TZ 8098:Aya Nishina "Flora"(2013)

 傑作。これは多くの人に聴いて欲しい。声の美しさをのびのびと幻想的に表現した。
 NYを拠点に活動する日本人作曲家、AYA Nishinaの1stアルバムは、声の多重録音を武器に、さまざまなアプローチで寛げる幻想的な世界を描いた。2010-12年にかけて一曲づつ録音した作品集になっている。
  


 AYA Nishinaは坂本龍一が2012年にNY Stoneでオーガナイザーやった時に共演もした。その際のライブ・プログラムは、ここで見られる。大友と坂本や、ジョン・ゾーンと坂本の共演もあったのか。一連のライブ、録音って残って無いものか。  
 本盤でNishinaは作曲家に徹し、歌ってはいない。Becca Stevensを初めとして、そうそうたる顔ぶれのジャズ系歌手を集めた。コーラス隊では無く歌手を並べて極上の多重アカペラを作り上げた。ヒーリング的な響きに見せかけて、鋭い尖りを伺わせるのが本盤での特徴だ。

 全編に渡りリバーブ満載にぱっと聴き感じるが、実は薄いエコー感。倍音含めて丁寧に歌声を重ねてるように感じた。ヘッドフォンだと個々の声はドライな響きだが、多重録音による繊細かつ多層的なボーカル・アレンジが、リバーブに頼らない厚みと奥深さを表現してると思う。
 それぞれの楽曲を作るきっかけは、ライナーに丁寧な解題が記載されている。

 (1)はBecca Stevensの多重録音。白玉と呟きの猛烈な重なりが美しい。讃美歌的な透明さと、ハーモニーを積んだうえで平歌を断片で載せていく吹かしっぷりがきれいだ。
 一人の掛け合いが静かに、着実に雰囲気を高潔に盛り上げていく。
 福島生まれで(高村光太郎"智恵子抄"の)高村智恵子がテーマ。さらに「彼女が今もし生きていたら、どう感じたろう?」と東日本大震災の思いを重ねた。

 (2)はアメリカの抽象画家Agnes Martinの作品"White Flower"がテーマ。繊細でミニマルな画風に惹かれた、という。
 Becca StevensとNina Rileyの二人が幾声も重ね、揺らぎと厳粛なムードを作った。和音や声の出し方にブルガリアン・ボイスに通じるものを感じた。複雑に声が絡み合い、高らかにメロディが現れる瞬間の高まりが美しい。中盤での密やかな白玉の響きも良いな。ぜひヘッドフォンで大音量で聴いて欲しい。

 (3)は繭のように成長と水のごとく再生、二つの夢幻なテーマを結び合わせた作品。
 Jen Shyuの多重録音だ。ちょっとひねるフレーズを微妙にずらし、モアレのような風景を描いた。この曲では和音の響きも良い。
 さらに倍音をダイナミックな音の大小でミックスし、リバーブの深い響きを声の多重録音で表現したさまが最高だ。この楽曲は特に好き。

 (4)は2012年にNYのホイットニー美術館で草間彌生展を見ているときに、浮かび上がってきたイメージがきっかけという。その過程をライナーへNishinaは活き活きと記している。さまざまな作品を見ているときにラヴェル"ボレロ"が脳裏で鳴り出し、"Infinety Net"を見ていて最高潮に高まる。そこでたどり着いた作品が"水上の蛍"だった、という。
 Gretchen Parlato、Becca Stevens、Monika Heidemannの三人が声を重ねた。バッキングとハミングが、ポップ・ソング風に奏でられた。しとやかな女性ボーカルの魅力を、丁寧に紡ぎあげた佳曲。

(5)は米現代芸術家Chris McCawの作品"Sunburn"をNYのYossi Milo Galleryで見たのがきっかけ。曲構造にもさまざまな技巧を施したとある。
 Sara Serpaの多重録音で、残響の使い方が絶妙だ。ブレス位置のズラシなのか、背後の白玉が猛烈にうねる。ハイトーンの和音が気高く響き、宗教性の薄い荘厳さを演出した。音響的な快感と、沈み込む瞑想めいた雰囲気による静けさの双方が表現された。

(6)は歌モノ。Gretchen Parlato、Becca Stevens、Monika Heidemann、Sara Serpaと本盤に参加した歌手の過半数が声を重ねた。これも東日本大震災がテーマ。仙台生まれというNhisinaゆえ、ひときわあの震災へ思いが高まるのだろう。
 穏やかな残響を多重ハーモニーが構築し、ゆったりとシンプルな歌詞が幾度も繰り返される。センチメンタルに流されず、清らかな静謐さを演出した手腕が素敵だ。

Personnel:
Becca Stevens: Voice
Gretchen Parlato: Voice  
Nina Riley: Voice
Sara Serpa: Voice
Jen Shyu: Voice
Monika Heidemann: Voice

 


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