TZ 7119:Kramer"Let me explain something to you about art"(1998)

シミー・ディスクの総帥、クレイマーが唐突にTzadikより発表したソロ。死に至るプロセスを描いた仮想映画のサントラ、がテーマらしい。沈鬱で幻想的なコラージュ作品だ。
    

旺盛なリリースをしてた頃に、本盤の発表はとても嬉しく楽しみだった。さらなる活発な活動を、ジョン・ゾーン人脈と繰り広げるかと思ったから。だが本盤を聴いて戸惑ったのも否定できない。なんだ、この前衛音楽は、と。
翌月に発表の"Songs from the Pink Death"では、クレイマー節のロックを堪能できただけに、よけい本作の位置づけが分からなかった。ということで、久しぶりに聴きかえしてみた。

のちの前衛ライブ・ソロプロジェクト"THINGS TO COME"(2007~2013)につながる、実験コラージュと位置付ければ今は理解できる。
迫りくるシミー破綻への不安を自己表現とか、単に好き勝手な趣味音楽をやったとか、他の解釈もできる。

まず。クレイマーは以前から、ジョン・ゾーンと接点があった。Chadbournesでの共演や、ゾーンのゲーム・ピース"Archery"(1981)セッションに参加が最初か。そのあとはレコード作品だと特に接点が見られず、ずっと飛んでしまうが。
さらにTzadikの"Great Jewish Music"シリーズでも"Burt Bacharach"(1997)やさらに、"Serge Gainsbourg"(1997)の双方に参加した。なお"Marc Bolan"(1998)、続く"Sasha Argov"(2002)へも曲提供は繋がる。
だからクレイマー・ファンのぼくは、猛烈に活動した90年代前半に満を持してTzadikから発表の盤と期待していた。

全3曲、15分程度が2曲と23分弱が1曲。これまであくまでもサイケ・ロックの文脈で活動したクレイマーとして、異色の作品に感じた。
バイオリンなどのダビングでデニ・ボネットが手伝った以外、すべてをクレイマーが担当。もちろんノイズ・ニュージャージーにて、録音も含めてだ。ただしマスタリングはTzadikの慣例通り、アラン・タッカーがNYで行ってる。

リズミックな(1)で現世の回想を伺わせ、ロングトーンが主流な(2)で瞑想っぽい雰囲気に。(3)は混沌の幻想へ向かう。
どの曲もコラージュっぽいが、ブツ切れではない。淡々と音が重ねられていく。即興的な構造だが、泥酔みたいなヒタヒタと沈む濃いムードが全編で奏でられた。

クレイマー独特のベースが甘く響き、美しい弦の多重録音やコラージュと奇麗に溶ける。改めて聴いたら、悪くない。代表作とは言わないが、スタジオで凝って構築した幻想絵巻だ。
(2)がいくぶんの救いや希望を感じさせる。漂い重なる弦の響きと、淡々とはじくベース・ラインがシュールで改めて楽しめた。(3)はもう、朦朧とした電子音楽っぽい。

ぶっちゃけ本盤は、ドラッグや自己啓発セミナーとかに通じる人格再構築の要素が匂う。

Personel:
Kramer - bass guitar, keyboard, sampler, tape, production, mastering, engineering
Deni Bonet - violin, viola, accordion

ジャケの中で三人の発言が引用あり。以下の日本語訳はぼく。諦観と普遍性が共通項?

"Death comes to us All"(Jim Thompson & Stanley Kubrik,Paths of Glory)
『死は全ての人へ訪れる』(キューブリック監督の映画"突撃"(1957))

"Are these not better than any utterances even of the greatest rhapsode,artist or literatus?"(Walt Whitman)
『偉大な吟遊詩人や芸術家、教養人のどんな発言よりもヒドくないか?』(ホイットマン著"民主主義の展望"(1871))

"To tell truth as you see it is not necessarily the truth.To tell the truth as someone else sees it is,to me, much more important and enlightening.I absoluterly refuse to judge.."(Jim cassavetes)
『あなたへ語ることが必ずしも真実とは限らない。誰かが真実と思えば、私には、より重要で救いになる。私は絶対に決めつけない』(NYの映画監督ジョン・カサヴェテス(1929-89年)の発言)

曲中の語りはHerbert MeyerとMargaret Zwollerの語りとある。前者が米下院の政治家?後者は検索でそれっぽい人が出てこない。なにを言ってるかは、聴き取れない・・・。

曲名から何か解釈できないか。
1.Umberto D.
2.Odds Against Tomorrow
3.Jupiter And The Infinite

(1)は同名の伊映画(1952)があり。(2)も同名の米映画(1959)があった。邦訳すると『明日への勝ち目』かな?(3)は映画"2001年宇宙の旅"(1968)のサブタイトル、"Jupiter And Beyond The Infinite"のもじりかも。確かにこの曲の幻惑っぷりは、あの映画に通じそう。

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