TZ 8318:John Zorn "Myth And Mythopoeia"(2014)

 近年にジョン・ゾーンが作曲した現代音楽集。お馴染みChippyの幻想的なデザインのデジパックやブックレットがきれいだ。それぞれの楽譜が一ページづつ載ってるのも、雰囲気が出て良い。録音時期はバラバラ、基本がライブ録音で(3)と(4)のみスタジオ録音。


 (1)は弦楽四重奏に超ハイトーンの女性ボーカルを載せたエキセントリックな響き。金属的なボーカルが無機質に響く抽象的なサウンドだ。記載された譜面は最終ページで5拍子4拍子7拍子とひっきりなしに拍子が変わるトリッキーなもの。
 5楽章に分かれてるようで、ブックレットには歌詞が掲載されている。ジョン・ゾーンのコラージュ性が前面に出た一曲で、場面がしばしば変わる。とっつきにくい作品ではある。ぼくがベルカント唱法を苦手なせいもあるが。
 今年の5月にゾーンが再演したときの映像がYoutubeにあった。


 (2)は宗教音楽の面持も漂わせる室内楽編成の楽曲。ライナーによるとウェーベルンを意識し、さまざまな音楽要素を混ぜて作曲したという。ブックレットは7拍子6拍子5拍子4拍子3拍子と、一小節ごとに拍数が減っていく場面の不明が掲載された。
 さらにグレゴリオ聖歌からバッハ、モーツァルトなどを踏まえ、キリスト教のキーワードを楽曲へ盛り込んでいるという。

 ライナーには以下のキーワードが記された。
(Introit/Kyrie/Dies Irae/Taba Mirum/Rex Tremendae/Confutatis/Lacrimosa/Sancus/Benedictus/Agnus Dei/Lux Aeternam/Libera Me/In Paradium)
 ぼくは不勉強で個々の言葉を上手く説明できないが、軽く検索するとそれっぽい言葉がいくつも引っかかる。たぶんクラシックとキリスト教の知識を持つ人には、この楽曲は違った魅力を見せると思う。キーワードだけ羅列しておく。
 楽曲は静謐でピアノとパーカッションの響きに揺れつつ、メロディの中心をつかもうとしてる間に、ふわふわと時間が過ぎていく。つかみどころをまだ聴きこめていない。

 (3)も変拍子の嵐。譜割はシンプルだが、猛スピードで演奏によりヴァーチュオーゾの作品となった。チェロとバイオリンの二重奏だが、譜面は多分チェロの音跳躍が激しいため、ト音-ト音ーヘ音の3列楽譜のスコアを掲載した。
 ドイツ系ユダヤ詩人パウル・ツェランの遺稿"時の屋敷"(1976)がタイトルの由来。この作品は麻酔無し歯科治療の直後にツェランが書いたという。ゾーンはそれを承知でこの楽曲を書いたとライナーにある。

 すると高潔な感情の高まりとも取れる高音の速いパッセージが、とたんに歯医者の機械や痛みに苦しむ歯ぎしりに聴こえてしまうのが不思議だ。楽曲そのものは猛烈な跳躍や掻き毟りが、特殊奏法の合間に現れる。高速一辺倒でなく、緩やかな場面もあるのだが。

 (4)はチェロ独奏曲のはずだが譜面は2段がずっと続ける。ライナーでゾーンは作曲のきっかけとして、とにかく奏者へプレッシャーを与える楽曲を目指したという。超絶技巧が必要な譜面が凶悪だ。
 掲載譜面は低音弦が時に重音で鳴りつづける。ほぼ同じ音の連続だが、時に上下して。変拍子の嵐の中、弓で低音を響かせ続ける。さらにフリーハンドの線がト音階を流れ続ける。ピチカートの指示も。聴いてる音から推測すると、弦を弾きながら別の指で違う弦をはじいてるようだ。
 
 聴いていてソロ演奏とは思えない。淡々とチェロが低音リフをばら撒く中、もう一人がゆるやかに弦を軋ませてるように聴こえる。書く方もやる方も、凄まじい。これは譜面見たほうが脅威性が分かりやすい。CDデザインの勝利だ。

 (5)は副題が「魔女のサバト用の12のシンプルなカノン」という。ピアノ三重奏の複雑怪奇な展開だ。譜面を見ても良くわからない。ピアノが3段、チェロが2段、バイオリンが1段の跳躍する場面が山盛りの譜面が掲載され、疾走するフレーズはデタラメでなく音を当て続ける。
 たぶんカノン構造が入り組んだ作品と思うが、ぼくの耳では聴き分けられない。騒然な音階が意志と制御で演奏されてることくらいだ。
 クラスターみたいな場面まで洗われるこの曲、やはり音だけより譜面有りの方が楽しめそう。

Personnel:
1 "Pandora's Box"
Ensemble :Arditti Quartet
(vc:Lucas Fels,Vla:Ralf Ehlers.Vln,Ashot Sarkissjan, Irvine Arditti)
Voice – Sarah Maria Sun

2 "Missa Sine Voces"
Conductor:James Bake
Ensemble :Talea Ensemble
(Alex Lipowski:per,Matthew Gold:Chimes.Nuiko Wadden:Harp, Stephen Beck:p,Matthew Ward:vib)

3 "Zeitgehöft"
Cello – Jay Campbell
Violin – Chris Otto

4 "Babel"
Cello – Jeff Zeigler

5 "Hexentarot"
Cello – Jeff Zeigler
Piano – Stephen Gosling
Violin – Chris Otto

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