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静寂 「何があっても生き抜く覚悟の用意をしろ」(2010)

 灰野流に血肉として咀嚼した、前世紀のブルーズを無垢にさらけ出した。

 静寂はナスノミツル・一楽儀光と灰野敬二が2010年に結成した。本盤はdoubtmusicから二枚同時に発売したデビューアルバムの片割れ。英題は"You Should Prepare to Survive through Even Anything Happens"。
 当時のキャッチ・コピーは「20世紀のブルースと21世紀のブルース」。同時発売の"Mail From FUSHITSUSHA"と呼応する構造を取った。
 
 静寂は2010年に結成され2012年12月24日、秋葉原グッドマンでのライブを最後に活動停止を余儀なくされた。一楽の腰の不調でドラムを叩けなくなったことにより。
 そしてナスノミツルは並行して不失者に参加。"光となづけよう"(2012),"まぶしいいたずらな祈り"(2012)を残して、バンドから抜けた。
 結果的に静寂もナスノ入りの不失者も、ひどく急速に駆け抜けた感の活動になった。別に喧嘩別れではあるまい。その後も共演しているし。

 灰野敬二は多数のミュージシャンと共演しているが、バンドにはひときわこだわりがあるように見える。独特な音楽性を持っているがゆえに、コンセプトを掴んだら離さず突き詰め深めていくかのよう。
 静寂はたまたま急停車したが、続いていたらどんな演奏を繰り広げていたのだろう。
 
 不失者と似通った編成がゆえに、興味深かった。滲有無や哀秘謡とは違う。なぜ並行して静寂を立ち上げたのか、と。

 本盤を聴いて感じたのは、より明確な言葉へのこだわり。吼えるギターよりも歌手として灰野は立っている。哀秘謡にコンセプトが近い。だがドラムとベースがくっきりエッジを立て、鋭く青白い空気でかき回した。

 ブルース・ハープをあいまに吹きながら吼える(3)が顕著だ。ちなみにこの曲、背後にきらめくようなハウリングの断片が聴こえてならない。きんっ、ちんっと金属質な空気の破片が舞うかのよう。

 エレキギターをかき鳴らす場面でも、灰野は器楽だけでなく歌にも十二分に気を配った。象徴的に突き刺さる言葉を吐き出す不失者とは、明確に違う。

 一楽のドラムはフリーな拍子を刻むが、テンポ感は比較的落ち着いている。完全な奔放さで変則リズムに拘らず、むしろタイトさの中に定則からずれを滲ませるかのよう。
 ベースのナスノも高度なテクニックを内に秘め、ランダムながら太い頼もしさは消えない。
 つまりこの二人に危うさはない。それでいて定型構造からは優美に解き放たれている。
 いかようにも奔放に行ける二人、なおかつどっしり刻むビートのドラム。その構造が、灰野流のブルージーさを吐き出す本盤に似合う。
 一方で灰野のギターやハーモニカの弾き語りを補強するようにリズム隊がいるようにも思える。似合わないとか乖離があるって意味じゃない。灰野を包むようにリズムが存在し、そのうえで歌もギターもハーモニカもさらに奔放に存在するからだ。

 (4)はカバー曲。ザ・ブルーベル・シンガーズが44年に発売、48年に天地茂がテレビドラマ"非情のライセンス"のテーマ曲でヒットさせた。
 

 ここで言う「ブルーズ」が、本盤の象徴に思える。つまりアメリカ黒人のブルーズではなく、昭和歌謡での"ブルーズ"。切なく渋く、ぶっちゃけおっさん臭く。ぼくの世代から見たら古臭い。おっさんが飲み屋で歌ってたイメージだ。
 そんな情感を灰野は、リアルタイムで聴いた世代として再解釈を施した。

 本来ならダサくて聴いてられない音楽のはずなのに。原曲を聴いてからだと、和音感やフレーズの端々をドラムもベースもちらつかせてるのに。
 崩し倒した灰野の歌声で説得力が出てくる。独自の普遍性が出た。

 灰野が哀秘謡で歌ったレパートリーの数々は、彼の歌唱によって新しい道筋を示された。古めかしい曲にもかかわらず。
 この盤でも同様の体験ができる。じっくりと(4)で終わらせることによって。
 そして冒頭に戻って聴き返すと、最後の世界と(1)の風景に似通ったものを感じた。ループするかのように。

 喉を振り絞り、ざらついた声で空気をえぐり続ける灰野の歌声が、岩壁をよじ登るようにパワフルに轟いた。灰野の生きざまを見せつけた。

 本盤はアルバート・キング、ドアーズ、ステッペンウルフにも捧げられている。灰野が聴いてきた盤なのだろう。影響を受けた男たちなのだろう。やはり本盤は灰野の表現に加えて、生きざまが強く込められているのか。
 ならば一回り違うリズム隊をバックに演奏するところが、何とも興味深い。単に同世代で彼らと同様の奏者がいなかっただけかもしれないが。

Track listing:
1 始まりに還りたい 9:52
2 闘い続ける 9:08
3 あっち側からこっちを見ろ 6:20
4 昭和ブルース 15:39

Personnel:
music played by SEIJAKU
灰野敬二 (vocal, guitar, blues harp)
ナスノミツル (bass)
一楽儀光 (drums)

dedicated to Albert King, The Doors and Steppenwolf

Recorded by Yoshiaki Kondoh at GOK Sound, July and August 2010
Mixed and mastered by 近藤祥昭 at GOK Sound
No overdubs or edits

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