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渋谷毅/武田和命カルテット 「Old folks」(2005)

 荒っぽくグルーヴィで、なおかつ暖かいフリー寄りのスタンダード。

 唐突にアケタズ・ディスクから発掘された。85年12月にアケタの店で録音されたライブ音源だ。演奏曲は全てジャズ・スタンダード。パーカーとモンクのレパートリーが中心だ。
 だけど演奏は大人しい懐古趣味とは真逆。ときどきフレーズがコードからアウトして、フリーの匂いをうっすら漂わせた。熱いセッションが楽しめる盤だ。
 レコーディングが前提でなく、カセット録音だそう。ブートに近い音質である。(2)の途中に観客の会話が聴こえる。
 だけど、細かいことは気にしない。聴けるだけでありがたい。しかもオフィシャル・リリースで。

 メンバーは武田和命(ts)渋谷 毅(p)川端民生(b)藤井信雄(ds) 。アケタの店で顔なじみな、いわゆる中央線ジャズ界の名手ばかり。このメンツは本盤のみのセッションでなく、バンドとしてライブをしていたようだ。
 息の合いっぷりはばっちり。いわゆる腹の探りあいなど、とんでもない。
 
 (1)からむせ返るパワーで突き進んだ。ビバップの鋭角さとは違う。鈍角に、荒っぽく。指使いのテクニカルさでなく、タフで剛腕っぷりを提示しあう。隙間を見つけソロを刺しこむ危うさとは異なり、ソロ回しをきちんとスペース作り合った。
 でも手慣れた曲を、おざなりに弾いてみせたってお仕事的な姿勢と全く異なる。アルバムの幕開けにふさわしい、爆走なテイクだ。

 (2)は一転して穏やかな世界に。前曲で賑やかに叩いて意外だった渋谷のピアノも、ここでは彼のロマンティシズムが現れ、風景が優しく切り替わった。
 リズム隊も併せてテンションを下げる。
 テナーも熱気、下げているはずだけど・・・。軋む青白い音色が、安易な安定を許さない。

 訥々としたモンクの(3)は、むしろ軽快に幕を開けた。武田のソロもつっかえ気味にフレーズを展開させる。やがて音数が増えて、隙間と流麗さのバランスを自在に行き来した。
 ときおり投げ出すように旋律を宙に浮かせ、裏拍からすいっと救い上げる操りっぷりがカッコいい。
 賑やかにシンバルを叩きのめすドラムと、弛みなく動き続けるベースの躍動感に、和音でスイングさせるピアノで、武田の綱渡りを表現するアドリブを頼もしく支えた。

 4ビートなのに、8ビート風な激しいドラムのビート感に気持ちが上がっていく。
 でもソロになったとたん、いきなりマーチっぽい打ち鳴らしに走る武骨なセンスがいかにも藤井っぽい魅力だ。

 (4)は小細工せずに、ストレートなバラード。本盤は奇数がアップ、偶数がスローの構成で作った。
 無伴奏で渋谷がピアノを紡ぐ。心なしか、周辺の空気も静かになった。
 ラフにドラムが加わり、ベースが差し込む。テナーが本盤の中では最もしなやかに鳴った。
 高音中心の音域から、唐突にオクターブ・キーを離して低音にえぐる瞬間がスリリングだ。

 ひとしきり美しくソロを決めたテナーの後で、ピアノがさらにロマンティックな風景を描く。きれいなだけではない。ところどころに陰を浮かばせるバランス感が素敵だ。
 合間にずしんとベースが響くさまも効果的。ドラムはむしろ舞うように、訥々と隙間を埋めていく。
 ピアノの後を受けて、テナーが一転して軋み音まみれで再びソロを取った。一筋縄ではいかない。

 武田は"Gentle November"(1979)で、見事にふくよかな音色を聴かせた。でも本盤では違う。音色がもっと細く、危うい。リードが軋み、アンブッシュアで音を時に絞る。制御しきれぬサブ・トーンもありそうだ。
 饒舌になりきらない。どこか、たどたどしい。これは彼らのテクニックが未熟なためではない。楽器の歌わせ方、解釈の問題だ。
 
 もしライブ・スケジュールでこの顔ぶれを見てたら、どう思っただろう。時代的な関係性はピンとこないけれど。リーダー役とバッキングではなく、4人のフラットな関係性を楽しむセッション、と捉えたのではないか。後付けながら、このライブ音源を聴いてもそう思う。

 レコーディング前提でお行儀よく演奏せず、一期一会のライブとして奔放に暴れる様子が伺えた。貴重な記録だ。


Track list
1.Now's the time
2.Old Folks
3.Let's cool one
4.Round Midnight

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