TZ 7028;John Zorn "Angelus Novus"(1998)

ジョン・ゾーンの現代音楽集で4つの作品を収めた。時期は違えどボストンのJordan Hallで収録。指揮したStephen Druryが率いるオーケストラCallithumpian Consortの定演で当時、順番に取り上げられたか。



ピアノ独奏でジョンの代表曲"Carny"を聴くなら、まずこれ。

ジョン自作のArchivalでなくComposerシリーズに本盤は分類された。自作を取り上げてくれた、のこだわりか。

"For Your Eyes Only"は小さめのオーケストラ編成へ向けた楽曲で、1988年の作品。めまぐるしいコラージュで次々に場面が現れては変化していく。96年2月6日に録音された。
ジョンらしい計算づくの作品で、突飛な響きと転換がめまぐるしい。構成は細かく練られている。ジョン初期の作品であり、じっくり育んだ作品かも。

続く"Christabel"は1972年、学生時代にロマン派詩人コールリッジに影響を受けたのがきっかけという、ごく初期のジョンの作曲。フルート4本、アルト・フルート1本、ビオラ1挺の編成。96年11月18日に録音された。ここでは別ミュージシャンによる演奏映像が見られる(ヴィオラは影で演奏)。

オカルティックな荘厳さを保ちつつ、スピードとテクニックを駆使した。音域が高音へ極端に偏っており、音像は鳥たちの囀りめいた混沌が滲む。平行して奏でられる旋律が混ざり合い、細かく聴き分けづらい。勢い、不穏な流れが耳に残る。
極度にテクニカルなフレーズを多用したて早いフレーズと時折訪れる、穏やかな空気。
編成と展開の必然性を分析は出来ず、印象だが。静と動のダイナミズムと、フルートの多重奏が産む淑やかな美しさと、激しいブレスのノイジーな変化球を凝縮した作品だ。風のように旋律が溶けていった。

"Carny"は89年のピアノ独奏曲。Stephen Druryが弾いている。92年6月の録音。
小節ごとに引用が変わる、ヴァーチュオーゾ向けの非常に複雑怪奇な楽曲だ。他の奏者にも取り上げられ、ジョンの現代曲でも普及した一曲ではないか。
聴いてるとルーレットの変数を音楽化したように、落ち着きない楽想の暴れっぷりに翻弄される。楽譜をじっくり見ながら聴いてみたい。インタビューの断片的な知識から類推するに、とても凝ったコラージュ作品らしいから。
 

Stephen Druryは94年の32号にこんな文章も残してる。学術雑誌での論文らしい。
またこの文章の脚注で、譜面の冒頭部分が見られる。音聴きながら譜面追うのも一苦労。

"Angelus Novus"は93年作曲。97年4月15日に録音された。独の思想家ベンヤミンに捧げられ、ブックレットには"Agesilaus Santander"(邦題"アゲシラウス・サンタンデル",『ベンヤミン・コレクション 3――記憶への旅』(1997)収録)も掲載された。
ジョンがユダヤのルーツを見据え作曲したのかも。ちなみにここによると"Agesilaus Santander"とは『「サタンの天使(Der Angelus Satanas)」のアナグラム』説もあるそうだ。

自らのルーツとオカルティズムと入れ替え変奏のアナグラム、さらに数値的な整合性。ジョンのクラシック作品で見られる数々の要素が、全て当てはまる。

編成はオーボエx2、クラリネットx2、バスーンx2、フレンチホルンx2。極度に木管へ偏り、かつ奏者は二人でシンメトリーできる意味深な編成。全5楽章で最も長い3楽章に向け高まっては短く収まる各楽章の時間構成なあたり、色々と仕組んでいそう。

楽想は抽象的な響きが全面に出た、ひどく難しい鳴り。和音も妙な響きを採用しており、寛いで聴くには、ちと不向き。

Personnel:
[Christabel]
Flute - Ann Bobo , Beth Chandler , Cindy Kim,Stephanie Wagner
Flute [Alto] - Gasper Hoyos
Viola - Ilana Schroeder

[Carny]
Piano - Stephen Drury

[Angelus Novus]
Bassoon - Minako Taguchi,Robert McGrath
Clarinet - Bharat Chandra,Min-Ho Yeh
French Horn - Daniel Shaud, James Nickel
Oboe - Izumi Nishizawa, Kyoko Hida

[For Your Eyes Only]
Conducted by Stephen Drury
The Callithumpian Consort of the New England Conservatory
Bass - Chris Burns
Bassoon - Minako Taguchi,
Cello - Walter Haman
Clarinet - Michelle Montone, Julianna Miller,
Harp - Heather Kellgreen
Horns - James Nickel, Molly Pate
Oboe - Tania Tupper
Percussion - Robert Schultz , Scott Vincent , Sean Mannion
Piano - Jun Komatsu
Trombone - Chris Rozmarin
Trumpet - Chris Still , Heinz-Karl Schwebel
Tuba - Roger Clapp
Viola - Christiana Day,
Violin - Haldan Martinson , Mina Sasaki



 遡って時間軸滅茶苦茶に聴くと分かりづらいが、ジョン・ゾーンはジャズメンを基盤に音楽シーンでまず活動しており、作曲家の側面はあまり前面にでなかった。
 一連のゲーム・ピースは即興の一要素、つまりジャズの派生活動と捉えてた。"The Big Gundown"(1985)などの順列コラージュも、作曲でありながらスタジオを楽器と位置付けたジャズの変化形と思い込んでいた。
 "Kristallnacht"(1993)なども「ファイルカード・システム」の変形として、譜面に軸足置いた即興と解釈を試みていた。

 つまりぼくはゾーンの発想を、ずっと気づけなかった。"First Recordings 1973"(1995)が出て「へえ、ゾーンはアカデミックに音楽を学んだのか」と思い、"Redbird"(1995)や"Duras: Duchamp"(1997)が発表されて戸惑った。あれれ、あれれ。もしかして本当に作曲家としてゾーンは譜面書きをきちんとやってるの?
 これら一連の盤は発表直後に聴いておらず、よけいに混乱した。

 そんな流れでリリースされたのがこの盤だ。以下4曲を収録。作曲年度を見たら20年間に渡る。
1972 "Christabel"
1988 "For Your Eyes Only"
1989 "Carny"
1993 "Angelus Novus"
 オーケストレーションを誰かに任せず、自ら譜面を書く。クラシック業界の作曲家として、ゾーンはきっちり活動するんだ。本盤を聴きながら、そんなことを思った記憶がある。
 紛らわしいのがゾーンは作曲家になりたいわけではなく、自分の音楽性の一環でクラシックの現代音楽も発表してると思しきところ。たぶんゾーンはクラシックのコンクールで入賞とか、クラシック業界で高く評価される、みたいなポジションや名誉はさほど興味無さそうだ。サックスを使わず、身近なミュージシャンに頼まず、オーケストラを使ったら音楽的に面白かろう、って発想が先に立っていそう。
 音楽的にもそうだ。クラシックな技巧の駆使ではなく、アイディア先行。具体的にはコラージュと数値配列。小節ごとに場面を変え引用や連想を施し、パッチワークのように音楽を紡ぐ。もしくはお題を数値化もしくは音列の組合せを元に楽曲を構築する。 

 本盤で言うと前者の象徴が"Carny"、後者の香りを"Angelus Novus"へ感じた。
 どちらもゲーム・ピースやファイルカード・システムの変形っぽく聴こえる。つまりゾーンは全くブレてない。自らの価値観と発想を真摯に表現している。たまたま楽器構成や譜面の度合いが違うだけ。
 本盤を聴いてるうちに、ジョン・ゾーンの音楽活動は一貫してると痛感した。
 なお本盤の演奏クレジットに日本人らしき名前がいくつもあり。たぶん偶然だが、日本文化びいきなゾーンのスタンスが、こんなとこにも通底してたりして。

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