TZ 8035 John Zorn "From Silence to Sorcery"(2007)

魔術と神秘主義がテーマ。ジョン・ゾーンのオカルト趣味と数値論理性のミックスという、独特な相反二面性が並列する現代音楽集だ。

バイオリン独奏曲"Goetia"(2002)は8楽章の曲。02年ハロウィンの深夜に作曲とある。
黒魔術に現れる数字を元に、数学的な音符配列を施したらしい。ライナーに楽譜の一部があるけれど、小節線が無く複雑な譜割に見える。

ジョン・ゾーンのこの手の曲は、たぶんきちんと解説あれば明確で論理的な楽曲だろう。しかし楽曲だけ聴いてると、とてもそうは思えない。時にめまぐるしく、時に静かで変てこに旋律が動くさまは、規則性がどうしてもわからない。
ノイジー一辺倒ではない。情感とは無縁ながら、無機質でもない。旋律と無秩序な音列が現れては消え無造作に次の場面へ移る。付点のグルーヴを感じさせぬ、メカニカルな縦線が続いた。
小節線は全編に渡って存在しないの?ビート感がかなり希薄だ。聴いてて無意識に4小節や3小節をいちおう取ってしまうが、拍頭がどこか自信がすぐなくなる。

聴いてて寛げないが、無造作なデタラメとは逆ベクトル。理論を聴き取ろうと集中しても、今一つ構造を読み取れず残念。

奏者のテクニックは破綻無く淡々と進み、素晴らしい。
しかしこの曲、複弦と思えぬ複雑さだ。本当に独奏?ダビングありだよな。ときおり現れるピチカートの響きは、かなり切ない。

"Gris-Gris"(2000)は9分ほどのパーカッション・ソロ。それぞれ別チューニングな13個のドラム(一オクターブってことか)と、キックで演奏される。
もっともメロディアスさより、静かなおどろおどろしさを演出した。

テーマは韓国のシャーマニズム巫俗、ハイチのブードゥー、ハワード・ホークス監督の映画"To Have and Have Not「脱出」"(1944)の混合とある。
ジョン自身のライナーに寄れば、「脱出」でのダンスシーンで、複数のフロアタムを馬鹿でかいヘッドのマレットで叩く、クラブのバンド演奏シーンに魔術性を感じたのがきっかけ。ライナーにそのシーンの写真が引用されている。

ここへシャーマニックな呪術性を明確に足したのがこの曲。ドラムだけで演奏ながらビートじゃなくメロディを主軸に置いた。しかし綺麗なメロディを歌わせるわけでなく、どこか淡々としてる。
ダイナミズムを幅広く演奏し、決して乱打の剛腕さだけで押さない。むしろ全般的に静かなイメージだ。

打楽器のメリットを最大限意識して、打音のタッチとボリュームを美しく使い分けた。ジョンの繊細さと緻密な構造が分かりやすく、作曲家らしい視点が炸裂した一曲。
この盤の中で、もっとも好きだ。

"Shibboleth"(1997)は、若干古い時期に作曲。ルーマニアのユダヤ人詩人パウル・ツェランへ捧げた。ジョン自身でもはっきりとこの曲は解説しづらい、詩的で静かな曲とライナーにあった。Vln.Va,Vcの弦三挺にクラヴィコードと打楽器、指揮者の編成。6楽章に分かれるが、CDでは1トラックにまとまった。

楽曲は前へ進行するが、か細く断続的。メロディの断片、さまざまなパーカッションが時を遮断し、揺らす。小編成だが、雄大に聴こえる場面もある。一方で、奇妙に静謐なシーンも。
全体に音量は控えめなので、とにかくボリュームあげて聴いても良い。パーカッションが楽器ではない何かから音を絞り出し、それより小さな音で弦が響いてる瞬間が美しい。
西洋音楽より、日本的な詫び寂びに通じる無常さを感じた。

Personnel:
Jennifer Choi - violin (tracks 1-8)
William Winant: drums, percussion (tracks 9 & 10)
Lois Martin - viola (track 10)
Fred Sherry - cello (track 10)
Steve Drury - clavichord (track 10)
Brad Lubman - conductor (track 10)

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