TZ 7215;Ruins "Symphonica" (1998)
そぎ落としたデュオ・アンサンブルがルインズのコンセプトだが、本盤は敢えて鍵盤を入れてゲスト・ボーカルを招いた。
ベースは第4代にして、たぶん最終となる最高のルインズ・ベーシスト、佐々木恒。
録音時期が未記載だが、おそらく吉田の自レーベル磨崖仏からの大傑作"VRRESTO"(1998)をリリース前後と思う。
ちなみにぼくは"PALLASCHTOM"(2000)がルインズの最高傑作と考える。もちろん"TZOMBORGHA"(2002)も良いが、いささか作りこみに傾倒したきらいあり。肉体性と緻密な作曲の相克が見事に成り立ったのが、"PALLASCHTOM"ではないか。
なお、それ以前のルインズも、とうぜん好きだ。もっとも好きな曲が"Pig Brag Crack"(Hyderomastgroningem:1995/Tzadik)収録曲。
本盤に話を戻そう。録音クレジット見ると、奇妙な進化をほどこしたと想像できる。
まず基本のルインズ音源を吉祥寺GOKスタジオで録音。次に鍵盤だが、本盤でゲスト演奏の小口健一(Kenso)がアレンジとダビングをほどこした。ってことは、ルインズに"プラス"鍵盤であり、"鍵盤との合奏"がコンセプトではない。
あくまでルインズの変奏系とし本盤が製作された。吉田のアイディアとジョン・ゾーンの要望、どちらだろう。
なおゲスト・ボーカルは吉田が自宅で録音、ミックスも吉田の手による。
だから収録曲も旧作が並ぶ。"GRAVIYAUNOSCH"(1993)と、"HYDEROMASTGRONINGEM"(1995)の頃が目立つかな。新譜発売ライブで新曲を投入する勢いだったルインズなので、これらの作曲時期はライブを追っかけてない限り分からない。残念ながらぼくは知識というか経験不足でコメントできず。
アルバムの印象は久保田やエミの色づけで、いくぶんポップさを増した。シンセはパッドやピアノ系の広がりある音色を使ってる印象。ダビングゆえにルインズとの有機結合は薄いが、親しみやすさを増してるのは否めない。
ただまあ、本音を言うとぼくは本盤って企画盤もしくは鬼っ子の域を超えないと思っている。ルインズの魅力やコンセプトと逆ベクトルだから。
ルインズを聴くなら、研ぎ澄まされたオリジナル編成での盤をまず聴くべきだと思う。
ぼくはプログレそのものには、さほど思い入れが無く吉田達也の音楽が好き。そんな立ち位置こその感想だ。
とはいえELPを筆頭にコンパクトなプログレ好きから、ルインズへの案内盤としては本盤って意外とお役立ちなのが困りもの。
誰もが添え物にならず、三人が絶妙のバランスで対決しうるサウンドの可能性を秘めている。せめて一曲、セッションで新曲投入あってもいいのに。
さらにボーカルのレイヤーも分厚くて、厚化粧気味に感じるときもある。
もしアルバム全てがトリオのみ、そのうえ即興込みのライブ録音だったりしたら、とんでもない傑作になったと思う。ルインズとかプログレの枠を軽く飛び越えて。
うーん、そう考えると悔しい盤だな、これは。
Personnel:
吉田達也: Drums, vocals
佐々木恒: Bass, vocals
小口健一: Keyboards
エミ・エレオノーラ: Vocals
久保田安紀: Vocals
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