TZ 7066 John Zorn "Songs from the Hermetic Theatre"(2001)

めずらしくジョン・ゾーン自身の演奏が収められた現代音楽集。中身は電子音楽やノイズに軸足置いている。したがってジョンが演奏も、電子ノイズやドラムにベース、フルートなどの変化球。サックスが聴けるわけではない。

本盤収録曲の録音は全て01年3月に行われた。バイオリン以外の演奏は全てジョン自身。

"American Magus"は電子音楽。ライナーではアメリカの芸術家にしてオカルティスト、ハリー・スミスの言葉を引用あり。"Anthology of American Folk Music"編纂者で、音楽ファンには有名だ。
わずかにミニマルなノイズが14分ほど続く。ハーシュな彩りもそこかしこに有るが、基本はポップさが滲む。たぶんいくつかのシーケンサーを走らせ、さらに電子ノイズを足した。複数のパターンが走り、うねる。電気実験室な趣きだ。
50年代SFに出てきそうな、マッド・サイエンティストの実験室のBGMに似合う。ハリー・スミスに捧げられた。

"In the Very Eye of Night"はベースやバスドラ、フルートやピアノに混じり、ボウルの水などを混ぜた。マヤ・デレンの語りで幕を開け、もやっとした音楽が被っていく。最初は深いエコーのバスドラ。
順録りで曲を膨らませたっぽい構成だ。バスドラのうねりはエレキベースに変わるが、メロディ感は皆無。響きのみを追求した。執拗に低音が響く。やはり電気ノイズ寄りのアプローチ。ピアノやフルートは、後ろでうっすらと鳴る音像の事だろう。
前衛映画監督マヤ・デレンの写真は、ライナーに載せている。

"The Nerve Key"も電子音楽。アルト・サックスの演奏するときより、ジョンのスピードが希薄で面白い。もっと速さを狙わないの?音像は本曲も、シーケンサー数本にノイズを足したっぽい。
ハーシュまで突き抜けぬ、なんとも中途半端な呟きめいた電子音がもどかしい。
音量上げたら、はじけるグリッチ音が鼓膜をびしびし刺して気持ちいい。この粒立ちが本曲での狙い?
中間部が抜かれた感じでモヤモヤ不安さが持続するさまは、独特で新鮮な響きだ。

"BeuysBlock"はジョンがさまざまな雑貨を使い、バイオリンのダビングをかぶせた曲。バイオリンのジェニファー・チョイはジョンの現代曲では顔なじみの奏者である。
バイオリンは多数ダビングされ、冒頭で白玉中心に淑やかに鳴った。

ジョンはもぞもぞとさまざまな雑貨を弄り、ノイズを重ねる。マウスピースを並べた"The Classic Guide to Strategy"(1983)に通じるアプローチか。ここでもスピードより、じっくりと音を連ねてく。
持ち替えは激しいが、インスタレーションみたいな静かさを感じた。炸裂よりも内省に沈み込む。なまじ録音が良いだけにギシギシこすられる音の、生理的な苦痛が辛い。
ピアノの静かな和音や多重バイオリンの美しい響きが、たんなる無作為にとどまらぬ構造性を演出した。
中間部は無造作っぽいが、冒頭と最後の妙なるバイオリンで何となく構成有りそうに聞こえてしまう。

ドイツの現代芸術家、ヨーゼフ・ボイスに捧げられた。楽曲構造は面白いので、もう少し耳に優しい音色を選んで聴いて見たい。ジョンとしては、その耳への刺激こそが狙いとしても。

どの曲も捧げる相手に、明確な憧憬と意志がある。ジョンは決して孤高を気取らず、ユダヤ文化の共同体と挑戦的な前衛芸術家へ敬意を払い続けてる。

Personnel;
Jennifer Choi - violin
John Zorn - electronic and computer music, bass, water, drum, flute, glass bowl, metal pipes, wax paper, mud, staple gun,etc.

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