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井上陽水 「"white"」(1978)

 絞り出す創作を、きれいにまとめるプロの仕事になった。

 前作"招待状のないショー"(1976)までのLP片面に6曲も7曲も詰め込む奔出さは、本盤で見られない。きっちり10曲でまとめた。
 大麻所持容疑で執行猶予の期間につくられた。離婚も含めどたばたしていたためか、前作から2年4カ月と初めてリリース・ペースが空いた。

 アレンジはB3で白石ありすが担当した以外は、昔なじみの星勝が施した。演奏ミュージシャンが誰かは分かっていないが、"断絶"(1972)や"氷の世界"(1973)に通じる歌謡曲的なウェットさが復活した。
 声量はいまいち伸びが無く、いわゆる陽水節のひねった節回しがはっきりと強調された。B5みたいに力強い歌い上げをもっと聴きたかったな。

 ぼくはリアルタイムで陽水を聴いていないから、デビューからの軌跡を思春期に味わっていないからこその、傍観者な立場の感想になる。
 ちなみにぼくのリアルタイムは"ライオンとペリカン"(1982)になる。

 実生活と音楽を分けて聴きたいが、実際には不可分だ。陽水は本作がターニング・ポイントだったと聴こえる。フォーライフに移籍して、もしくは何らかの私生活の理由で、創作活動は目に見えて変わった。

 今作以降は手慣れたテクニックは駆使しつつも、挑戦とは少し違う。若さゆえの奔出よりも、キャリアを重ねた老獪さが前に出てきた。とはいえ本作時点で陽水は30歳。老いるにはまだまだ早いのだが。

 演奏は破綻が無い。きれいにまとまっている。抒情性とは言ったが、フュージョンやロック的な鋭さ爽やかさも曲によってアレンジに取り入れている。
 陽水はねっとり絞り出すように声を操る。なまめかしく、そのいっぽう鎧で身を守るかのように。

 A1,A2は実際に留置場で作った曲と言われる。歌詞を解読する楽しみもあるのだろう。
 しかし楽曲的には綺麗なメロディではあるけれど、鮮烈さとは違う。陽水流のくねった滑らかさはある一方で、職業作家の曲を聴いてるかのようだ。
 弦やブラスで飾り立てた演奏も含めて、突き放し客観的に練られたニューミュージック路線と感じた。初期の陽水が滲ませたシニカルさは、ビジネスの壁でコーティングされた。

Track list
A1 青い闇の警告
A2 ミス コンテスト
A3 White
A4 愛の装備
A5 迷走する町
B1 ダンスの流行
B2 甘い言葉ダーリン
B3 暑い夜
B4 灰色の指先
B5 Bye Bye Little Love

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