TZ 8076:John Zorn "What Thou Wilt"(2010)

99-07年に書かれた、ジョン・ゾーンの現代音楽3曲を収めた。とっつきは悪く、聴くほどに難しく感じるが、決してデタラメではない作品たち。ジョンは本当に真摯で自由に音楽と向き合っている。

後述する録音時期を見ると分かるように、2010年3~8月の断片的な録音集。こまめにレコーディングを行い、まとまるとアルバムに仕上げる趣向か。

(1)はEOSオケからの99年委嘱曲。自分は委嘱をほとんど受けないため、珍しいとライナーで述懐してる。本盤へ収録はマサチューセッツのタングルウッドで2010年8月10日の再演を録音したStephanie Nussbaum(vln)とタングルウッド・オーケストラによるバイオリン協奏曲だ。
ジョンの母が逝去を切っ掛けに書いたという。バイオリンとオケのピッチ(?)が特徴で、同手法を"Le Momo"(199)や"Goetia"(2002)に使ったとある。やばい、どっちの曲聴いてもこのことにぼくは気づけていない。

鋭く緊迫した弦で幕を開け、凛と張ったメロディがテンポの緩急にかかわらず駈けた。寛ぎも弛緩も無く、テンション高いスピード。オーケストラが優雅な演奏ゆえに救われる。下手なオケだと、とっ散らかりそう。コラージュ風の作品で、クルクルと楽想が変化した。現代音楽からロマン風、ロシア的な響きから無調音楽っぽさへと。

つかみどころ無くミリミリと進行するスリルを、隙無く整えたオーケストラの演奏力が素晴らしい。
軋む弦をきっちりコントロールし、勇ましく凄みある神秘性を存分に表現した。約13分の作品。

(2)は05年のピアノ独奏曲。ボストンで2010年6月28日の録音を収録した。約23分にも及ぶ大作だ。"Carny"(1991)に次ぐピアノ独奏曲で、双方ともこの曲を演奏するヴァーチュオーゾ、ステファン・ドルーリーのために書かれた。タイトルが示す通り、オカルティックなテーマを持つ。
クラスターから内部奏法も含むさまざまな奏法を織り込み、おどろおどろしく突飛な音使いが頻出する複雑怪奇な曲。

音は鋭いし、聴いてて寛げもしないが。ジョンらしい理知と神秘の両立、奔放なアイディアと一曲にまとめる構想力、双方を味わえる興味深さ。多面性と持続する強靭な意志が音楽からずぶずぶと滲んだ。
和音の妙味より旋律の組み立て、場面転換。そちらへ耳が行く。

(3)は16世紀の錬金術師、エドワード・ケリージョン・ディーの物語に端を発し、チェロ奏者フレッド・シェリー60歳記念に書かれたとある。
ジョンのオカルト趣味全開で、7や666の数字が拍子や曲構造へさまざまに織り込まれてるそう。
3人のチェロ奏者で、2010年3月21日に録音。猛然たる炸裂が轟き、不協和と静寂が瞬時に入れ替わる。高すぎも、低すぎも無いチェロの音域を巧みに操り、尖って幻想的な世界を描いた。本盤の中でも、特に聴き応えあるスリルだ。

他の曲はいわゆる現代音楽的な整いがある。だがこの曲は三人の弦が絡み合うさまは、フリージャズ風の側面も持つため。実際には全て譜面の、おっそろしく難しい超絶技巧だが。

ジョンの現代音楽曲は猛烈なテクニックを要求し、響く音はめちゃくちゃに変てこだ。しかし即興力をいったん横に置き、緻密な計算と論理性を表現するところが好きだ。
いわゆる十二音音楽のように形式に縛られない。だが強固な論理は存在し、デタラメではない。
これをスイスイと理解できる耳を求めて、ぼくはジョンのこの手の作品を聴く。

Personnel:
Ryan McAdams: Conductor
Stephanie Nussbaum: Solo Violin
Stephen Drury: Piano
Erik Friedlander: Cello
Fred Sherry: Cello
Mike Nicolas: Cello
The Tanglewood Music Center Orchestra

関連記事

コメント

非公開コメント