TZ 7108-2:John Zorn "Bar Kokhba"(1996)

 満を持して96年に発表。2枚組の大作で、Masadaの方向性が拡大する象徴となった重要な盤。

 二時間にわたりたっぷりと、Masada Book1の変奏集が聴ける。
 今聴いても、いぶし銀の落ち着きと溢れんばかりなアイディアの奔流が併存する、バランス感覚が素晴らしい。ジョン・ゾーンの用意周到さと、緻密なコンセプト作りに圧倒される名盤だ。色んな人に聴いて欲しい。
 ジョン・ゾーンの入門編にぴったり。二枚組のボリュームは聴きとおすのにハードル高いかも知らんが。じわじわと、収められた音楽の良さが耳にしみこんでくるはず。

 そもそもMasadaは4人組のジャズ・コンボ。それまでアヴァンギャルドの色が強かったジョン・ゾーンが実に分かりやすいアレンジで、クレツマーの切ないメロディと熱いジャズを見事に融合した。
 だがゾーンはMasada初期から本盤のコンセプトがあった。その証拠が、本盤の録音時期。Masadaの最初のスタジオ録音から半年後の94年8月の段階で、既に本盤は録音が始まっていた。さらに翌年の12月、翌々年の96年3月に録音を足し、おもむろに96年リリース。Masada本体は6thアルバムまでリリース済みのタイミングだ。

 これはゾーンがMasada本体を大切に育て、認知が進んでから"Bar Kokhba"の発表に踏み切ったと考える。あくまでゾーンはMasadaの作曲集をバンドに寄り添わせず、もっと幅広い小編成アンサンブルに向いた作品集だ、と一段高い視点で構想した。

 本盤は多数のミュージシャンが参加したが、全員が同時演奏ではない。順列組合せの、もっと小さな編成の楽曲集だ。ちょっと見づらいが、discogのこのページで楽曲ごとの参加者がわかる。

 ゾーンは演奏に参加せずアレンジに徹した。たぶん指揮もしてない。譜面渡しだろう。ピアノやギターというMasadaに無いコード楽器も投入したが、和音よりもメロディが絡み合う単音同士の和音構造がアルバムから伝わる。
 Masada本体からデイブ・ダグラスとグレッグ・コーヘンが参加。だが一部の曲に参加しているのみだ。あくまで本盤はMasadaの別動隊では無く、Masada Book1の位置づけ。
 だからぼくは本ブログでMasada関係を書くとき、本盤と同趣旨の"The Circle Maker"(1998)も加えた12タイトルを、Masada Book1シリーズの、「正典」としてる。

 だが本盤リリース当時、そんなことは分からない。あくまでMasada本体を基準器として聴いていた。そこでの愉しみはいくつもある。
 Masadaの楽曲を、いかにアレンジするか。本体より何となくテンポがゆったり聴こえ、大人に感じた。ぼくは当時ラウンジ要素のゾーンをあまり聴いておらず、高速フリーキーでスラッシュ路線とは違った本盤の楽曲アプローチが新鮮だった。ゾーンが円熟したか、と思ったくらいだ。
 実際はフリーなフレーズも、そこかしこに聴こえる。そう、Masada本体も含めてフリーな奏法すらもメロディアスに巻き込んでしまう、茶色く煙った楽曲のパワーがMasadaの魅力の一つだ。

 さらに本盤では数曲を違うアレンジで聴き比べる楽しさも、Masadaで録音してないレパートリーを聴ける刺激もあった。
 とくに印象深いのが後者だ。ぼくがMasada見たのは99年。Masadaライブ音源Live in Taipei 1995 (1998)が出るのは、本盤"Bar Kokhba"の2年後だ。

 ゾーンは実に丁寧なアルバム作りをしてる。ライブに触れた人たち以外は、ゆっくりとMasadaのコンセプトがアルバム群からしみこんでくる。
 まず本体のMasada。本盤が挿入され、小編成アンサンブルの可能性に気づかされる。さらにMasadaの本体が復活し、改めて"The Circle Maker"で多様性を出す。
 スタジオ群が完結したところでライブ盤を連発。Masadaのスピード強調を、改めて聴き手へ刻み込む寸法だ。実に演出が整ってる。

 Youtubeで気軽に触れられる今の人にはわかるまい。アルバムのみが作品を聴ける全てだった当時、ぼくは本盤を繰り返し聴きながら、まだ見ぬMasadaの幻想を思い描いてた。 別に99年がMasadaの初来日じゃないから、単に僕は当時、ライブ行く発想なかっただけだが。当時のぼくの感覚を"LIVE IN MIDDELHEIM 1999"にひっかけて書いた感想は、こちら。若書きで恥ずかしいが、まあいいや。

 そんな収録曲をちょっと整理する。25曲収録だが、別アレンジ再演あるため実際は23曲が登場。うち11曲がMasadaでスタジオ盤あり。
 だが本盤リアルタイム換算だと7曲まで減る。残り3曲は、本盤が出た後にMasada盤がリリースされた。つまり半分以上が新曲だってことだ。

 その他、Masadaのスタジオ盤へ未収録な楽曲たちも、非常に細やかな再演のリリースを、ゾーンは施した。
 今でも本盤でのみ聴けるのが4曲。"Maskil"、"Mishpatim"、"Mo'ed"に"Shear-Jashub"。
 "Gevurah"本盤で初登場だが、ただし"Live in Taipei 1995"(1998)に収録。つまりMasadaのライブ行ってたファンには感激の収録だったろう。
 "Bikkurim"は"Masada Guitars"(2003)まで未発表。"Nefesh"はずっと本盤のみ収録だったが、初期MASADAアウトテイク集の"Sanhedrin"(2005)で、実に9年後にMASADA版が発表された。

 "Nezikin"や"Socoh"はしばらく本盤のみだったが、"Masada Recital"(2004)でさらりと再演された。"Rokhev"も"Voices In The Wilderness"(2003)で再演。
 時間を置いた再演リリースが、マサダの世界を網の目のように紡いでく。

 楽曲アレンジも多彩だ。あくまでテーマとして自由にソロを遊ばせる曲も、逆に全て書き譜みたいな丁寧にメロディなぞったアレンジもある。繰り返し聴くほどに、さまざまな思いが溢れる。本当に良い盤だ。

Personnel:
Greg Cohen: Bass
Anthony Coleman: Piano
Dave Douglas: Trumpet
Mark Dresser: Bass
Mark Feldman: Violin
Erik Friedlander: Cello
David Krakauer: Clarinet
John Medeski: Organ, Piano
Marc Ribot: Guitar
Chris Speed: Clarinet
Kenny Wollesen: Drums

関連記事

コメント

非公開コメント