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Shelby Lynne 「Just a Little Lovin'」(2008)

 清廉な空気でストイックかつ美しいカバー・アルバム。

 ヴァージニア州出身のカントリー歌手、シェルビー・リンの10thアルバム。英歌手ダスティ・スプリングフィールドのカバー集を発売した。"Identity Crisis"(2003)、"Suit Yourself"(2005)とセルフ・プロデュースが続いたのに、本作は大御所フィル・ラモーンを起用した。続く"Tears, Lies and Alibis"(2010)ではBrian Harrisonとシェルビーのプロデュースへ変わる。

 あくまで本盤ではコンセプトにふさわしい、ポップス界のスタッフを選んだのだろう。
 なお録音とミックスはアル・シュミット。LAのキャピトル・スタジオで録音された。ギターにディーン・パークスも参加している。ドラムのCurt Bisqueraも売れっ子スタジオ・ミュージシャンだ。

 しかし演奏は簡素で素朴だ。ブラスや弦は無し。オリジナルの華やかな空気を徹底的にそぎ落とし、4リズムだけのアレンジ留めた。ボーカルにエコーを極端に利かせ、ときに無伴奏っぽく歌う場面もあり。
 きらびやかに飾った空気をカバーではなく、骨子となる優しさだけを抽出した。フィルの狙いかは分からないが、見事な演出だと思う。

 なおシェルビーは1968年生まれだから、ダスティは親でもおかしくない世代。カバーのテーマにダスティを選ぶのはちょっと意外だ。親から聴かされて思い入れあるのだろうか。
 ちなみにシェルビーは決して家族環境に恵まれてはいない。アル中の父親に母親を、目の前で射殺された壮絶な過去があるという。妹のAllison Moorerも歌手で活動している。

 本盤はダスティのキャリアを俯瞰でなく、特定のアルバムに選曲を絞った。
 "A Girl Called Dusty"(1964)から(2)、"Stay Awhile/I Only Want to Be with You"(1964)から(4)。
 "You Don't Have to Say You Love Me"(1966)から(3)、"The Look of Love"から(5)、"Dusty in Memphis"(1969)から(1)(6)(8)。
 "See All Her Faces"(1972)から(7)、そしてオリジナル・アルバムには未収録っぽい、シングルのみの"How Can I Be Sure"(ラスカルズのカバー)。

 これらダスティのカバーに加え、オリジナル曲は(10)だけシェルビーは投入した。

 ひとしきりカバーを並べ、オリジナル曲でいったんしめる。そしてアンコールのようにラスカルズのカバーのカバーを配置して余韻を持たせるという。
 構成が素晴らしく、選曲も良い。なまじダスティのグレイテスト・ヒット集なコンセプトに引きずられ過ぎてもいない。一方で有名曲はきっちり取り上げており、過不足も無いしくみ。

 ダスティのマニアには食い足りないとしても、オールディーズをちょっと齧ったくらいにぼくには、十二分に嬉しい選曲だ。
 マン=ウェイルの(1)、バカラック=デイビッドの(2)(5)、トミー・ジョー・ホワイトの(7)、ランディ・ニューマンの(8)。綺羅星な職業作家の曲が並ぶ。「この胸のときめきを」の邦題で有名な(3)はプレスリーのカバーもあり。

 英国人ながらアメリカ音楽をこのんだダスティを、洗練されたカントリー風味で再解釈する、二重三重に入り組んだ愛情表現が凝っている。オリジナル曲もすとんとアルバム世界に収まって過不足が無い。

 そしてあっけらかんとシンプルなアレンジで歌うシェルビーの歌声も、お人形みたいなのっぺりさでなく、抑揚や感情表現もきれいだ。さらに妙なコブシやメロディの崩しを入れず素直に歌っていて好ましい。

 オリジナル曲への愛情が伝わり、なおかつ虚飾を廃した凛々しい音楽が詰まった。これは傑作だ。


Track list
1 Just A Little Lovin' 5:20
2 Anyone Who Had A Heart 3:33
3 You Don't Have To Say You Love Me 4:11
4 I Only Want To Be With You 3:50
5 The Look Of Love 3:20
6 Breakfast In Bed 3:21
7 Willie And Laura Mae Jones 4:09
8 I Don't Want To Hear It Anymore 4:37
9 Pretend 3:07
10 How Can I Be Sure 3:34

Personnel:
Shelby Lynne – Acoustic Guitar, Electric Guitar, Lead Vocals, Background Vocals

Kevin Axt — Bass Guitar, Upright Bass
Curt Bisquera – Drums
Gregg Field — Drums
Rob Mathes – Keyboards
Dean Parks – Acoustic Guitar, Electric Guitar

Phil Ramone – Producer
Al Schmitt – Engineer, Mixing

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