有頂天 「Kafka's Rock / Nietzsche's Pop」(2016)

 明確な定義はできない。しかし有頂天サウンドはある。それが見事に現出した。

 26年ぶりのオリジナルアルバム。"カラフルメリィが降った街"(1990)ぶり、の計算だ。
 ロングバケーションやシンセサイザーズも含めて、断続的にケラはライブをやっており、ケラの音楽活動としては全く空白の26年ではない。
 とはいえEP盤"Lost And Found"(2015)に続き、まさか有頂天名義で新作が続けて出るとは。嬉しい驚きだった。

 カバーが2曲。1-4が日本のバンド、あけぼの印"Paradise Mambo"(1987)。なお元々はそのメンバーの冨成哲が所属した、OUT OF ORDERで80年代初頭に演奏のレパートリーとか。
、2-3がリトル・エヴァのオールディーズ有名曲。ほかは全てオリジナル。 

 アルバム2枚組構成で、Disc 1=A面がカフカの"ロック"、Disc 2=B面にニーチェの"ポップ"を冠した。カバーもそれぞれのコンセプトにより一曲づつ投入したかっこう。
 LPでは1枚に収まらないサイズ。だが60分弱のため、CDだと余裕で1枚に収まる。それを敢えて2枚にわけたのが、彼らのこだわり。
 なおジャケットはワイヤー"Pink flag"(1977)をオマージュした。

 製作経緯はこれらのインタビューや解題に詳しい。こういうのあまり読むと、引きずられて感想書きづらくなるな。
http://mikiki.tokyo.jp/articles/-/12885
http://www.cdjournal.com/main/cdjpush/uchoten/1000001251
https://www.uchotenxxx.com/kafka-nietzsche-m
 ちなみにレコ発レビューはこちら。
https://natalie.mu/music/news/216829

 ぼくにとって有頂天は「少し上の世代なリアルタイム」。いちおうインディーズ時代から存在は知ってた。宝島も読んでた。でも当時は違う音楽を中心に聴いており、「数年たって後追い」みたいな聴き方をしてきた。
 つまり「数年前に活躍してた、最先端バンド」と屈折したアプローチで聴いてしまう。要はいったん、寝かしてしまうのだ。迷惑な話だが。

 だが"Aissle"(1987)を筆頭に好きな曲が多い。とても影響を受けた。「ああ、あの時聴いときゃ良かった」と思い続けてきた。まあ、当時のライブハウスへ中坊は怖くて行けなかったか。

 さて、この盤。硬いエレキギターとシンセのニューウェーブ色を前面に出した。エレキギターは太いがブルーズ色が薄く、硬くて尖った印象。
 シンセもモーグの野太い響きでなく、なんとなくデジタル・シンセ。平らできらびやかなイメージ。
 サウンドはグシャッとミックスして、抜けと分離良いデジタル臭さを避けた。

 つまり80年初頭の「新しさ」を、2010年代の今に再評価する。入れ子構造の新しさとなった。
 斬新さや新奇性ではない。今ここに無いものに対する"新しさ"。ノスタルジーがパラりまぶされただけ。しかしレトロさはない。不思議なことに。
 たとえば今の時代、このドカドカいうドラムは古臭い。けれども迫力とスリルの説得力がサウンドにある。
 A面の比較的前衛寄りの構図から始まることで、耳馴染みづらい乾いたセンチメンタリズムがそう思わせるのか。

 パンクもニューウェーブも、10代と50代がやるには意味合いが違う。って、ドントラ30の言葉は、どこへやら。ロックの世代も幅広くなった。
 歳を重ねて、地に足がついた上での破壊衝動や先鋭/異端志向。重ねた年輪の厚さが本盤を産んだ。したたかで、肩の力が抜けて、しかし保守/安住ではない。

 有頂天は「〈明るいヘンテコさ〉というのがパブリック・イメージ」だったと、ケラは上のインタビューで語る。
 確かにそうかもしれない。ぼくは「ポップなパンク」と捉えていた。
 破壊と馴れ合いを嫌う指向ながら、捨て鉢にならずポップさがにじむ方向性。
 ポップさは捏ねくりまわされ、ハードコアに攻めつつ聴きやすさも残す。そんなどちらの領域にも安住せぬ、斜め方向に突き抜けた中庸さが有頂天の持ち味、と感じていた。

 そんな往年のねじれまくった有頂天の味わいは、本盤でもがっちり健在だ。そこに本盤の意義がある。同窓会ではない。新譜、だ。
 暗めの前衛曲なA面と、ポップ志向のB面と位置付けだが。両極端へ振り切りでない。混ざり合ってる。
 A面でもポップなメロディはあるし、B面でも妙な響きや構造を持つ。明快な二極構造を装いながら、実は割り切らずにふらつかせた。

 "でっかち"のように敢えて混ぜず、両方に濃淡を分けた。それでコンセプトを色濃くしながらも、分かりにくく曖昧な武器を決して捨てない。これこそが、有頂天。
 不条理さとポップさが溶け合って、不思議な浮遊感を出した。

 それと。有頂天時代とは、かなり声やらなにやらが変わったケラだが、本盤ではシャウトが鋭さを取り戻してきて嬉しい。
 怒鳴る演出家なのかは知らない。しかし叫びはライブを重ねてこそ、抜けが良くなるのか。
 ぼくはケラの叫びが好きなんだ。きれいでまっすぐに天を衝く。
 若いころと同じようにやって欲しいとは言わない。歳を重ねた叫びを聴いてみたい。

Track listing:
Kafka's Rock = カフカズ・ロック
1-1 ラッキーさん 1:26
1-2 カフカズ・ディック 3:39
1-3 城 2:57
1-4 知恵の輪プレゼント 2:46
1-5 100年 3:35
1-6 墓石と黴菌 3:20
1-7 世界 2:44
1-8 知恵の輪ブレイクアウト 3:00
1-9 Monkey's Report (ある学会報告) 4:30

Nietzsche's Pop = ニーチェズ・ポップ
2-1 幽霊たち 4:49
2-2 懐かしさの行方 5:05
2-3 ロコモーション 3:02
2-4 Not Departure 2:31
2-5 箱(永劫回帰) 4:50
2-6 コレカラノヒト 3:24
2-7 ニーチェズ・ムーン 4:46

有頂天:
コウ(ギター)
ジン(ドラム)
クボブリュ(ベース)
シウ(キーボード)
KERA(リードボーカル)

BOBO(conga)
ハラナツコ(as)

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