い。
 中東風の音色は時に、シンセ色が前面に出る。それがまた安っぽいプラスティック感で効果的だ。

 アラブ音楽はユニゾンってイメージが強い。だが本盤はユニゾンっぽさはあるものの、西洋的な和音やオブリを生かした多層的な響きに聴こえる。隅々までくっきり聴こえる録音とミックスも整ってる。
 参加ミュージシャンは多いが、いわゆる大編成オケとは異なる。奥行深く丁寧にミックスされながらも、どちらかと言えばコンボ寄り。おそらくEyvind自身の演奏も幾層にダビング施され、録音風景は全く想像できない。
 (4)のようにシンフォニックなアレンジの場合も、大ホールの広がりよりも、スタジオのコンパクトな匂いがうっすらした。

 そういった幻想性も本盤の魅力。くっきりしたメロディを前面に出しつつ、音像は精妙に構成され、複雑に響く。アイディアがいっぱい詰まってる。密室的なサウンドだが、打ち込みや多重録音の独りよがりさは無い。

 編集してるとしても、あくまでもミュージシャンの生演奏が前提になっている。即興のダイナミズムよりは、アレンジされた強靭さで音楽の魅力を伝えた。
 きめ細かい編曲の流れは、聴きこむほどに楽しい。ただし常に緊迫感を持ち、いたずらなBGMに堕することはない。 
 
 本シリーズの常として、本盤収録曲はすべてジョン・ゾーンの新曲で、他のBook2とかぶることは無いようだ。こういうリアレンジの愉しみを味わう盤ならば、数曲は既発曲を取り上げて、編曲の違いをじっくり楽しみたかった。それが惜しい。

Personnel:
Eyvind Kang: Electric Bass, Guitars, Janggu, Kacapi, Kemancheh, Korg Synth, Moog Synth, Oud, Percussion, Piano, Setar, Sitar, Viola, Violin, Voice
Shahzad Ismaily: Bass
Skerik: Tenor Sax
Hans Teuber: Clarinets, Flutes, Tenor Sax
Cuong Vu: Trumpet
Dave Abramson: Drums, Percussion
Emma Ashbrook: Bassoon
Josiah Boothby: French Horn
Tor Dietrichson: Bongo, Conga, Clave, Guiro, Tabla, Triangle
Maya Dunietz: Voice
Randall Dunn: Moog Synth, Voice
Hidayat Honari: Tar
Taina Karr: English Horn, Oboe
Jessika Kenney: Voice
Moriah Neils: Bass
Hyeonhee Park: Janggu, Kkwaenggwari
Soyeon Park: Geomungo
William Smith: Cello
JungAh Song: Gayageum
Maria Scherer Wilson: Cello
Jacob Yackshaw: Bass


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