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TZ 8352:John Zorn "There Is No More Firmament"(2017)

 近年の流れを概観できる、厳かかつスピーディな現代音楽の小品集。

 ジョン・ゾーンの現代音楽集で2013-16年の作曲をオムニバス。録音時期もまちまちだ。
 ブックレットには各曲の譜面が冒頭のみ掲載された、近年のゾーンの現代音楽作でおなじみのデザイン。
 小編成アンサンブルを基調だが、独奏など様々な編成も混ぜて多様な構成でバラエティに富んだ。9曲入りで10分越えが2曲のみ。いがいと手軽に、集中力を切らさず聴ける。

 猛烈な疾走と激しい跳躍、不協和音とコラージュ。即興性を譜面モノと混淆させ、物語性を削除して混雑がゾーンのスタイル。委嘱があるにせよ、精力的に作曲を重ねるゾーンの創作力はすごい。
 歳を重ねるにつれスカムさは軽減し、メロディアスさや聴きやすさも若干は意識していそうな気がする。
 とはいえ現代音楽へ馴染まない耳だと、取っつきは悪いだろう。

 (1)はトランペット6重奏。本盤の中でもっとも心地よい。木霊のように金管がメロディを行き来させるファンファーレ。突飛な譜割も少なく、スリリングで穏やかかつ明朗にトランペットは輝いた。きらめくフレーズが美しく、どきどきする。
 ピッチをきれいに併せて金管の持つ華やかな魅力をストレートに出した。ゾーンの現代音楽とは思えぬメロディアスな展開がいっぱいだ。

 米作曲家のカール・ラッグルズ"Angels"(1921)と露ストラヴィンスキー"Fanfare for a New Theatre"(1964)のトランペット用の二曲がゾーンは好きで、この曲に参照したとブックレットに記載あり。

 これは14年9月の録音。13年9月にゾーンの生誕60歳記念で行われたイベント"Zorn at the MET"で初演された。
https://www.metmuseum.org/press/news/2013/concerts-september-2013

 (2)は変拍子と特殊奏法が炸裂する、Vln x1,Vc x2の室内楽。全体が137小節を意識して、11の断片を混ぜ合わせたという。ゾーンのオカルティックな数秘術が楽想に盛り込まれた曲。
 確かに展開はとりとめなく、なおかつ突飛な音が頻出する。しかしそれらを音楽的に解釈し表現できる奏者のテクニックがあってこそ存在できるもの。
 昔のゾーンの同様作とは異なり、近年はきっちりとゾーンの音楽へ寄り添って奏者も演奏してるように聴こえる。この曲もしかり。
 たぶん譜面を眺めながらのほうが、こういう曲はより楽しめる。16年4月の録音。

 (3)は16年6月20-21日の録音。一発録音でなく継ぎはぎなのかもしれない。トランペットの独奏曲で、特殊奏法がてんこ盛り。譜面を見ても複雑怪奇な指示や音列が並ぶ。
 クラシックにフリージャズやノイズのイディオムを混ぜた楽曲とゾーンは述べた。
 子供の頃に親しんだ現代音楽、過去に共演してきたジャズ系のミュージシャンらから受けたイマジネーションを元に作曲らしい。

 なお(6)も同じ曲で、16年12月の録音。すなわち違う日に違う奏者による違うキーの楽器で演奏が本盤に収録された。
 前者がB♭、後者はキーがCでベルの二つ付いた特殊形状の楽器。
 双方とも譜面のとおりと思うが、(6)のほうがフリージャズっぽさを強く感じた。(3)はどちらかと言うとくっきりした輪郭。(6)は籠った凄みが滲む。

 (4)と(5)はピアノ・トリオ編成。ゾーンが近年に拘っている、リード楽器が譜面でリズムがジャズ奏者の即興なアプローチ。リズムの自由度とグルーヴ、メロディの確かなテクニックと精緻な構成が産む美学を追求した曲だ。
 リズム隊も譜面を見て叩いているのか、メロディから乖離せずピタリ吸い付く猛然さだ。譜面はピアノのみ、リズム隊には何の指示もない。コード譜もないが、クリスチャン・マクブライド(b)は、初見で録音ではないのかな。メロディから離れず、ぐいぐいとドライブさせる。
 二部構成な"Divagations"を二つの構成に切った。ジャズの持つタフな魅力を、クラスターみたいなフレーズも含めて譜面で指定しながら、リズムは躍動。キメラな生命力を感じて、確かに面白い。

 (6)は2014年6月に録音したクラリネットの独奏曲。
 ヘルマン・ヘッセ"荒野のおおかみ"(1927)に題材を得た楽曲とある。12年9月にクラリネット奏者、Josh Rubinと会話で着想した。
 ストラヴィンスキーの曲も混ぜた本曲は、ころころと拍子が変わる難しい曲。だが独奏ゆえにメロディそのものは奔放かつのびのびと響く。拍子に縛られず、フレーズに併せて拍子を切ったかのよう。
 数日でゾーンは作曲を終えたとある。クラリネットの持つ寂し気な響きを、むやみに特殊奏法に頼らず、切なく優美に描いた。これも良い曲だ。

 (7)は13年9月に録音の、金管8重奏。妙に内へ籠った響きで、テクノのような構築美が心地よく癖になる。"メトロポリス"みたいに古めかしいSF映画のBGMにも似合う。
 2分半の小品。グッゲンハイム美術館でのクラシック・コンサート用の委嘱曲。
 G#と高音の響きを取り込んだのが狙いだそうで、煌めき軋む金管の妙味が心地よい。

 (8)は5人編成の室内楽で16年10月の労音。ほぼ全員が持ち替えする、忙しそうな曲だ。ゾーンが好むアントナン・アルトーに着想得た曲で、作曲は13年の6月。
 (2)と同様な、いかにもの現代曲。変拍子のため小節線があいまいになり、浮遊するメロディが不安定な空間を創る。不穏さに馴染めたら、この曲に没入できる。
 つかみどころはないけれど、極端な特殊奏法がないため耳には優しい。終わり方が唐突で拍子抜けが面白い。

 ゾーンはマメに自作をこうして録音しているようだ。机上の譜面書きで終わらず作品化まで整えられるのは、現代音楽界でも稀有ではないか。
 培った人気と精力的なパワーあってこそ。確かに難解ではあるが、決して頭でっかちな作品ではない。このような活動は、着実にこのまま続けて欲しい。願わくば日本でこれらの生演奏を聴いてみたいもの。ゾーンの来日や指揮が無くてもかまわないから。

Track list
1 Antiphonal Fanfare for the Great Hall 3:53
2 Freud 10:05
3 Merlin 6:10
4 Divagations: Ravings 5:19
5 Divagations: Wanderings 4:36
6 The Steppenwolf 6:44
7 In Excelsis 2:22
8 Merlin (Version II) 6:49
9 II n'y a Plus de Firmament 11:34

Personnel:
1. The Practical Trumpet Society :
 Tim Leopold, Stephanie Richards, Mike Gurfield, Alex Bender, Andy Kemp, Sam Nester (tp)
2. Chris Otto(vln), Jay Campbell(cello), Mike Nicolas(cello)
3. Peter Evans(tp)
4,5. Steve Gosling(p), Christian McBride(b), Tyshawn Sorey(ds)
6. Joshua Rubin(cl in A)
7. American Brass Quintet :
Kevin Cobb,(tp) Louis Hanzlik(tp), Eric Reed(hor), Michael Powell(tb), John D. Rojak(bass-tb) Matthew Welch(conduct),Andy Kemp(tp), Andy Clausen(tb), Marcus Rojas(tuba)
8. Marco Blaauw(Double Bell tp in C)
9. Talea Ensemble :
Tara O'Connor(fl, piccolo, alto-fl, bass-fl), Rane Moore(cl, bcl, E♭-cl), Arthur Sato(oboe, eng-horn), Adrian Morejon(bassoon), John Gattis(horn), James Baker(conduct)

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