Fred Frith/John Zorn"The Art Of Memory"(1994)

 Tzadikのフレッド・フリス/ジョン・ゾーンの50歳記念ライブ・デュオ盤を感想書く流れで、ひさびさに聴きかえした。こんなに良かったのか、この盤。
 本盤はアルバム1枚としては二人の初デュオ作。デレク・ベイリーのIncusレーベルから発表された。


 後述するがアイディアに満ちた盤だ。しかし即興ゆえの構成無しが仇となり、間口がえらく狭い盤に陥った。奏法を想像しつつ、ストーリーを敢えて読もうと試みながら聴いたら、超絶技巧の嵐と豊富な物語性に圧倒される。

 全8曲のインプロ・デュオ。全てライブ録音とある。前エントリで記したように、このデュオ名義で共演テイクは山のようにある。音盤でも共演歴は1979年まで遡る。しかし双頭名義のアルバムは驚くほど少ない。以下の4枚のみ。

1994:The Art Of Memory  【本盤】
2004:Fred Frith John Zorn
2006:The Art Of Memory II
2010:Late Works

 ここまで競演を重ねると、いざデュオ名義って色々と作りにくいのかもしれない。
 細かく聴いてると、似たような曲調でも使うテクニックは違う。アイディアの多彩さに唸った。テーマは高速抽象ノイズのばら撒き、か。
 ゾーンは無造作にサックスの超絶技巧を披露し、ノイズとメロディを行き来した。だからフリスがどれだけ多様性出すかで、それぞれの楽曲は焦点が定まる。フリスはいわゆるヴァーチュオーゾなテクニックひけらかしでなく、エフェクタを使い「あまり響かせぬギター」に特化した。ある程度デレク・ベイリーのアプローチである、ルールの枠はずしも意識してそう。

 (1)は高速タンギングのアルト・サックスと、ワウを断片的に使うエレキギターの対話。連続性をあえて断ち切り、短いフレーズを重ねる。しばしば生まれる、瞬時の空白。メロディとノイズを行き来するゾーンと、変則奏法を混ぜめまぐるしく細切れ旋律を撒くフリス。

 だが(2)でフリスはリズミックな刻みに変化。ゾーンがフラジオから高速メロディまで執拗にばら撒くスピードあるセッションに転じた。中盤でいったんテンポを下げ、サイケなムードに向かう。ベイリーと異なりフリスは抽象フレーズを弾きつつも、どこか強固な構成感を残してる。
 確かに(1)が二人のパブリック・イメージな楽曲と思う。しかしせめて本曲で始めたら、本盤の評価がさらに高まったのでは。こっちの方がポップだもの。
 
 (3)でゾーンはサックスのついばみに。フラジオを精妙に操る超絶技巧にしびれる。フリスは拍を回避しつつも、ゆるやかに周期性ある演奏だ。妙に奥行深いエコー感のエレキギターだ。リバーブかけてボディや弦を叩いてるかのよう。
 中盤でゾーンが循環呼吸ぎみにフレーズを繰り返し、若干フリスのテンポが上がった。
 幻想的な雰囲気の(4)は名演。どっぷりリバーブを深めたギターをディレイで飛ばし、さらに細かいブライトな音符の短列をフリスは提示した。ゾーンは双方の世界観を瞬時に行き来する。ロングトーンとオーバートーンの細密の間を、あっちに行ったりこっちへ飛んだり。
 音像全体がリバーブとドライの振り幅広く、ノービートで拍頭の感覚が無いため酩酊性が強調される。サックスかギター、フレーズの拍頭を探しても律動は無い。小節線なしの細長い世界だ。

 (5)も二人のパブリック・イメージを象徴する楽曲だ。無造作に二人が音を出し、取り留めなく流れてく。ここではサックスがロングトーンで係留し、ギターが刻みで煽る対比構造だ。しかし互いへつられず併行してく。小音量のロングトーンは循環呼吸。ドローンで音が響き続けた。ときおり揺らぐピッチが、暗闇を連想した。

 ギターのぴょぉんと鳴るコミカルな響きは、なんの音だろう。弦を無秩序にはじく音に混じる。ここでの主役はフリス。ゾーンは白玉の連続で強固に存在続けるが、ワウとアームっぽい揺れるギターの響きが、曲の中で小さく跳ねつづけた。
 中盤からゾーンが低音倍音をたっぷり含んだ轟音ロングトーンに切り替える。併せてフリスもザク切りギターへ変化した。
 
 前曲から切れ目なしに聴こえる(6)は、サックスを鳴らさず強いブレス音のみを響かす奏法。吸い込むような音が連発し、空気を荒々しく振り回した。楽器をピクリとも鳴らさず、ブレス音だけ響かせるテクニックが凄い。
 フリスは爪弾きとループかな?人の声みたいなサンプリングがうっすら聴こえるが、エフェクタ操作でのギター・ノイズだろうか。
 ゾーンが超高速の猛烈タンギングから循環呼吸フレーズに切り替えるあたりで、フリスも刻み度合いを増す。グイグイと振り回すギターの出音は、もどかしい抽象パターンだ。

 (7)も曲調は前曲と似てる。ただしフリスのギターが若干、強度を増した。完全フリーのはずだが、ときどきフレーズの切れ目が二人で合い、すいっと場面転換の強調なとこが楽しい。
 フリスのアルペジオっぽいフレーズはひしゃげて断続的だ。プリペアードなの?弾いてる音の他に、違う音も聴こえる。ゾーンが横で素早く吹き続けてるため、耳が混乱していなければ。
 リバーブ強調フレーズにフリスが切り替えた終盤で、ちょっと世界は混沌に向かう。

 アイディアは近しくともクッキリと鳴る爽快感な(8)。ワウとリバーブを小刻みに切り替え、単発フレーズをフリスは撒く。ゾーンはオーバートーン祭り。ひとときも休まずに高次倍音を奔出させた。
 終盤で緩やかに美しいフレーズをゾーンが吹き、いっきに世界の風景が明るく輝く。
 次の瞬間、ノイズを混ぜるとこもゾーンなのだが。

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