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山下達郎 「ミライのテーマ / うたのきしゃ」(2018)

 デジタル録音での"滲み"が、ますます素直に表現されていく。
 

 いわゆる両A面シングル。10ヵ月ぶりの新曲だ。細田守監督"未来のミライ"のタイアップ曲で、"サマーウォーズ"以来9年ぶりという。
 最初は達郎がもっと穏やかなデモを提出するもプロデューサー側の意向に合わず、本盤のようなアップテンポの明るいイメージになったという。

 一聴して思うのは、達郎にしては珍しい80年代回帰。ただしノスタルジーがあるとしたらプロデューサー側だろう。製作としては当時と違う方法論を使いしながら、前作"REBORN"(2017)と全く異なる、アナログっぽいサウンドを見事に作り上げた。
 いち早くデジタルに挑戦しながら、機材と自らのイメージを合致すべく85年頃から試行錯誤し続けた達郎。
 いつしかデジタルと打ち込みに沿った楽曲に寄り添った楽曲ってイメージがあったけれど。本作はたとえば"忘れないで"(2004)とは全く違ったアナログ感がある。

 サウンドの響きはきっちりデジタル。しかし分離を上手く馴染ませて、ここ数作で使ったブーズーキの使用で周波数を埋めるのでなく、全体音像を柔らかく溶かしてきた。
 さらに新曲2曲でアンサンブルの方向性を見事に対比させ、なおかつ"80年代達郎"っぽさをばっちり表現してる。
 
 一筋縄ではいかず、なおかつ聴き手の期待以上の作品を作り続ける高い目線を持ち続ける創作意欲は素晴らしい。ライブ活動が充実のため、なかなか新作アルバムが出ない。今回二曲足されて曲数もそろってきたから、来年くらいには新譜が聴きたいな。
 ちなみに"Joy 2"でも良いのだが。ライブ充実ゆえにツアーのたびに良いテイクが産まれて編集に迷うという幸運で皮肉な循環ができてる気もする。

 さて、51枚目のシングルになる本盤。"ミライのテーマ"は、率直なところ15枚目のシングル"土曜日の恋人"(1985)に通底するビート感を感じた。つまりはスナッフ・ギャレット的に弾むビート。サウンドは華やかで、スタジオ・ミュージシャンできっちり作られた。いまだに、レオン・ラッセルがセッションに参加してたってイメージがわかない。

 仮に"土曜日の恋人"を対比項に置くならば、あちらはきっちりデジタル仕立て。
 しかしリズムは青山/伊藤/難波と自らのバンドでグルーヴを揺らした。
 本盤は小笠原/伊藤/難波と今のバンド・メンバーによるリズム隊で通底している。ただし一部は達郎の打ち込みがあり、もちろんギターは達郎が弾いている。
 
 "ミライのテーマ"はここ数作の作品の中でもひときわ、コーラスとリード・ボーカルの絡みが目立つ。打ち込みのジャストなリズムへ、難波のピアノが柔らかく絡む。アコピはなまめかしく、エレピはタイトに。
 たぶん鍵盤の一部が打ち込みと思うが、例えば90年代のあからさまな打ち込みビートとは違う。ぱっと聴きでは打ち込みを目立たなくさせ、なおかつデジタルのジャストさは明らかにした。

 この曲はスピーカー、ヘッドフォン、イヤフォンでそれぞれ印象が変わった。ヘッドフォンだと音のにじみが飽和する。スピーカーでは小さな音でも音が崩れない。イヤフォンだと分離がきれいだけど、しっかり滲んでる。
 サビでの音像が、とても気持ちいい。リズムはきっちり動きながらコーラスはハミングと掛け声が並列し、微妙なエコー感のリード・ボーカルがふくよかに鳴った。
 間奏は宮里のサックス。硬質でしなやかなアルトが響く。

 とにかくリード・ボーカルのエコー感が絶妙だ。まるで一音一音、エコー成分を変化させてるかのよう。
 オケの変化にそって歌声が負けずにしっかり存在感を保ち続ける。変化なく、ずっと一定に。
 柔らかい響きとタイトさが平然と併存し、なおかつ歌声のダイナミックさが盛り上がる。
 平歌からサビに向かう瞬間の炸裂感が、素晴らしくかっこいい。

 "うたのきしゃ"はそれこそ80年初期の"Ride on Time","For You"あたりの達郎サウンドを模したかのよう。
 カッティングのギターが軽やかに鳴っている。

 "ミライのテーマ"と異なるのは、伊藤/難波を起用の一方でリズムはすべて達郎の打ち込みなところ。ブラスとベース、アコピ以外は達郎の多重録音だ。
 にもかかわらず、逆にこの曲はアナログ的なグルーヴをぐいぐい追求してる。"ミライのテーマ"はリズムが生演奏ながら、デジタルなタイトさが常にあった。
 ところが"うたのきしゃ"は全編が生演奏に聴こえる。そのくらい細かく丁寧にリズムを達郎は製作した。

 "Music~"ってフレーズが頻出して"Music Book"を連想した。仮想の対比項にこの曲を置いてみようか。
 Tb,Tp,Ts/Bsの4管編成のホーン隊が炸裂しながら打ち込みビートと溶け合った。しかもこのリズム、場面ごとに変えている。基本は生ドラムのサンプリングみたいな音色だけど、大サビではいかにも打ち込み風の軽い音色も使った。
 勢い一発、ヘッド・アレンジっぽいノリなのに緻密な音使いにしびれる。

 この曲も"ミライのテーマ"に負けず劣らず、音像がずぶずぶに溶けた。"ミライのテーマ"ではボーカルとコーラス、演奏の溶け具合がきれいだった。
 "うたのきしゃ"ではバッキング全体と、メインボーカルって二つのラインを寄り添わせる。
 つまりオケはコーラスもアレンジに溶かして、リズムと一丸になった。伴奏は単体できれいにまとまり、そこへボーカルが単独で乗っかる感じ。
 バンド・サウンドで演奏を奏で、歌手はただ歌うだけってイメージ。実際は緻密な打ち込みビートと多重録音のたまものなのに。
 全編を通して、ちょっとルーズな雰囲気を一人打ち込みで作る手腕はすさまじい。ここまで打ち込みを駆使して人間臭さを出すことにこだわるのは、世界を見渡しても達郎ぐらいではなかろうか。

 最初は80年代っぽさの原点回帰をデジタルで再現かと思った。しかし聴きこむにつれて、デジタルをどんどん使いこなし高みをさらに目指す、実験精神にあふれたシングルって感じた。あえて二種類のアプローチを使い、両端にある今現在の成果を示す形で。
 ますます、今後の作品が楽しみだ。まだまだ達郎は枯れていない。

 本盤のカップリングなライブ音源は"僕らの夏の夢"。18年4月25日、広島クラブクアトロでの、伊藤/難波と三人編成でのライブを収録した。
 すなわちすべての楽曲は伊藤/難波が参加してる。これも一つの対比項。アナログの極みでシンプルな3リズムのアコースティックな演奏と、新曲のデジタルを同じ奏者で並べて、同じグルーヴを出せてることを示した。

 そしてもちろん、選曲もにくい。"僕らの夏の夢"(2009)は"サマーウォーズ"のタイアップ。本盤の細田守監督って共通項で連結した。
 細部までコンセプトをブレさせず、きめ細かい達郎の気配りが行き届いたシングルだ。

Track list
1.ミライのテーマ
2.うたのきしゃ
3.僕らの夏の夢 (Acoustic Live Version)
4.ミライのテーマ (Original Karaoke)
5.うたのきしゃ (Original Karaoke)

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