TZ 7391:John Zorn "Enigmata"(2011)

複雑な音楽構造を、シンプルなロックのダイナミズムに埋めた傑作。
箔押し浮彫りの凝った紙のダブル・ジャケットな本作の標題は、ナチスの複雑な暗号機の名が由来だ。


歪んだエレキギターとベースのみで12曲の楽曲を並べた。音楽的には十二音技法+即興で、レーベルのあおり文句は「キャプテン・ビーフハート meets シェーンベルク」。


ライナーにはラテン語で「Res ipsa loquitur Sed quid in infernos dicit(物質は自らのために語る、だがいったい何を言ってるんだ?)」と記載あり。ラテン語の原典は辿れなかった。けっこう有名な言葉らしいが。
09年の9月にゾーンは作曲のためにまとまった時間がとれ、11月には2010-11年にリリースする12枚のアルバム(実際は15枚)のアイディアをまとめた。本盤はそのうちの1枚にあたる、とライナーへゾーンは丁寧に書き記した。

とにかくアイディアの勝利だ。無味乾燥になりがちなセリー音楽が、ディストーションまみれのエレキギターにより、驚くほど親しみやすいノイズ・ロックになった。
掻き毟られる変てこなメロディはギターの歪みで、ワイルドもしくはパンキッシュな雰囲気で容易く耳へ馴染む。
あらゆる楽器の中で、ディストーション・ギターほど耳馴染みの良いノイズは無い。ハードロックを筆頭にさんざん聞かされたために、たいがいのメロディはディストーションのフィルターを通過だけで、なんとなくわかった気になってしまう。

実際には精妙に作曲されており、テーマからインプロの継ぎ目もわかりづらい。ミニマルにフレーズ繰り返すとこが以外にインプロかも。中心点やつかみどころ無いメロディが、エレキギターで延々と奏でられる。

野太いベースが輪をかけた。ベースとギターのデュオは二本の太い縄のよう。和音よりも旋律の絡みで進行感を出す。この辺はMasadaを筆頭とした、いかにもゾーンっぽいアプローチだ。

いかんせん音色が一定で、アルバム全体を聴いてたら途中で変化が欲しくなる。
すると(8)で、歪みを抑えたブライトな音色のアンサンブルが現れるわけだ。ゾーンはとことん用意周到、スマートな作曲術を聴かせる。

ぼくはこの音楽の構造は読めない。無機質なメロディが卓越した技巧で演奏され、歪んだエフェクタの音色でがっつりと肉体的に仕上げたことだけわかる。
最初は退屈に聴こえ、次にギター・ノイズのワイルドさにごまかされる。繰り返し聴くうちに、複雑で精妙な音楽へグイグイ惹かれていく仕組みだ。じわじわとゾーンの手管に絡め取られていく。何度聴いても、聴くたびに、この盤へ惹かれていく。

Personnel:
Trevor Dunn - Electric 5-string bass
Marc Ribot - Electric guitar

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