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Huey Lewis And The News 「Sports」(1984)

 時代の音色と、昔ながらのロックンロールが結びついた傑作。

 ヒューイ・ルイス&ニューズの感想を書くなら、まず本盤に触れて記憶に落とし前をつけておこう。

 やはりこの盤は思い出深い。リアルタイムでドンズバ。洋楽に興味持った中学生の時、FMステーションのまんなかに乗ってたキャッシュ・ボックスのチャートを眺めてた。日本でシングル・カットされぬ曲もあり、FENのケイシー・ケイサムによるトップ40を知ってずっとラジオに耳を傾ける。

 最初に聴いたのは"Heart and Soul"。なんだこれは、と思った。
 続いて"I Want a New Drug"。これはちょっと硬くて、ノスタルジー感ある"Heart and Soul"ほどは馴染まなかったような。でも日本でシングル・カットされなかったんだっけな。
 邦題のつかないFMステーションのチャートを眺めて、海の向こうの文化に触れてるワクワク感を感じてる中坊だった。

 次が"The Heart of Rock & Roll"。アメリカのロックンロールの魅力を、明確でずしんとした80年代サウンドに仕立てた楽曲にやられた。これが洋楽か、と思ったものだ。
 そして甘酸っぱいバラードの"If This Is It"。ここまでで約1年。思春期の一年は速くて短い。渋谷の警察横にあったタワレコに行き、山積みされたLPの迫力に圧倒されて、洋楽へどんどん馴染んでいた。
 すでにマイナーな音楽に興味を持ち始め、本盤最後のシングル"Walking on a Thin Line"の頃は、ちょっと斜めに彼らを見ていた。売れ線バンドか、と。
 もはやヒューイ・ルイス&ニュースはスターダムに上がっていた。

 なおタワー・オブ・パワーを知ったのもヒューイ・ルイスのおかげ。以前からライブでToPのホーン・セクションを起用していた。かつてのアイドル、ちょっと落ち目なToPを救い上げる形で。
 これまたFMステージョンのライブ・レビューで「ホーン隊はタワー・オブ・パワー」とあり、興味を持って調べてみた。インターネット何ぞ無い時代だ。全貌をつかめぬまま、もどかしい思いをした記憶もある。

 ということで、本盤は冷静に聴けない。思春期の思い出補正が山のように入ってる。
 久しぶりに聴いてみたが、イメージ以上にドンスカと硬く分離良く加工された80年代サウンドだな、と実感した。

 プロデュースは彼らとビル・シムジク。しかし音づくりはミックスした当時の売れっ子ボブ・クリアマウンテンの趣味が強く出たのだろう。ミックスはNYのパワー・ステーション。うーん。時代だ。
 ちなみに録音はカリフォルニアのFantasy StudiosとThe Plant Studiosで行われた。

 手元にLPが無く配信で聴き返してるのだけれど。クレジット見て奇妙なのは、ToPのホーン・セクションが本盤には記されていない。
 確かにアレンジでもサックスはいるけれど、ホーンの役割はデジタル・シンセの硬質な音色が務めてる。

 たとえば"I Want a New Drug"の間奏もサックスのアンサンブル。多重録音ってことか。金管楽器の張りつめた音色は聴こえない。
 "Do You Believe in Love"のシングル・ヒットを放った"Picture This"(1982)の翌年に発表された本盤。こちらにはToPの面々は参加してたのに。

 バンドだけにサウンドを絞り込み、なおかつ最新鋭のアレンジ・スタイルを採用してヒット狙いが本盤と言うことか。
 確かに狙いは見事に当たった。
 
 マイケル・ジャクソンの"スリラー"に代表される、「LPからどんどんシングルを切る。12"もあるよ」って当時の流行にも見事に乗り、本盤から5枚のシングルが切られた。全9曲、過半数は越えてる。B面入れたら7曲がシングルになった。
 そのうえ実際のシングル発売は無かったようだが(3)はPVがMTVで流れて、実質はシングルみたいなもの。すると8曲か。

 ちなみに当時のシングルB面を調べてみたら、意外と面白かった。発売順にUS盤7"の構成は次の通り。

a)Heart And Soul/You Crack Me Up
b)I Want A New Drug/Finally Found A Home
c)The Heart Of Rock & Roll/Workin' For A Livin' (LIVE)
d)If This Is It /Change Of Heart
e)Walking On A Thin Line/The Only One

 B面は(a)(b)が本盤収録の曲。(c)は本盤収録のライブ・テイクを採用して、(d)と(e)は前作"Picture This"の曲だ。
 最初はオーソドックスに売り出して、(c)はネタ切れというかお茶濁し。最後の2枚はヒットの余勢をかり、本盤のみならず前作も売ろうって腹では。ぐんぐん勢いづきながらも、例えばプリンスのようにシングルB面は音楽的実験や挑戦に使わず、単純にビジネスをあっけらかんとかます。この無造作さは微笑ましい。売らんかな、のそろばん勘定は冷徹に感じない。贔屓目、だろうか。

 それにしても本盤はつくづく音にパンチ力がある。楽曲の瑞々しさもさることながら、一つ一つの音が太い。
 前作、そして以降の諸作を聴いても本作ほど音にみずみずしさを感じないのはなぜだろう。これが思い出補正というやつか。

 ドラムにエコー処理をかけ、シンセが硬質に鳴りギターが派手になってコーラスで隙間を埋める。
 アメリカのロックンロールのスタイルをストレートに示し、埃っぽさとパワフルさを見事に表現した。不良っぽさや産業ロックには行ってない。そこまで本盤発売の時、彼らはビジネスにまみれるほど売れてなかった。

 あくまでストレートにロックと向かい合い、ヒットを願って精魂込めた作りが、希望通り売れたって構図だ。だからこそ、本盤は溌剌としてる。
 売り上げに対する、過度なプレッシャーも無かったろう。
 
 このあと映画"Back to the Future"の"Power of Love"で場をつなぎ、たぶんツアーもどっさり。3年後に"Fore!"(1986)を発表する。"Fore!"のころは、きっちりと売れ行きを期待される存在になっていた。以降は出来は練られてたとしても、どこかぎこちない。

 とにかく本盤は、一曲一曲の仕上がりがいい。
 さらに、がちがちにアレンジされた例えば(4)と、アコースティックにブルーズをかます(9)(ハンク・ウィリアムズの52年作をカバー)を同居させる融通無碍な振り幅の広さも楽しい。
 なお1stシングルの(2)も元は81年にケンタッキーのバンドThe Exilesの作品をカバーした。他は彼らのオリジナル曲。

 ヒットに向けた気合と、無邪気にロックンロールを楽しむ遊び心が同居してる傑作だ。
 

Track list
1 The Heart Of Rock & Roll 5:01
2 Heart And Soul 4:10
3 Bad Is Bad 3:46
4 I Want A New Drug 4:46
5 Walking On A Thin Line 5:08
6 Finally Found A Home 3:42
7 If This Is It 3:46
8 You Crack Me Up 3:39
9 Honky Tonk Blues 3:16

Personnel:
Huey Lewis – lead vocals, harmonica
Mario Cipollina – bass
Johnny Colla – guitar, saxophone, backing vocals
Bill Gibson – drums, percussion, backing vocals
Chris Hayes – lead guitar, backing vocals
Sean Hopper – keyboards, backing vocals

Pedal Steel Guitar – John McFee (tracks: 9)

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