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細野晴臣 「Paradise view」(1985)

 強度のある音色が全編で溢れる、幻想的かつ生々しい電子音楽。

 しばらく廃盤だったが、なぜか18年7月に配信音源で再発された。
 毎月発売してたモナド・レーベルの4部作の第3弾。"マーキュリック・ダンス"と同時発売だった。

 細野晴臣がテイチクと契約して作ったノン・スタンダード・レーベルと対になるアンビエントで前衛的な音楽がモナド。「観光音楽」って単語もキーワードにあった。
 膨大な音楽を作り、次々に発表する。きっちり作りこまず、スタジオに入ってから即興的に製作してたらしい。

 モナド・レーベルに残された4作は、どれもテーマがある。それぞれに趣きがあるのだが、この盤の猛然たる曖昧さが格別だ。CMソング集のポップな"COINCIDENTAL MUSIC"、無限テープでのミニマルさを追求した"ENDLESS TALKING"、生楽器とテクノの交歓を志向した"MERCURIC DANCE"。
 そして本盤は映画サントラの立ち位置ながら、BGMに堕さず凄まじい存在感を持つ。もっとも実験的で、最高にアイディアに満ちている。

 ぼくは本盤が出たとき、高校生。とてもすべての音楽を買って聴くことができず、モナドは後まわしになっていた。大量に次々作る弊害か、この当時の音源は音色やメロディーのモチーフに若干の共通性がある。本盤でも"銀河鉄道の夜"に通底する箇所がいくつかあり。
 それをぼくは「使い回し」と感じてしまい、モナドはあまり興味を惹かなかった。それよりも"S.F.X"や"銀河鉄道の夜"のサントラに夢中だった。

 だが後年に聴き返すと、改めてこの盤の強烈さがわかる。この盤は同名映画のサントラ。沖縄をテーマに、しかし全く違う世界観を細野はテクノで描いた。
 改めて思う。このときの細野は本当に冴えわたっていた、と。次々に音が産まれ、そして独特の世界を作っている。けっして手なりでも使い回しでもない。

 今にして本盤を聴くと、まず音色の強靭さに圧倒される。シンセの野太さだけでなく、音色そのものを揺らがせ、響かせる。繊細にして大胆。
 楽曲もエキゾティックさを保ちながら、描く風景はどこにもない。観光音楽、とは言いえて妙。全くの別世界ではなく、自分の立ち位置と異なるほんの少し違う異世界を細野は本盤で描いた。

 沖縄音楽らしき場面はいくつか漂う。けれども細野は素直に沖縄音楽を表現しない。自分自身の深くきめ細かいフィルターを通して、断片を浮かび上がらせ機械仕掛けのタイトな響きに埋め込んだ。
 
 幻惑と酩酊が充満する音楽だけど、本質は理知的で細密だ。拍子を弄り、アクセントを揺らし、残響を操り、旋律を砕く。サンプリングされた沖縄の音楽が機械仕掛けに溶け込んだ。
 奔放なイマジネーションが次々に現れて消えていく。
 アルバムを通した流れや展開は特にない。けれどチグハグさは皆無。迷路をうろついてるうちに、ぽおんと出口へたどり着く。
 

A1 イメージ・オブ・パラダイス
A2 イメージ・オブ・ビュー
A3 魂のダンス
A4 ユタの祈り

B1 アッティ
B2 火の車
B3 海上トラック
B4 琉球ジャズ
B5 パラダイスビュー

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