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Masada 「2:Beit」(1994)

 名曲(1)を収録して、入門編に最適な2ndアルバム。

 録音日は1st"Alef"と同じ。アルバム・コンセプトの違いもパッと気づかなかった。収録曲とアルバムの流れを意識しながらちりばめたってことか。

 マサダはジョン・ゾーンの活動集大成なバンドだと、最近は思い始めている。発売当時にゾーンはペインキラーを稼働中だったが、「いつまでもハードコアではない」と考えたと想像している。
 ジョン・ゾーンは1953年産まれだから、本盤時点で41歳。不惑を迎えて歳の取り方を意識したのではないか。

 なお他のメンバーはグレッグ・コーエンが1953年、ジョーイ・バロンが1955年。ほぼ同棲題のメンバーでリズムを固めた。
 ところがグレッグ・コーエンが1963年。一回り若い。この時点で31歳。抜擢、だろう。
 気心知れたリズム隊で安定を確保した上で、フロントは冒険を試みたゾーンのコンセプトが透けて見える。

 マサダの集大成とは、ユダヤ人のルーツ回帰だけではない。
 まず"News for Lulu"(1988)で、鍵盤無しのアンサンブルによるフレーズ展開の柔軟さと、モード的なうねりを試した。
 次に"Spy vs Spy"(1989)でストレートにオーネット流の鍵盤無しを踏まえた上で、スラッシュ的なダイナミズムも試みた。
 本盤ではネイキッド・シティの跳躍と凝縮を繰り返した猛スピード感も、ジャズに投影してMasadaへ組み込んだ。

 さらにキャリア初期からのゲーム・ミュージック。インプロを理知的に制御し、属人的な偶発性に頼らず西洋音楽ならではの指揮とコントロールの概念を秘めていた。
 この時点では明確ではない。Masadaのライブを90年代後期に銀座で見たときも、あからさまなハンドキューをゾーンが取り入れてた印象はない。
 手法ではなく概念として、ゾーンはMasadaにゲーム・ミュージックの制御性を投入したと思っている。

 ゾーンの指揮ぶりが明確になるのはElectric Masadaや、00年代以降の疑似バンド・シリーズになってからだ。
 指揮ぶりについては、この日記が興味深い。ハンドキューはコブラそのもの。ちょっと長いが引用する。

 エレクトリック・マサダのライヴで注目すべきことのひとつは、ゾーン氏による即興演奏の指揮です。(略)即興演奏を指示、リード、まとめるのです。例えば、まず指を指された数人が演奏を開始、途中、また違う数人が指名され、ゾーン氏が手を振り下ろしたら、次のグループが演奏開始(最初に演奏していた数名は止める)というのが基本形。演奏中の指示では、手のひらをひっくり返す動作は「今やっている演奏と違うことをやる」、手のひらをゆらゆらと波打たせる動作は「リズムのないノイズ即興」、ビートをカウントする仕草は「速いスウィングで即興」、物を書くような仕草は「今やっている即興を覚えておく(あとで「あれをやれ」という指示がでます)」、人差し指をクイクイ曲げる動作は「この人のやっている演奏を真似る」などなど、いろいろな合図があります。


 もちろんMasadaの一般ウケするキャッチーさと、PA無しの生演奏に拘ったライブ・ツアーの機動性も、ビジネス的観点からゾーンは計算していたに違いない。

 さて、本盤。この初回レコーディング・セッションではデイブ・ダグラスがまだぎこちない。コンセプトが明確なゾーンに対して、遠慮がちのようだ。

 マサダの魅力はアドリブ回しって順番に拘らず、二本の蛇がうねるかのように同時進行のソロが展開するところ。その構図が本盤ではまだ、完全に機能しきれていない。
 ダグラスがメロディ役を務め、その上にゾーンがアドリブを乗せる場面が多い。
 いっぽうでゾーンはダグラスのアドリブへ、しばしばちょっかいをかけた。だがダグラスはまだ躊躇いあり。大胆さを抑えてる。

 もちろんダグラスの演奏がつまらないというわけではない。マサダのコンセプトをダグラスは意識して、奔放にゾーンのサックスへ絡んでいる。
 あくまで程度論。ゾーンと比較して、もしくは後年のマサダと比較してって意味だ。

 結果的に本盤はゾーンの自由闊達なサックスが、ひときわ強調された。
 逆にリズム隊はもともと優美だ。刻み役に収まらず、拍もテンポも解体しつつ基本グルーヴをきっちり感じさせるドラムと、着実に聴こえるが突飛なフレーズをばんばん入れてくるベースの生み出すグルーヴは強力無比。

 隙が無く、なおかつフリーの醍醐味を持ちながら、耳ざわりは素晴らしくメロディアス。前衛と聴きやすさが同居した。
 

 本盤の流れも良い。スピーディで歯切れ良い(1)で幕を開け、(2)のスローに(3)のアップ、(4)の緩やかさから速い(5)につなぐ。
 B面幕開け的な(6)は抽象的なテンポだが、前のめりの勢いあり。滑らかな(7)で一息ついて、勇ましい(8)に。
 続いて蹴飛ばすようなドラムの激しい(9)で速い曲を二曲、このまま一気に行くかと思いきや、優美な(10)で落差をつける。
 そして(1)や(6)にも通じるパワフルな(11)で幕を下ろすという。
 
 緩急をアルバムでグイグイつけ、長めの曲は遅いテンポの(2)と(10)のみ。どんどんと曲を重ねて、マサダのお披露目と世界観の提示を鮮やかに行った。

 もしマサダを初めて聴くなら、本盤を強く勧める。後年の手慣れた安定感までたどり着かぬ、ちょっとしたぎこちなさを内包しつつも方法論は出来上がっている。

Track list
1 Piram 7:08
2 Hadasha 10:05
3 Lachish 2:25
4 Rachab 4:47
5 Peliyot 4:32
6 Achshaph 2:44
7 Sansanah 7:09
8 Ravayah 3:19
9 Sahar 6:12
10 Tirzah 8:47
11 Shilhim 2:18

Personnel:
John Zorn - alto saxophone
Dave Douglas - trumpet
Greg Cohen - bass
Joey Baron - drums
Recorded at RPM, NYC on February 20, 1994.
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