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細野晴臣 「花に水」(1984)

 カセットブック全盛期に発売の作品。Youtubeに違法upで音源があった。
 

 元は無印良品のBGMに作曲。アンビエント・ミニマルな楽曲で、細野流テクノで環境音楽なアプローチが心地よい。
 本盤の直後にノンスタンダード/モナドがテイチクで立ち上がる。巨大プロジェクトとなったYMOへ反発するように、細野はポップと前衛のはざまを漂う"フィルハーモニー"(1984)を作った。
 さらに多忙から即興的なテクノ、ミニマル・アンビエントへ細野は傾倒する。
 そんな時代の系譜で中間部に位置する作品、と今となっては本作を定義か。

 細野の最新作"Vu Ja de"(2017)のインタビューで、"本作はBGMでとりとめない"と、今はさほど評価してないようだ。今は生演奏回帰の志向だから。
http://natalie.mu/music/pp/hosonoharuomi02/page/6
 とはいえこれはこれで、面白い。真剣にスピーカーへ向かい合うよりも、まさにBGMとして聴く観点で。
 
 当時のシンセっぽいキツイ響きが耳を指す。穏やかな楽想のはずなのに、音色は硬質で冷たい。だが今となっては素朴な音色が、鋭さも含めてノスタルジーを産む。
 リアルタイムだと、この音色はふくよかだった。一回りして、この手のテクノの音色がまさにメカニカルに感じてしまうとは。

 カセットA面もB面も、基本はワンアイディア。シーケンサーで作ってると思うが、特にA面は微妙にテンポが揺らぐ気がする。全く同じパターンが続くはずなのに、どこかでぶれるような。
 まさか手弾きだろうか。単にBGMとして僕が音像に耳慣れして、ふっと注意が散漫なときに「あれ、なんか違う?」と誤解してるだけ、のはず。

 軽すぎはしない。だが浮遊感はしっかり。A面でバロック風の和音感を意識させ、B面は漂う煙りの妖しい重たさでしめる。大々的にリイシューする音源では無いにしても、配信とかでサクッと再販してほしいな。
 
 今となっては権利関係が難しいのだろうか。前述のインタビューのように細野自身が乗り気でないなら、まず望み薄だ。

 なおこのYoutube音源は最後の15分にもう一曲、アンビエントが収録されている。これは何の曲だろう。当時の細野っぽい静かで穏やかな宇宙を示すテクノだ。

 カセットブックは80年代を象徴するメディア。軽佻浮薄が流行し、内容がスカスカで安手の小品が本屋に溢れた、気がする。バブルの直前。カネの無駄遣いがクールな時代の先鞭となった。

 カセットブックや当時の"本本堂"、朝日出版の週刊本とか、この手の本に良い記憶イメージは無い。70年代のみっちりした黒っぽい書籍に比べ、確かに触れやすかった。しかしふわふわと漂う情報の軽さが、バッタものっぽく感じた。
 いずれにせよ80年代はぼくが中高生のころで、思春期ど真ん中。色々と惑ってた時代で、記憶に偏りがある。

 とにかくカセットブックは購買力の無い中高生にはきつかった。ほいほい買える値段でもなく、内容は薄い。近くの図書館で何冊も読んだ。本作も当時、読んだ気がする。
 内容は"鍼灸治療師な久保山昌彦と細野の対談、写真、中沢新一のコラム、俳句などの構成"とWikiにあった。

 スピリチュアル、ニューアカデミズム色がぷんぷん漂う。小難しい用語がちりばめられ、厨二心をくすぐられながら根本となるアカデミズムの知識が自分に備わっていない。知識欲に追われながらも、情報を咀嚼しきれなかったっけ。

 出版元は冬樹社。あったなあ。角川系列と思い込んでいたが、61年創業の独立出版社。本作を発表した2年後に廃業。受け継がれた商号も91年に廃業して今は無い。だから本書を再刊の可能性も無いか。

 当時に出た一連のカセット・ブックをまとめて一冊の本にしたら、懐かしさも含めて読んでみたい気もする。高いと買わないけど。
 本作もAmazonではえっらいプレミアがついていた。希少価値はあるにせよ、そこまで高いものか。これで売れるのかな。
 ならば当時、無理しても投機として買っておけばよかった。冬樹社の本だけに。・・・って、この発想そのものがバブル時代っぽいな。そもそも「とうじゅしゃ」と読むから、上手いことも言えてない。 


Track listing:
A面:TALKING あなたについてのおしゃべりあれこれ
B面:GROWTH 都市にまつわる生長のことなど

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コメント

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これ、つい最近再発されましたね
需要があったのか一瞬で完売しました

Re: タイトルなし

レコード・ストア・デイ向の企画がきっかけでしたね。おかげで今は手軽に配信で聴けるから嬉しいです。
https://tower.jp/article/news/2020/11/6/tg002