FC2ブログ

井上陽水 「LION&PELICAN」(1983)

 きっちり身を守りつつ、冒険にも食指を伸ばす。

 この盤あたりからリアルタイム。貸しレコード屋"友&愛"へ初めて足を踏み入れた中学生のころ、本盤が棚指しされてた記憶ある。歌謡曲とは違う大人の音楽って、イメージだった。

 今の耳だと、前作は成熟ぶりと感じたか若返り感がある。歌い方はがっちりと陽水節を保ったうえで。
 アレンジは昔なじみな星勝がA1,B2。この時代のキーマンとなる川島裕二がA2,A4,A5,B5ともっとも曲が多い。さらに新顔で後藤次利がA3,B4、伊藤銀二がB1,中西康晴がB3。
 従来路線と挑戦と双方をバランスよく試みた。
 
 本盤は代表曲"リバーサイドホテル"を収録。これとA1、星勝のアレンジがとにかく情感路線に雪崩れている。敢えて古臭いムード歌謡路線を星が担当したかっこうだ。まるで古くからのファンの受け皿を担当、かのように。
 もっともB2のアレンジそのものはニューウェーブ寄り。安っぽいリズム・ボックスにギターを合わせる隙間の多い音像の上で、陽水は強烈なハイトーンを聴かせる。

 一方で川島はテクノ/ニューウェーブなアプローチで流行りの音を投入した。陽水の歌いかたはメロウ路線と特に変わらないのだが、ドライなサウンドで響く歌声は彼の独特なニヒルさを強調してる。
 伊藤のセンチメンタルな一方で、妙に弾むサウンドづくりも新境地だ。陽水は声を作りつつも上ずり気味に声を遊ばせ、奔放で幅広い歌唱力を見せつけた。

 テクニックで身を守り、アレンジで保守的な地歩も固め成熟に向かう方向性は前作までで掴んだ。
 がっちりコントロールされた陽水の歌声だが、声域や声の響きを曲ごとに色々試す。
 若作りはしない。けれど客層を若手へさらに広げるための、冒険と挑戦。耳ざわりの良いトロピカルなポップスや、整った歌謡曲路線に安住せず、次の地平を目指すかのように。
 そんな方向性が本盤のテーマに思える。


Track list
A1 とまどうペリカン
A2 チャイニーズフード
A3 約束は0時
A4 愛されてばかりいること
A5 カナリア
B1 ラブショックナイト
B2 リバーサイドホテル
B3 お願いはひとつ
B4 ワカンナイ
B5 背中まで45分

関連記事

コメント

非公開コメント