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井上陽水 「九段」(1998)

 渋さをまといつつ、強烈なリバーブで全体のまとめてきた。

 前作"永遠のシュール"(1994)から年輪を重ねた仕上がり。
バンド・サウンドっぽさが出てきた。あまり陽水はバンド的なサウンドに意欲を見せなかった印象あるが、本作はグルーヴィーさがそこかしこに。特にギターが鋭い。今堀だろうか。
 
 いっぽうでボーカルは妙に電気的な加工が、ひときわ耳につく。過去作でも陽水の声は整えられてた印象あるけれど、本作は際立つ。特に冒頭の数曲。機械仕掛けとまでは言わないが、伴奏に溶け込むより貼り付けたよう。
 バッキングを無視してボーカルを立てるミックスはたいがい頂けないが、歌手のアルバムにも関わらず演奏へ埋もれてしまうミックスも物足りない。

 (1)は前作収録の"野蛮な再会"と同様に、91年に清志郎らと"ハバロフスク&マフィア"名義で披露した楽曲。7年もたって再演を、なおかつ冒頭曲へ並べるセンスもいただけない。せっかくなら最新鋭の新曲で勝負してほしい。

 (5)で布袋寅泰、(9)で菅野よう子と新しい血を入れ若返りも図るスタンスながら、(1)(3)(4)(6)(10)(11)と前作同様に陽水自身でアレンジした曲も多い。
 若いころは星勝や川島裕二をはじめとして、人に任せきりだったのと対照的だ。キャリアを重ね、ついに自らが最も輝くビジョンが明確になってきたか。
 一方で"最後のニュース"に通じる、字余りフォーク・スタイルの(10)みたいに自己模倣めいたアプローチもあり。
 
 総じて前作と同様に残響を上手く生かしたサウンドで、幻想性を演出した。
 叙情性もいい塩梅で気取りや脂っ気が抜け、(4)や(5)のように溌剌さが濃くなった。
 (8)のような陽水節もあっさりめ。さらに鬼のようなエコーで、素直に聴かせない。歌うニュアンスの技量は健在だが、飾りを入れて膨らませている。
 (9)に至っては巨大なエコーでスペクター風味すら、うっすら漂うしまつ。

 全体として陽水の作り物っぽさが強く出た作品。ただし創作活動に迷いはない。


Track list
01. 炎熱の月明かり
02. SINGING ROCKET
03. 英雄
04. 最新伝説
05. アンチヒロイン
06. ラブレターの気分で
07. ロングインタビュー
08. TEENAGER
09. エンジの雨
10. ビルの最上階
11. 長い坂の絵のフレーム

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