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Prince 「The Slaughterhouse」(2004)

 デジタルと人間臭さを自在に行き来しつつ、地味だが多彩なファンクが並んだ盤。

 祝再発。本盤を含むプリンスの旧譜を、2018年にSonyがi-Tunesなどから配信を開始した。CD再発を望むむきもあろうが、一気に市場へ現品を投入する物理的なリスクと、売り切れ後にまた入手困難になる可能性が十分にある。
 配信でいつでもどこでもいつまでも聴くことが可能って環境をぜひ整え続けて欲しい。
 本盤はプリンスが自主配給の道を模索して、自主サイトNPG Music Clubを立ち上げた時代の作品。デジタル・アルバムの形式で"The Chocolate Invasion","C-Note"と同時に発売された。
 サイト閉鎖と同時に入手困難な音源となり、Tidalでようやく配信対象になったのは、2015年のことだ。

 Web配信の運営時代が早すぎたのだろう。いまから14年前だ。配信は少なくとも日本では一般的ではなかった。回線も今に比べれば細く、サイトは非常に重く見るのに難儀した。
 NPGの運営も危なっかしい印象あり。セキュリティも怖くて、サイトに登録したのは熱烈なファンだけだったのではないか。

 収録曲はほぼすべて本盤より前に、同サイトで発表済み。コンピレーション的にデジタルで月例配信だったシリーズ"NPGMC Edition"で収録曲の発表時期をみると次の通り。
 毎月の音源からバランスよく選ばれて本盤が選曲されたとよくわかる。なお(9)はOST"Bamboozled"(2000)で既発の音源だ。

01/2 #1 (8)
01/3 #2 (10)
01/4 #3 (7)
01/5 #4 (6)
01/6 #5 (3)
01/7 #6 (2)(5)
01/8 #7 (4)
01/12 #11 (1)

 "The Slaughterhouse"として発売は04年。すなわち上記の通り、熱心なファンは既に数年前に聴いた曲ばかり。CD盤ならまだしも「デジタル・アルバム」として改めて入手する必然性は低い。たしか定額配信だったし。
 そのうちCDで出るだろう、と高をくくってたらサイトが閉鎖されるはCDリイシューは無いわで、臍を噛んだ人も少なくないはず。

 とはいえこの時期のプリンスは逆風だった。何でも聴きたいファンは新譜が出たら買うから一定の収入があったにせよ、「80年代と違う」って酷評が続いていた。一般ファンは言わずもがな。
 自戒を込めて言うが当時、プリンスは前へ進み続けていたのに「80年代ほど派手な新境地ではない」と、曇ったフィルター越しにプリンスを聴き続けてしまった。
 プリンスが逝去した今、「何でもっと高く評価しなかったのだろう」と公開しきりだ。

 この時期の作品が地味だったのは確かだ。功成り名遂げて自在に録音できる環境がプリンスに整い、打ち込み技術もどんどん発達した。プリンスは派手なフックやアレンジを封じて、シンプルなファンクを追求していた。
 さらに楽曲群に「物語」が足りなかった。話題性、と言い換えてもいい。
 自主製作、かつどんどんリリースされたために。先月の曲と今月の曲、どうプリンスが趣向を変えた曲製作かを、分かりやすい宣伝文句が提示されなかった。

 つまり自分の耳を頼りにするしかない。贅沢な話だが、膨大にリリースされる新曲群をかき分けて。だからついていけずに、濫発単調のそしりをプリンスは受けていた。これも自戒を込めている。
 だからこそプリンスは「アルバムって括ったら、評価が変わるだろう」と思ったのかもしれない。

 (1)の冒頭でアルバム・タイトルが呟かれ、幕を開ける。粘るがジャストなビートの打ち込みワンコード・ファンク。メロディは希薄で、プリンスの多重ボーカルのスリルを楽しむ曲だ。今の耳ならばクールさがよくわかる。でも当時はメロディを求めてしまい、単調に聴こえてしまった。そもそもプリンスはメロディをこの曲の主体にしていなかったのに。
 滑るような多層ボーカルの滑らかさが、冷静な熱狂を演出する。アイディア一発をこれほど多様に展開できることこそ、プリンスの優れた点だと今になって思う。
 
 なめらかに続く(2)はファンクな一方で、テクノっぽいビート感。同じようにメロディを希薄にワンコードで押す。前曲と異なりマーヴァ・キングの女声を入れたり、ギター・ソロを挿入したり、わさわさと雑駁な雰囲気で前曲とアプローチを変えた。
 あえて展開を控え、パターンを繰り返す。打ち込みっぽい淡々としたビートの連続は、JBを代表なダンス・ミュージックそのものを追求した。
 
 アルバムのつながりを意識している。前述のように製作順も製作時期もばらばらなのに。
 (3)もワンコードでデジタルなファンク。こんどはラップを入れヒップホップ調で迫った。生ホーンの掛け合いをまぜて、JB風の方向性が強まった。"Cold Sweat"って言葉も織り込まれる。
 後半に従いホーン隊がどんどん暴れ、熱気がどんどん高まって行く。

 だが掛け声は「ブーシャカラカブーン」。余談だがこれがJBとプリンスの大きな違いと思う。JBの掛け声は「イギャーーオ」だ。プリンスは「アーオァ」(「アーーーオァ」と延ばさない)、もしくは例えば本曲の「ブーシャカラカブーン」。
 何が違うか。JBは自分が主役で、拍マタギかつビート破壊。だがプリンスは掛け声も楽曲の一部で、ビートからズレない。つまりノリを多層化、言い方を変えると破壊しない。
 自分のアピールも重要だが、音楽的な一体感をプリンスは志向した。JBは自分を異物として、ノリを破壊しても自分のボーカルを目立たせたが。

 (4)でメロディックな方向に向かった。スムース・ジャズ風ともいえる。 
 静かなリズム感はデジタルで、前曲と流れは連結する。しかしフルートを入れて人間臭さを出した。プリンスの多重ハーモニーはなまめかしくクールに漂う。ひそやかで妖しいムードの曲。終盤で和音変化し、くっとメロウな匂いが強まるところも素敵だ。
 
 続く(5)で人間臭さをキーワードにポップな曲へモーフィングした。アルバムの流れが実に見事だ。元は98年頃の曲と言われる。つまり"Rave Un2 The Joy Fantastic"(1998)のあたり。
 シンプルなビートと軽やかなハーモニーは、本アルバムの流れで聴くと涼やかに盛り上がる。だが単曲では確かにパンチ力が足りない。プリンスはハイトーンを中心に曲調をまとめ、上ずる狂騒のムードを選んだ。
 低音含めてフルレンジでアレンジしたら、がらり曲の印象が変わりそうだ。

 (6)は打ち込みっぽい一方で、リズム・パターンが多彩に散らされ生演奏に寄った印象あり。リズムの魔術師だ、プリンスは。大勢のプリンスが多重ボーカルで跳ねまわる。
 前曲から収束するようにギュッと視点が絞られた。小粋でジャジーな浮遊感がこの曲の魅力。中盤のストリングス音色はマーヴィン・ゲイからの引用か。

 (7)はジャストで強力なファンク。なるべくデカい音で聴きたい。いぎたない女性コーラスをアクセントに、シンプルな打ち込みファンク・ビートを軸ながら、思い切りファンキーに寄った。
 幅広いレンジで膨らまさない。音数はけっこうある一方で、過剰にならずそぎ落として鋭くまとめる。JBやP-Funk直系のしぶといグルーヴが心地よい。

 (8)もまさにプリンス流のファンク。シンセをブラス風に使い、スマートだが弛緩せずテンション一定に突き進む。メロディはしっかりあるのに、和音感のせいなのか印象に残りづらい。するすると耳の中をメロディが滑ってしまう。
 ポップさを潰し、しかし前衛やデモには収まらない手の込んだアレンジが施された曲。こういう曲こそ繰り返し聴くほどに、あちこち魅力を発見してズブズブとハマっていく。低速だが止まらないジェットコースターだ。

 既発曲で全く違うコンセプトだが(9)は本盤の流れで素直に収まった。選曲の妙味だ。
 ルーズなヒップホップ寄りの曲。アルバムの流れで聴いたら、いい感じ。
 でも単独だと「なんかつかみどころ無い、ぬるぬるした曖昧だな」と当時は思ってしまった。この辺の自分の耳の曇り具合が情けない。

 「アーオァ」って叫びが冒頭に登場。ようやく派手にプリンスは吼えた。曲調はアップテンポで押さず、粘る。ハイハットの小刻みさは打ち込み?しかし演奏全体はバンドっぽい人間のグルーヴがある。ベースはラリー・グラハムらしい。
 
 本盤を聴いて、改めてプリンスのスルメ的な魅力を痛感する。"Purple Rain"は分かりやすくポップで親しみ深い。
 けれども本盤でのプリンスは聴き手へ媚びず突き放し、自らの音楽へ没入した。ついてこい、と。最初はあっさり聴き流してしまう。だが向かい合ってしっかり耳を音楽へ漬けるほどに、味わいが増していく。

 改めて言おう。祝、再発。聴いたことない人が多いアルバムだ。派手さは抑えられてるが、自分のイマジネーションを存分かつ多彩に作品へ昇華した、プリンスの創造力が発露したアルバムだ。
 代表的な傑作とは言わないが、聴き落とすには惜しいアルバムだ。

Track list
1.Silicon (4:15)
2.S&M Groove (5:08)
3.Y Should Eye Do That When Eye Can Do This? (4:31)
4.Golden Parachute (5:36)
5.Hypnoparadise (6:03)
6.Props N' Pounds (4:36)
7.Northside (6:34)
8.Peace (5:33)
9.2045: Radical Man (6:35)
10.The Daisy Chain (6:15)

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