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Omar Souleyman 「Jazeera Nights: Folk & Pop Sounds of Syria」(2010)

 異文化の奥深さを考えさせる。イスラム風のファンクだが、独自路線かも。

 インターネットがどんなに発展しようとも、現場でないと分からないことは多い。なおかつ報道や伝達のフィルターを通った情報の妄信は危険だ。群盲象を評す。
 ぼくが学生時代に比べ、今は格段の情報量だ。10年前と比較してもそう。だがまだ情報の入り具合は、隔靴掻痒の状態だと思ったほうがいい。

 ワールド・ミュージックは唐突に、あるミュージシャンに脚光を浴びることがある。作られたブームかもしれないし、ようやくアンテナが現地につながったのかもしれない。
 
 オマール・スレイマンもそんな一人。2010年にいきなりレコード屋に数枚の盤が並んだ。「シリアの人気ミュージシャン」の触れ込みで。ビヨークが大絶賛してコラボした、とも。
 シリアに対してはイスラム圏で内戦って程度のイメージしかない。そこで過去に500本以上のカセットをリリースした、って活動力とザッパみたいな風貌に惹かれて当時に数本のアルバムを聴いた。

 本盤もそんな一枚。米シアトルのレーベルSublime Frequenciesが編んだ、96年から2010年までのコンピ。活動が94年からというので、ほぼ当時までのキャリアを概覧した内容になる。

 サウンドはチープなシンセと民族楽器を軸にした、シンプルなダンス・ミュージック。ファンクっぽい躍動感あり、ある意味で金太郎飴。リフの繰り返しや一定のテンポでグイグイ押す力強さが特徴だ。
 これをJBもしくはフェラ・クティに見立てて「シカゴのファンク帝王」と評価してもいいし、もっと下世話なドサ回りのミュージシャンと解釈もできる。

 何を歌ってるか全くわからないので、時代への反骨者とも敬虔もしくは保守的かつのどかな世界観の提示とも取れる。

 ざっと検索すると、スレイマンのキャリアはむやみに崇め奉るストイックなものではないらしい。
 シリア北東でトルコと国境を接する、ハサカ県の都市ラース・アル=アインの出身。
 主に結婚式で活動を重ねた、とある。この一文で、いきなりなんか活動範囲がこじんまり感じてしまう。

 しかし96年にリザン・サイード(key)を音楽パートナーにツアーと録音を重ね、"ジェニ"が大ヒットとあり。どの規模のヒットかいまいちわからない。
 試しにAmazonで検索すると、500本とは言わないがけっこう引っかかった。
         

 このうち、以下のアルバムは2010年当時に出回っていた。
"Haflat Gharbia: The Western Concerts"
"Highway to Hassake: Folk & Pop Sounds of Syria"
"Dabke 2020: Folk & Pop Sounds of Syria"
 スレイマンはその後も活動を重ねてるし、以下などのアルバムがAmazonから手に入る。けっこうなタイトルがAmazon Music Unlimited対応だ。
"Wenu Wenu"
"To Syria, With Love (Remixes)"
"To Syria, With Love"
"Leh Jani"
"Khayenen Omar Souleyman"
"Bahdeini Nami"

 ここに"Leh Jani"ってアルバムあるが、前述の大ヒット曲"ジェニ"のことかは不明。
 スレイマンの音楽性は、民族音楽を現代解釈らしい。Wikiによると輪になって踊る中東の伝統舞踏ダブケの一定テンポを、柔軟に変化させるスタイルが特徴という。
 節回しや曲調は、カッワーリーに通じる酩酊具合もあり。

 「キャバレー周りの演歌歌手が、民謡や音頭のテンポを変える変化球」ってとるべきか、もっとスケールが大きい「ファンク帝王」と取るべきか。うーん。わからん。でもたぶん、現地では高い評価はされてるんだろう。
 これは地元ではないが、イスタンブールで2017年のライブ映像。500~1000人くらい入ってるのかな。


 判断が悩ましいのも、本盤の音質が実にチープなこと。シリアの音楽事情を知らないので、予算のかけ具合がさっぱりわからない。
 カセットをマスターに盤起こし的に作ったコンピのため、しかたない。

 だが音楽は確かに惹かれた。限られた情報で無闇に崇めてるかもしれないし、元となる民族音楽に知識無いため、崩し具合や解釈もよくわかっていないが。
 したたかに通る声でシンセを相方にまくしたてるさまは、一本調子ではない。一曲を追い込んでポップに仕立てず、ひとつながりの長い河の一部を切り取ったかのよう。レゲエ・ダブに通じる質感も感じた。

 ぼくは彼の音楽にのめり込んで当時に聴き進みはしなかったが、せわしなく煽るビートとシンセの安っぽさが押す、このサウンドは楽しんだ。
 約10年間から寄せ集めだけに、シンプルな中にもバラエティに富んだ構成に仕上がってる。

 世界には当然ながら、まだまだ知らない音楽が一杯あり。普段聴いてる音楽に慣れた耳に対して、こういう違うグルーヴは新鮮だ。その刺激が価値観の多様性の助けとなり、嬉しくも楽しい。

Track listing:
1 Hafer Gabrak Bidi (I Will Dig Your Grave With My Hands) 6:26
2 Ala Il Hanash Madgouga (The Bedouin Tattoo) 5:01
3 Hot Il Khanjar Bi Gleibi (Stab My Heart) 6:37
4 Kell Il Banat Inkhatban (All The Girls Are Engaged) 3:42
5 Labji Wa Bajji Il Hajar (My Tears Will Make The Stones Cry) 4:20
6 Dazeitlak Dezzelli (I Signal, You Deny) 4:53
7 Li Raja Behawakom (I Beg You, Baby) 3:56
8 Mandal / Metel Il Sukkar Ala Il Shai (I Don't Know / Like The Sugar In The Tea) 10:15
9 Eih Min Elemkom (From The Day That I Told You) 4:10

Personnel:
Omar Souleyman:Voice
Rizan Sa'id:Keyboards, Percussion
Hamid Souleyman:Bouzouki

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