TZ 7051;大友良英"Cathode" (1999)

作曲家大友にスポットを当てた盤。メロディより周波数そのものを操る大友流の嗜好を象徴する、小さな音系の作品群を収録した。


中ジャケに楽譜例の掲載有。音の高さや長さより構成を重視。瞬間は即興性を奏者へ委ね、コンセプトと枠組みを大友は作曲した。両極端の楽曲を収録で、振り幅の広さを提示したともいえる。

(1)はアコギとサイン波、笙のモジュレーションを狙った作品。ギターはシンプルなフレーズだが、名手の今堀が演奏した。たぶんあと10年後なら、大友自身が弾いてたろう。そのくらい、この15年で大友のギターに対する表現手法は変わった。
本作では耳を突くサイン波の刺激が強烈だ。穏やかなアコギの背後で音が加わり、柔らかいがわずかな緊迫を表現した。

ある意味、この楽曲が大友の作風を象徴してる。たとえばミチやsimみたいに構造の厳格さとは異なる。ヴァンデルヴァイザー楽派や杉本拓のように空白を一つの要素には、あまり積極性を持たない。
むしろ音像を埋め尽くす。持続と揺らぎに美学を見出すのが、大友の好みの一つだと思う。

同じシリーズで、ジャケットに楽譜記載が(4)。こちらは石川高とSachiko Mのデュエット。楽譜構造を細かく書いてみよう。
まず、笙とサイン波の単音デュオ。笙の揺らぎでウネリを出す。一分後にオクターブ上のサイン波がフェイドイン。サイン波のピッチをゆっくりと変化させ、サイン波2本のウネリを出す。
当初のサイン波もピッチを変える。さらに10Khz,15Khzの音も追加とある。どの程度、今自分の耳に届いてるかは不明だ。このとき並行して笙も七、ときに八の音を追加、とある。詳しくは不明だが、Wikiにあるそれぞれの音を追加ということか。なお別Webにも笙の奏法解説があった。

図形楽譜上では、既に細かな音と高低がランダムな線の集成になってる。ここで指揮者のキューが入り、サイン波と笙は音が一本に絞られる。
ウネリがしだいに収束し、単音へ。やがて、指揮者のキューで終演。

つまり時間をかけたウネリの変化を堪能できる楽曲だ。純粋なサイン波と、強烈な倍音を感じさせる笙のコンビを掛け合わせ、幻想的な世界を作る名曲だ。ただし相当に聴覚の刺激を与えるため、聴き流すには向かない。

これら(1)や(4)の対極コンセプトが(2)と(3)の"カソード"シリーズ。さらに"カソード"は、同じ大友による轟音系の"アノード"シリーズともコンビの関連を持つ。
"カソード"のコンセプトは空白とノイズの融合だ。ヴァンデルヴァイザー学派との違いは、静寂は偶発であり意図しない点。他の楽曲でも見られるが、大友の好みは繰り返しを避けるところ。ミニマルさはあまり志向せず、むしろ混沌を追求する。

本作の"カソード"は10人近くの大編成で、異なる楽器群が産み出す多層性を楽しめる。なお本コンセプトの対極がFilament、とも言えるだろう。このように大友の作品群は、決して一過性のもではない。確固たる作曲者の意志があり、その変奏や対比をさまざまに位置づけられる。大友の真摯さ、無骨なほどの頑固さを著す、と考えている。

音楽は聴かれてこその存在意義、と考えたとき。例えば対極がサティの"家具の音楽"であり、BGMだ。積極的な聴きを回避し、空気に埋没させる。
大友が本コンセプトを敷衍が(3)にあたる。ライナーでは「聴こえるかどうか小音量、隣の部屋から聴くくらいでいい。環境の一部になるくらい」を求めている。皮肉なことに本ライナーを読まなければ、この楽曲をボリュームあげて聴きこむだろう。大友がそこまで二面性を意識したかは不明だが。

(3)は無秩序な世界が、悠然と広がる。(2)でのアナログな響きに対比し、(3)では電子音が前にでた。震える空気、構造を読めないノイズ。だが、これは明らかに音楽だ。西洋人は「岩にしみいるセミの声」は感じないという。単にノイズに聴こえるらしい。
だが日本人は鳥や虫の声を静寂に溶け込ませる文化を持つ。大友の本作を聴いて、真っ先に頭へ浮かんだのは、このことだ。
明らかにノイズ。だが、ふっと静寂に聴こえる瞬間がある。そう、大友こそが日本文化を電子音楽やノイズの視点で明確に披露しているのかもしれない。

Personnel;
大友良英: Sampling Composition On Hard Disk Recorder
吉田アミ: Voice
ユタ カワサキ: Silent Synthesizer
石川高: 笙, Reverse-sho With Electronics
Sachiko M: Samplers
菊地雅晃: Contrabass
Kudo Miho: Violin
江藤直子: Piano, Prepared Piano
Mochizuki Naoya: Cello
Yamashita Toru: Whistling
今堀恒雄: Acoustic Guitar
近藤祥昭: Tape Manipulation
田中由美子: 太棹三味線

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