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Prince 「Piano & A Microphone 1983」(2018)

 死後初の発掘アルバムは、ファン気質の愛が溢れすぎた企画盤。

 プリンスの倉庫から偶然見つかったという1983年のカセット。そこには"Purple Rain"他を、ピアノで弾き語りする演奏が収められていた。
 奇しくも晩年のプリンスは"Piano & A Microphone"ツアーを行い、過去のレパートリーをピアノ一台で弾いていた。これは逝去直前と過去をつなぐ音源ではないかってコンセプトをこめて、本盤を発売した。

 たしかにそうこじつけられないでもない。特に既発曲を83年当時にどう扱っていたかは興味深かったのだが・・・・聴いてみると、とても拍子抜けした。まず収録曲リストをあげてみよう。

Track list
1 17 Days 6:23
2 Purple Rain 1:27
3 A Case Of You 1:41
4 Mary Don't You Weep 4:13
5 Strange Relationship 2:39
6 International Lover 3:36
7 Wednesday 2:00
8 Cold Coffee & Cocaine 5:13
9 Why The Butterflies 6:27

 (1)~(3)、(5)~(6)が何らかの形で既発曲。
 (3)はジョニ・ミッチェル、(4)は黒人霊歌のカバーだ。83年と言えば"Purple Rain"が発売の頃だが、すでに次々作"Sign O' The Times"(1987)収録曲も入っているのが目を引く。あとはプリンスの未発表曲。
 
 あまりプリンスを知らないファンならば「歴史的な復刻!」と強い興味を持つかもしれない。そして聴いて、がっかりしそうで怖い。
 "Purple Rain"は1分半程度で終わってしまう。
 これはあくまでプリンスのデモ・テープであり、第三者へ聴かせることを想定していないメモを集めたものだ。

 本盤を冷静に聴くと、83年当時の音源をつぎはぎしたとわかる。
 せめてある一夜、興に乗ったプリンスがピアノで弾き語りしたスタジオ・ライブ音源が発掘されたって形なら違う興奮と驚きがあったろうに。

 これがプリンスの没後初アルバムってのが、惜しい。プリンスのマニアであるほど、プリンスのスタッフ側が本音源で一瞬燃えるのもよく分かる。でも、それをこれから何十年も続くであろう、プリンスの音源ビジネスに投入してはいかんだろ。

 生前、特にワーナー時代のプリンスは発売を自由にコントロールできなかった。出し過ぎだ、とネクタイ締めた背広組に創作意欲をセーブさせ続けられた。
 ならば本作も、事務屋が止めてあげなよ。せめてもう少し、サービスして欲しい。これはあまりにも、もったいぶって絞り過ぎ。

 たとえば"Piano & A Microphone"ツアー音源と2枚組で本盤を出して、"Now & then"とか。いや、Nowじゃないから"その時と、遥かその時"みたいなタイトルか?どうでもいいや。

 たとえば70年代にまで遡り、ピアノのデモ音源をどっさり詰め込むとか。
 豊富な音源が残されてるはずのプリンスのヴォルトだ。ケチらないでおくれよ。

 根本的にプリンスのピアノ弾き語りは、本盤の音源も"Piano & A Microphone"ツアーでも、「ピアノ弾き語りに編曲して、新たに曲へ魅力を吹きこもう」って崇高なアイディアではないことだ。
 あくまでピアノで「弾いてみた」だけ。伴奏のフレーズや曲構成までアレンジを練り込み、ピアノ・アレンジ・バージョンを作ったわけではない。
 老いか、踊れない体調的なものか、今までの派手なフルバンド編成でなく低予算で思いつくままセットリストを変えられる自由な形態として、"Piano & A Microphone"ツアーは行われた。
 
 晩年の営業ツアーを想定した実験かもしれないし、プリンス一流の思い付きだったのかもしれない。バンド仕立てだとリハーサルが必要で、機動力は無くなるから。セットまで作ったらなおさらのこと。
 いずれにせよプリンスはアレンジまで煮詰めて、複数のリード・ボーカルで違うラインを歌う作りこみを行う一方で、ライブでは簡素なアイディアで披露することを怖がらなかった。何をやってもファンは喜ぶと、プリンスはわかってたんだろうな。

 ちょっと気になったのは、(4)で音が揺れること。テープ劣化の音揺れだ。その他の音源も、さほど良音質とは言いがたい。死後しばらくして、ペイズリー・パークでのテープ保管は環境に問題あるとして、カリフォルニアへ移す騒ぎがあった。裁判沙汰になったような。
 もしかしてプリンスの倉庫の音源、けっこう劣化しちゃいまいな?

 プリンスは録音を好んで行ったが、それは自己満足のようなもの。次々にアイディアを形にして、アルバム形式で満足するものだけをリリースした。いわば遊びの弾き語りやデモを、フルトラックで録音して作りこんでいただけだ。

 したがってプリンスの未発表音源は、次の5種類があると考える。
A「聴かせられるけど、適切な発表チャンスが無かったもの」
B「他人へ提供するためのガイド・ボーカル入りのデモ」
C「聴かせられるか判断するために、とりあえず録音した本当のデモ」
D「ライブ・リハーサルなど日常のメモ」
E「聴かせるつもりのない、ほんとうに個人的なメモ」

 ぼくが本当に聴きたいのは(1)~(3)まで。(4)や(5)も聴いてみたくはあるが、窃視趣味にすぎる。スターのゴミ箱漁りと一緒だから、興味の優先順位はさがる。
 死後、リリースされた"Moonbeam Levels"はまさにAにあたった。"Purple Rain Deluxe"の未発表音源はA~Cの混在と考える。
 "Nothing Compares 2 U"のプリンス版はあると思わず、驚いた。The Family用にBを作っただけで、プリンスのボーカルは消されたと思ってたから。

 だが"Piano & A Microphone 1983"の音源はC~Eだ。
 ゴシップ的な興味はひくが、ちょっと最初に聴くのはふさわしくない。

 プリンスのマニアならば(7)~(9)は昔馴染みのブート音源だ。その他の音源も流出してたのかな?あまり詳しく知らない。
 (4)のスタジオでデモ音源があるとは知らなかった。ライブでプリンスは94年以降、90年代によくカバーしていた。
 Prince Vaultによるとこの曲は、遡るとFisk Jubilee Singersが1915年に録音。プリンスはシカゴのゴスペル・グループCaravansが1959年に発表したテイクを参考にしたのではと分析した。

 (1)は84年当時、"When Doves Cry"のB面で発表された。本盤は冒頭にスタッフと会話するプリンスの声がちょっと乗り、無造作にピアノで弾き始めた。
 きっちり意思を込めた歌い方で、ピアノ・ソロも聴ける。ドスドスとキックっぽい音が聴こえるが、これはプリンスが床を踏み鳴らしかな?このテイクは虚飾がそぎ落とされ、キュートかつドライブしてて楽しめた。

 続く(2)は作曲デモかと期待したが、少し違うようだ。ライブで弾き語り用に練習ってのも考えづらい。スターダムにのし上がるための看板曲をピアノで弾いて終わりなわけがない。
 メロディはぐしゃぐしゃに崩してるし、ピアノも探り弾き。和音も違うようだ。これは何なんだろう。指と声慣らしのリハーサル音源かな?
 あっという間に始まり、ものすごく中途半端にブツ切られてしまう。

 (3)はもう少し本気の入った歌い方。けっこうメロディを崩してる。これもライブで当時からやってた曲だが、ピアノ一台ってアレンジは珍しい。
 テープが不自然に繋がり、別の機会と思われる(4)もテンションは似ている。ギターでなくピアノで弾き語りを練習か。
 そういう意味では、本盤の宣伝文句に嘘はない。まさにピアノ一台でライブで成立するかをプリンスが模索してるような演奏風景でもある。

 (5)は確かにこの時期に演奏ってのがリリース年度からしたら珍しいかもしれない。けれど既に知られているように、この当時に本曲は既に存在していた。
 (4)と続けて聴くと、この曲がブルージーな要素を改めて強く感じた。ちょっとラフな演奏、まだ曲そのものが固まって無い感じ。これはこれで窃視趣味ではあるが、興味深かった。

 (6)がいただけない。"1999"(1982)で既発曲、この時期にピアノで弾いても目新しさは特にない。"Free"の代わりにピアノで弾き語るか、試していたのかもしれない。
 冒頭で鼻をすすって、気負わないリハ音源そのものだ。歌は多少心を込めており、それなりに聴きごたえはある。

 (7)はジル・ジョーンズが歌う"Purple Rain"用音源として伝わってきた。本盤のテイクはそれよりも前、作曲メモのようなデモ・テイクのようだ。

 (8)は流出はしていたが、どういう意図で作られたのかは不明。作曲中の様子をそのまま録音したかのよう。ブルージーな趣きはあるが、とりとめは無い。
 新曲のアイディアを練っている段階のメモ見たいなもの。ピアノ一台で醸し出すファンクネスは迫力があって楽しい。

 (9)は別日の録音かな。テープ・ヒスが目立つ。これも探り弾きっぽいピアノのイントロで始まる。作曲中のデモ音源な風情だ。ただしフレーズが前後しておらず、きちんと曲になっている。
 ある程度、形になったところでデモ録音してみたのか。そもそもプリンスの作曲ってのが初めからこういう試行錯誤無しで天から降りてきたのか。
 後者で、その貴重な記録が本音源だと興味深いな。
 
 とまあ、こんな感じ。
 プリンスのマニアならば、初めて聴く音源集だが猛烈な驚きはないはずだ。
 一番聴きたかったのが(1)と(2)、次いで(5)。しかし(2)のデモっぷりにはがっかりした。
 未発表曲だった(7)~(9)がきちんと容易に聴けるようになったのは、素直に嬉しい。

 そもそもぼくはプリンスのファンだ。どんな音源でも愛してみせよう。
 だから本盤をくさしもけなしもしない。冒頭に書いたように、企画倒れだから収録音源の蔵出しはケチらないでねって言うにとどめる。

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