TZ 7310:John Zorn "Filmworks IV: S/M + More"(1997)

 低予算の映画音楽を中心に、比較的じっくりと聴ける作品をまとめた。特徴はアンビエントの抽象性と、酩酊する揺らぎだ。(4)の綺麗なピアノ作品が、本盤の構成をきゅっとまとめた。BGMに最適。ノイズ寄りの作品もあるが、不思議と耳を邪魔しない。
 ジョン・ゾーンの見事なバランス感と幅広さに感じ入る一枚だ。


 (1)はKim Su Theiler監督"Waste"(1995)用の音楽。映画については詳しい情報がわからない。楽曲は静かなインスト曲。のちにジョン・ゾーンが何作も出す、たるっと寛いだ酩酊を誘うラウンジ音楽に通じる作品だ。きゅうっとピッチの上がるパーカッションの音色が、コミカルさと異次元感を誘った。
 ミニマルな展開でマーク・リボーとロバート・クインの二人が掛け合いのように同じ旋律を重ねていく。楽曲が進行性しないため、ぐるぐると世界は軽やかにねっとりと回り続ける。ライナーでゾーン自身は楽曲を"ヒプノティク・トランス(催眠性恍惚)"と言い得て妙な表現をした。

 ライナーでゾーンが本楽曲の経緯を書き記してる。もとは広告代理店Weiden and Kennedyに宣伝用音楽として提供が切っ掛け。しかし「暗すぎる」と没になる。そこで3分あまりのアップテンポのバージョンを製作した。これは"Filmworks III: 1990–1995"の(20)で聴ける。断続かつハードコアな小品で、冒頭のメロディ断片にうっすらと片鱗あるかも。言われるまで共通性に、まったく気づかなかった。さらに元のロングバージョンを自分の愉しみとしてゾーンが録音したのが、これ。その後にKim Su Theilerが耳にして、彼女の映画に採用へ至ったという。

 (2)はMaria Beatty監督"Elegant Spanking"(1994)用。レズビアンのSMをテーマの白黒映画らしい。ゾーンが映画を見て、即座に音楽提供を提案したとライナーにあり。なおゾーンはのちに彼女の作品"Belle Du Nature"(2009)にもひときわ素晴らしい音楽を提供した。"Filmworks XXI"(2008)でそちらは聴ける。
 この楽曲も(1)に通じるぼんやりと掴みづらく、浮遊する空気が漂った。ドラッグってこんな感じだろうか。Jim Puglieseのビブラフォンやビブラート掛かったウッドブロックの響きが、空気を緩やかに動かしてる。弦二本にハープ、パーカッション編成で、リズムはあるがふわふわ抽象的な音楽。14分強、うっとりと浸れる。ときおり現れる、ふっとした全休符に不安をかきたてられつつ。

 (3)は激しいノイズで幕開けの、ゾーンによるサウンド・コラージュ。テープ編集ダーク・アンビエントな音像を作った。9分強の時間で通底するテンポは無い。次々に異なる編成のセッションをカットアップでつないだ。ハードコアなエレキギター数本のノイズから、無拍子のドローンや密やかなリズムに弦楽器や尺八のソロまで幅広い。リバーブどっぷりの空間と、ドライな鋭さの双方を混ぜ合わせた。
 サンプリングじゃなさそうだが、過去の別作品のボツテイクを繋ぎ合わせかな?そのため契約上でクレジット出せない、とか理由があるのかも。 Jalal Toufic監督の初作品"Red & Green"に提供された。レバノン内戦がテーマという。

 (4)は黒田京子のピアノ・ソロ。録音場所はRomanisches Cafeで、1985年に西麻布で開店らしい。既に閉店かな?他にFred Frith"Step Across The Border"(1990)の一部、や高柳昌行と井野信義"Reason For Being"(1992)も同じ場所で録音のようだ。ライブもするカフェだったのかな。

 柔らかいタッチだが、ピアノを深く鳴らす。黒田らしいロマンティックな演奏。テーマをゾーンが作曲し、あとは黒田の即興だろうか。全て譜面のようにも聴こえる。美しい端正な音楽だ。なぜかこの音源は黒田のディスコグラフィーに乗っていない。単なる失念だけかもしれないが。

 廣木隆一監督"魔王街・サディスティックシティ"(1993年)に提供された。これは半村良原作で田口トモロヲ他が出演。出演者が豪華だが、18禁か一般公開かは不明。ビデオオリジナル作品かな?ゆうばり国際冒険ファンタスティック映画祭ビデオ部門グランプリを受賞。


 (5)はM.M.Serraと(2)のMaria Beattyふたりが監督したレズビアンSM映画"A Lot Of Fun For The Evil One"(1994)に提供。予算が無く3時間で録音ミックスまで終わらせたとある。数十枚のCDからサンプリングを組み合わせたサウンド・コラージュ。
 ビート感はあるがメロディは希薄で、ゆるやかなノイズっぽい展開だ。音楽は存在を主張しすぎず、しかし厳然とそこにある。そんな絶妙なバランスを保った作品だ。抽象の塊だが、わずかにポップなハードコア・アンビエント。メロディや展開がないのに、不思議と親しみやすい揺らぎを感じた。

Personnel:
Marc Ribot (1) - guitar
Robert Quine (1) - guitar
Anthony Coleman (1) - organ
Chris Wood (1) - bass
Cyro Baptista (1) - percussion
Joey Baron (1) - drums
Carol Emanuel (2) - harp
Jill Jaffee (2) - viola
Erik Friedlander (2) - cello
Jim Pugliese (2) - vibes, percussion
黒田京子 (4) - piano
John Zorn (3,5) - sound design, keyboards

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