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John Zorn 「News for Lulu」(1988)

 モダン・ジャズの骨格を外して、クールに仕上げた象徴的な作品。

 ジョン・ゾーンの本作は入門編に最適。委細は後述するが、前衛的ながら適度に聴きやすく、なおかつゾーンのキャリアでも重要な位置を占めるプロジェクトだから。

 なぜかゾーンは原盤権を買い戻さず(買い戻せず?)、TZADIKから再発が無いままだった。一時期は廃盤でずいぶん入手しづらかったが、HatHutからボートラ付きで再発が行われた。そのCDも廃盤で音盤だとプレミア値がついてしまってるが、配信が行われてるため、今ではだいぶ入手性が良くなった。

 とはいえ権利の問題か、再発盤でジャケットが変わってしまったのが残念。オリジナル盤の映画から引用したポートレートはデカダン趣味を微かに香らせて、とても本盤へ似合っていたのに。
 なお元のジャケットは映画"Pandora's Box"(1929)に出演したLouise Brooksの写真だ。さすが若い時に映画マニアだったゾーンならではのチョイス。

 本盤はモダン・ジャズで作曲家にスポットを当ててトロンボーンとギターにサックスと言うトリッキーな編成で取り上げた。
 選ばれた作曲家はケニー・ドーハム(1,5,11,17,20)、ハンク・モブレー(2,7,15,19)、フレディ・レッド(3,8,13)、ソニー・クラーク(4,6,9,14,16,18)。
 一曲は3~5分。何十小節もアドリブを取り続けたモダン・ジャズに倣わず、手短に20曲を一気にばらまいた。この精緻な勇ましさが本盤をキュッと締めている。

 だれもがハード・バップの歴史で名前が上がる人だが、いわゆる代表的なミュージシャンではない。選曲も本盤をきっかけに遡るとわかるのだが、彼らの代表曲をスタンダード的に取り上げたのではなく、ゾーンが音楽的に興味を持った楽曲を選んでいる。
 つまりジャズの一部の側面である「有名曲を取り上げ、ソロで解体/自己表現する」よりも、「カバーの選曲で自分の審美眼を示す」って志向に軸足を置いた。
 
 ゾーンのディスコグラフィーで見ると、オーネット・コールマンをダブル・トリオでパンキッシュかつスラッシュ風に再表現した"Spy vs Spy"(1989)は本盤の翌年。
 ピアノ・レスの双頭二管なマサダはもっと先で94年に稼働した。
 ソニー・クラークのメモリアル・カルテットで"Voodoo"(1986)が本盤の2年前。

 すなわちフリーキーなサックスの軋みで暴れ、ゲーム・ミュージックで即興のコントロールをさまざまに実験した時代を経て、モダン・ジャズの再評価を試みたユニットのあと、おもむろに自らの仕切りで本盤へ至ったことになる。

 ちなみに本盤同様にビル・フリゼールと共演したネイキッド・シティの稼働も、本盤と同じ88年。同時発生でゾーンはジャズへ切り込んだ。凝縮をネイキッド・シティで。削ぎ落しを本盤で。
 そしてそれらを融合させ、"Spy vs Spy"で破裂させたあと、コード楽器を廃したマサダへゾーン流の結実させた。そんな流れになる。

 フリゼールが後にすごく大物になったから、本盤の顔触れはゾーンとフリゼールの共演って、後追いだと目をむくけれど。元々はもう一人の共演者、ジョージ・ルイスも同世代ながら気を吐く存在だった。
 本盤の前に"Yankees"(1982)で共演すみ。ある程度気心知れた仲と思われる。後年にはゾーンとルイスが共演のイメージはあまりないけれど。
 TZADIK盤"Sonic Rivers"(2014)でワダダ・レオ・スミスにゾーンとルイス、のように全く無縁には鳴っていない。
 
 本盤はギターが和音も使う一方で、リズムとメロディの対比って構図ではない。トロンボーンもベース役を必然的に受け持つが、対等の関係だ。やたらゾーンのサックスが目立つのは、音楽的うんぬんと言うよりバンドのリーダーシップや力関係のせいだと思う。

 なぜトロンボーンを選んだのか。人脈的なこともあったろうが、ゾーンは本盤でディキシーから始まるジャズのスタイルを再構成したかったのではないか。
 本盤で演奏されるジャズは、いわば空中戦。どっしりドラムが腰を据えリズムを刻むスタイルではない。その気になったらマーチング・バンドのように歩きながら演奏もできる。

 やわらかく音程がもやけるトロンボーンは、チューバほど武骨に動かない。軽やかに、しかしねっとりと低音が溢れる。
 フリゼールのエレキギターはサスティンを利かせながらも、ディレイなどエフェクトは最小限。ブライトな音色で軽やかにメロディを紡ぐ。ゾーンもフリーキーな技はほとんど使わず、ストレートにサックスを吹き鳴らした。

 フリゼールもルイスもゾーンに遠慮してるわけじゃない。それぞれが破壊でなく構築を意識したまま、自由に即興のフレーズを奏でていく。

 三人のアドリブが同時発生的に溢れる。しかしピアノやドラムが無いせいで、音像はクリア。整理され寂し気な涼やかさを、美しく表現した。
 アドリブが並行進捗して、抜けのいい音像がまさにマサダ的だ。一通りゾーンは本盤で試してみて、一般ウケにはリズム隊が必要と判断してマサダの編成にしたのだろう。

 変拍子やフリー・リズムを積極的に取り入れていないが、ハード・バップの4ビートから解放された本盤のアレンジは、とにかく自由だ。どこにも向かえる。
 けれどある意味安易なフリー・ジャズに走らず、インテンポにとどまり続ける制約が産む美しさが、最大の魅力だろう。奔放さは開放的だが焦点がぼける。その点、本盤はぴしりと狙いが定まった。

 スタジオ録音ならではの緊張感が、本盤をひときわ美しく輝かせた。本盤の最後数曲はライブ録音だが、それらはステージでの躍動感へ軸足が若干置かれてしまい、少し隙や崩しが目立つ。
 本盤だけが、ジャズが持つ孤高の冷徹さをきっちりと描いた。ダンサブルさ、ファンキーさを敢えてそぎ落とし、バシッと決めたスタイリッシュな魅力を、最小限の編成で鮮やかに披露した。

Track list
1 K.D.'s Motion 3:22
2 Funk In Deep Freeze 4:31
3 Melanie 4:01
4 Melody For C 4:26
5 Lotus Blossom 4:08
6 Eastern Incident 4:04
7 Peckin' Time 3:13
8 Blues Blues Blues 4:17
9 Blue Minor (Take 1) 3:43
10 This I Dig Of You 3:13
11 Venita's Dance 3:23
12 News For Lulu 4:07
13 Olé 3:47
14 Sonny's Crib 5:22
15 Hank's Other Tune 3:52
16 Blue Minor (Take 2) 3:26
17 Windmill 0:40
18 News For Lulu 4:19
19 Funk In Deep Freeze 3:29
20 Windmill 1:03

Personnel:
John Zorn: alto saxophone
George Lewis: trombone
Bill Frisell: guitar

Recorded DIGITAL two-track live at Soundville Recording Studio Lucerne on 7/28/87.
Tracks 18 to 20 recorded DIGITAL two-track live at Jazzfestival Willisau on 7/30/87.
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