TZ 7361:John Zorn"Six Litanies for Heliogabalus"(2007)

 21世紀のネイキッド・シティと思わせて、緻密な作曲術が施されていそうなコンセプト・アルバム。ハードコアなプログレ・ジャズだ。じわじわと良さが伝わってくる傑作。ぜひ繰り返し聴きこんでほしい。

 ムーンチャイルドの3作目でリリースだが、本盤はジョン・ゾーン自身に加え、イクエ・モリやジェイミー・サフトや女性ハーモニーまで加わった。顔ぶれ的にムーンチャイルドかもしれないが、実際はジョン・ゾーンのソロ・アルバムとも取れる。


 アルバムのテーマは西暦203-222年までローマ帝国を収めた23代皇帝、ヘリオガバルスがテーマ。デカダンの代名詞で変態の悪少年皇帝と名高いようだ。経歴はWikiに詳しい
 アルトーが「ヘリオガバルスまたは戴冠せるアナーキスト」を著したことも、ムーンチャイルドで取り上げた要因の一つだろう。しかしヘリオガバルスはゾーンの好奇心をくすぐりそうな、奇妙な性癖と人生だ。塩野七生"ローマ人の物語"では12巻目に取り上げてられてる。
  

 アルバム・タイトルの"Litanies"はLitanyの複数形でキリスト教用語。正教会で礼拝の重要な構成要素を指し、日本語は"連祷(れんとう)"だそう。詳しくはWikiをご参照ください。さらに音楽用語ではカタカナでリタニ日本では呼ばれる。定義がWikiでよく分からないが、この6種類の連祷形式に基づいた楽曲を指すようだ。

 つまり本盤でジョン・ゾーンはリタニの形式を取りヘリオガバルスを描いた。清廉潔白とは真逆のヘリオガバルスを皮肉るとともに、リタニの形式もゾーン流に改訂した。なんでも連祷とは輔祭(もしくは司祭)と詠隊(聖歌隊)が歌い交わす形式らしい。
 パットンのハードコアなシャウトと女性コーラスの清廉な掛け合いの大胆さがその表れ。楽器間のソロをやり取りするさまも、本形式かもしれない。最初はファイルカード的な急速場面展開と思って聴いてたが、リタニが理由の一つか。

 女性コーラスは拍子感の無い場面でもぴたりと揃って歌う。ゾーンのハンドキューか、もしくはガチガチに譜面だろう。ハーモニーは和音がきれいに変化しながら歌われるし。
 パットンのシャウトはヘリオガバルスの暴虐な幼児性と、傀儡な彼を支えた祖母ユリア・マエサと母ソエミアスを模してると聴く。さらにヘリオガバルスを嘲笑もしくは批判する人たちの象徴かと。(1)の終盤でささやかれる「ヘリオガバルス」の輪唱や(2)の後半で波打つ女性らの笑い声が意味深だ。

 冒頭からスピードと唐突な場面展開、鋭いベースやサックスの切り込み、無秩序なパットンの叫びと奔出するオルガンが溢れる。合間を縫う密やかで宗教的な女性コーラス。傍若無人と整ったアンサンブルを誇ったネイキッド・シティかと最初は思ったが。聴くほどに緻密な世界観とアレンジに惹き込まれていく。
 もちろん、タイトな演奏が合ってこそ。思い切り野太く歪ませたベースと、手数多く叩きのめしながらまったくブレないドラムのリズムが産む安定性は脅威だ。
 この強固なリズム隊が有ってこそ、上物のフリーキーなアドリブが生きる。変拍子の唐突な場面展開は編集かと思うほど。やはりすべて譜面かもしれないな。細かなアドリブの部分は別にして。

Personnel:
John Zorn: Alto Sax, Composer, Conductor
Mike Patton: Voice
Joey Baron: Drums
Trevor Dunn: Bass

Ikue Mori: Electronics
Jamie Saft: Organ
Martha Cluver: Voice
Abby Fischer: Voice
Kirsten Sollek: Voice

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