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Henry Kaiser & Wadada Leo Smith 「Yo Miles!」(1998)

 手慣れた即興手法を用いて、素直にマイルスへの愛情を表現した。

 ヘンリー・カイザーとワダダ・レオ・スミスの双頭名義なCD2枚組。ノービートでからからに乾いた即興デュオかと思いきや。真逆で大編成による70年代電化マイルスのサウンドを、カイザーの即興仲間と繰り広げた。
 痛快にしてシンプル。特にひねりに拘らない。

 70年代マイルスは、彼の猛烈なパワーによる混沌が魅力だ。分かりやすいソロ回しは過去の遺物。ロックをジャズも混ぜ合わせ、濃厚なファンクを様々にばらまいた。
 本盤はカイザーが仕切ったアンサンブルに、マイルス役でレオを仕立てる。長めの尺も臆せず投入して、アルバムは2時間半越えの大作だ。
 気軽に聴くのは躊躇うボリュームだが、マイルス・サウンドを下敷きに構築と即興を行き来した。

 ダンサブルなファンクを追求ではない。たるっと酩酊したドラッギーさも、インプロ独特の緩さで表現した。
 録音はカリフォルニアで98年1月5~8日にかけて行われた。しかし参加ミュージシャンは曲によってまちまち。バンド・サウンドよりも顔ぶれ組み合わせの妙味を意識したか。
 エリオット・シャープ、ROVAカルテット、ネルス・クライン、ジョン・メデスキなどそうそうたるメンバーが入れ代わり立ち代わり現れた。
 レオはびっくりするほど、踏み外さない。マイルスの代役ってほど律儀ではないにせよ、むやみにフレーズをアウトさせず丁寧に吹いた。

 要するに、カイザーやレオの個性やクリシェを期待したらいけない。もっと本盤はストレートで、変化球やひねりは無いコンセプトである。
 完全コピーではないにせよ、むやみに奏者の突出したエゴを出していない。
 そのぶん物足りなくもある。マイルスの劣化コピーと取れなくもないからだ。しかし手練れの奏者たちによる、演奏は間違いなく確か。そのへんのバランスを取って、最終的には「聴きがいのあるマイルス礼賛盤」に仕上がったと思おう。

 本盤はマイルスの再現ではない。マイルスの創作物を題材に、90年代のインプロ手腕で再解釈した盤と素直に受け止めたい。
 エレキギターは聴こえるものの、カイザー自身もE#やネルス、クリス・ミュアを招いて自分を目立たせない。プロデューサー役に一歩控えた。
 
 ベースが強力だ。派手にミックスはされていないけれど、ぶりぶりと野太く剛腕で暴れる。
 奏者はマイケル・マーリン。シアトル拠点のロック・バンドSadhappyのメンバーで、ソロでも多数の作品をリリースしてる。
 完全なジャズ屋でないメンツをベースに配置して、グルーヴを硬くする作戦は見事に成功した。

 曲ごとにメンバーを変えるさまも好プロデュース。個々の曲に容赦がないため、アルバム全体が単調にならずバラエティさを持った。
 "Ife"や"Calypso Frelimo","Jack Johnson"はそれぞれ30分前後にもわたる。ライブ現場ならまだしも、CDでこれら長尺は聴くのにけっこう集中力がいる。

 つまりチラ見せで次々曲を披露でなく、やるからにはとことん曲と向かい合う企画だ。
 だから同一メンツでアルバム2枚を仕立てたら、なんだか単調になっていたかもしれない。

 なお垂れ流しが本題ではない。"Dark Magus"(1977)はエッセンスを集約して2(2)にまとめ、"On The Corner"(1972)も"Black Satin"として抽出して8分にまとめた。
 "Agharta"(1975)も12分に絞ってあのムードを元に演奏してみた、ってことなんだろうな。
 そのぶん"Jack Johnson"(1971)、"Get Up With It"(1974)や"Big Fun"(1974)をどっぷりって趣向。

 1-(3)はオリジナルかな。50年代風のアコースティック・ジャズなアレンジで、朗々と繊細な風景も描いてマイルスを偲んだ。
 アルバム最終曲はデイブ・リーブマンのマイルス追悼盤"Miles Away"(1995)曲をカバーらしい。
 完全にマイルスの作品に縛られない選曲で構成した。

 過剰さを恐れず、カイザーは本盤を作った。編集して1枚に収めたら、この濃厚大盛な迫力は出ない。 
 一回限りの企画だからこそ、カイザーは全力投入で本盤を作った。

 本盤を聴き込むならば、マイルスの各盤を聴いたほうがいい。カイザーやレオの代表盤に本盤がなることはない。
 しかし亜流と切り捨てず、しっかり向かい合って咀嚼する価値のあるアルバムだ。
 ちなみにこの企画はスタジオ録音に留まらなかった。ライブも積極的に行ったようで、Internet Archiveでは1999-10-21、2000-03-04、2000-09-01の3公演が聴ける。場所は全てフィルモア。メンバーは公演ごとに流動的だ。
 https://archive.org/details/YoMiles


Track list
Nök
1-1 Big Fun/Hollywuud 4:03
1-2 Agharta Prelude 13:04
1-3 Miles Dewey Davis III - Great Ancestor 11:01
1-4 Black Satin 7:56
1-5 Ife 35:33
1-6 Maiysha 8:17
Sankorẽ
2-1 Calypso Frelimo 25:40
2-2 Moja — Nne 10:12
Themes From Jack Johnson (34:21)
2-3 i Yesternow
2-3 ii Right Off
2-3 iii Interlude/Tune In 5
2-3 iv Willie Nelson
2-3 v Right Off
2-3 vi Spanish Key
2-3 vii Right Off
2-4 Wili (For Dave) 9:42

Personnel:
Producer, Overdub & Mixing Engineer - Chris Muir, Henry Kaiser

Trumpet - Wadada Leo Smith
Bass Guitar - Michael Manring
Guitar - Elliott Sharp (tracks: 1-4), Henry Kaiser, Nels Cline
Guitar, Electronics - Chris Muir
Bass Clarinet - Oluyemi Thomas (tracks: 2-3 i, 2-3 ii)
Drums, Percussion - Lukas Ligeti, Wally Ingram
Keyboards - Bob Bralove (tracks: 1-6)
Organ - John Medeski (tracks: 1-4)
Piano - Greg Goodman (tracks: 1-3)
Piano, Organ - Paul Plimley (tracks: 1-1, 1-5, 1-3, 1-6, 2-1, 2-3 i, 2-3 vii, 2-4)
Saxophone - Bruce Ackley (tracks: 1-2, 1-5), George Brooks (tracks: 1-4, 1-6, 2-1), Jon Raskin (tracks: 1-2, 2-3 vi), Larry Ochs (tracks: 1-2, 2-2, 2-3 iv), Steve Adams (tracks: 1-2, 2-3 ii, 2-4)
Steel Guitar [Lap Steel Guitar] - Freddie Roulette (tracks: 1-6)

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