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菊地成孔/小田朋美 「OST:素敵なダイナマイトスキャンダル」(2018)

 理知と感情を行き来する酩酊感と、現代音楽風の断片が聴けるサントラ。
  

 ぼくはこの盤を語る音楽素養を持たない。複雑な響きと突飛な跳躍するメロディが現代音楽のクラシックみたいだな、と思うだけ。けれどもサントラは本来、映画があってこそのもの。

 だから本盤で聴ける音楽は、音楽家の中から生まれた作品でありながら内的衝動よりも映像と調和を意識しながら作られている、はずだ。
 たまに映画と無関係に音楽を奏でて、あとは監督の方でよろしくっていうジョン・ゾーンが得意とするスタイルもあるけれど。本盤はそれと少し違う感じがする。
 映画のBGMとしての役割をきちんと意識しつつ、さらに音楽的な冒険を行っているかのよう。

 本盤は"菊地成孔 小田朋美&ペンギン大学RE-MIX LAB"名義で発売された。菊地の楽曲を小田がアレンジって単純な構図ではなく、二人で共同作曲しているらしい。
 末井昭による自伝が映画化された。末井は西原理恵子の"まあじゃんほうろうき"(1990)などでの「末井どん」なイメージが強い。
  

 あいにく末井の本を読んではいないけれど。もっと下世話で昭和的な音楽が似合いそうなのに、菊地と小田は敢えて知性的なクラシックを中心に、あとはヒップホップ風味の(15)、さらに美しい弦アレンジの歌もの曲を投入してきた。

 歌ものは尾野真千子と末井のデュエット。ピッチがだいぶ怪しい末井の歌いっぷりだけど、アレンジやメロディ・ラインはまさに菊地節。いや、スパンク・ハッピー節。
 なおインタビューによると菊地はこの時点で、スパンクスの再結成は全く考えていなかったと強調している。
http://realsound.jp/2018/06/post-208704_2.html
 仮歌は菊地と小田が歌ったという。本盤にはこの歌もののピッチを弄るリミックスも収録されているけれど。せっかくならば仮歌バージョンも聴いてみたい。もしかしたらリミックスの部分には混ぜ込まれてるかな。

 サントラ収録は19曲。一曲は短くて、じっくり演奏や楽曲を楽しむ方向とは違う。断片が浮かび上がって、すぐ次の曲に向かう。楽典がわかれば色々と分析できるのだろう。誰か詳しい人の解説を読みたいものだ。
 
 弦はペペ・トルメント・アスカールにも参加した4人が担当。マリンバの塚越慎子もペペと共演歴あり。鈍く歪んだサックスは、菊地が軋ませてると思ったら末井自身が吹いていた。
 菊地はPiano, Bass, Tambourineと、ちょっと意外な演奏クレジットがなされている。

 本盤は独善的に音楽を作ったサントラではなさそう、だ。本盤だけをとりあげてどうこう言うのはピント外れだろう。それでもなおかつ、本盤の音楽性を突き詰めたオリジナル・アルバムの幻想を抱いてしまった。

 クラシックとポピュラー音楽、理性と情感。二つの要素を溶け込ませて、ロマンティックで美しい世界を作る菊地の特徴が、本盤には見事に現われている。
 アルバムの後半はリミックス曲が並ぶ。執拗に主題歌が現れ、解体と再編を繰り返す。
 一つの価値観に安住せず、擾乱する。ここまで主題歌を変奏する構成が骨太な迫力を持つ。それにもかかわらず、危うげな歌声が深みよりも浮遊する酩酊感を演出した。
 繊細で緻密だが、大胆な菊地の視点が本盤でも味わえる。主題曲を軸にして、現代音楽的な風味がとてもかっこいい。
 映画音楽の立ち位置を離れて、単品でも十分に楽しめるアルバムだ。

Track list
1. 素敵なダイナマイトスキャンダル/オープニングテーマ(full ver)
2. 半鐘
3. 禁書の友
4. 水滴2
5. 水滴1
6. 水滴3
7. 肉片
8. Expose! ~絵の中の尺八
9. 襟巻
10. 三つの取引
11. Expose! ~塗装された裸の徒競争
12. 山の音 full ver.
13. 素敵なダイナマイトスキャンダル/オープニングテーマ OST ver.
14. 山の音 OST ver.
15. scandal-X/Re-mix ver.0
16. 山の音 Remix ver.1
17. 山の音 Remix ver.2
18. 山の音 Remix ver.3
19. Expose! ~絵の中の尺八 Remix ver.

Personnel:
菊地成孔(Piano, Bass, Tambourine)
小田朋美(Piano)
末井昭(Sax)
塚越慎子(Marimba)
牛山玲名(Violin)
田島華乃(Violin)
舘泉礼一(Viola)
関口将史(Cello)
大矢朋広(A.Guitar)

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