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Mal Waldron 「on Steinway」(1972)

 感情より理知の比率を増した、スマートな即興。

 マル・ウォルドロンが日本のテイチクと単発契約でリリースしたフランス録音のピアノ・ソロ。ディスコグラフィを見ると、当時のマルはRCA Victor、Enja、Freedomなどさまざまなレーベルから作品を同時進行で出していた。

 本盤はスタインウェイを弾いたってテーマなのだろう。マルの経歴でテイチク原盤は本盤だけ。どういう経緯で録音に至ったのやら。
 
 収録曲は4曲。7分前後でA面は3曲、B面は18分の長尺1曲でまとめた。粘っこくも雄大、グルーヴィーな熱量がマルの魅力と思う。でも本盤はどこか冷静。燃えあがらない。ブルージーな要素も、敢えて長輝ようだ。
 即興的に演奏は展開していくが、作曲っぽい場面もしばしば。特にA1はフレーズの場面展開が唐突でグッとくる。

 A2はバド・パウエルへの捧げものか。A3はサティをタイトルに織り込んだ。他にショパンを意識した曲もあるという。A1とB1、双方にそんな要素あり。B面がそれと思うが、ときどき流麗なフレーズが現れる。

 A2は左手の強力なオスティナートを軸に、右手がぐいぐい攻めてくる。本盤でもっともマルのイメージに合った演奏。でももう少し弾けてくれてもいいのにな。
 奔出させずにもごもごと、手の中で情感をこねくり回してる雰囲気を感じた。

 A3はジムノペディやグノシエンヌに代表される、サティのロマンティックで音数の少ない雰囲気を取り入れた。しかし単なる形式コピーではない。左手は強力に和音を押さえ、右手はきらきらと跳ねてアフリカンなパワーを煌めかせた。
 本盤のなかでA1が一番鮮烈だと思うが、A3もとても美しい。テンポを溜めて揺らし、時間間隔を自在に操っている。

 ブルージーさをほんのり香らせるが、クラシックに通じる優美さと荘厳さを表現したのがB1。ファンキーなフレーズを奏でつつも、ちょっと視点をずらしたら気高い姿勢に変わっている。
 整然端正な演奏ではない。けれども情感より知性で音楽を制御してる風に聴こえた。

 冒頭に書いた通り、この盤は全般的に理知に寄ったピアノだ。つまらなくはない。じっくり対峙すると、聴きどころはいっぱいある。
 ワンショット契約で終わらずもっと煮詰めてたら、マルの新境地が産まれてたかもしれない。緩急清濁を取り込む懐の深さが、うっすら伺える。
 本盤はマルの要素から一つを抜き出したもの。本盤の数カ月前に録音したピアノ・ソロ"Blues for Lady Day"(1972)と聴き比べたら、本盤での穏やかなムードがよくわかるはずだ。


Track list
A1 Portrait Of A Bullfighter 7:25
A2 One For Bud 6:22
A3 For Eric Satie 6:40
B Paris Reunited 18:50

Personnel:
Piano – Mal Waldron
Recorded May 11, 1972 - in Paris, France by Carson Records.

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