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Prince 「Rave Un2 The Joy Fantastic」(1999)

 捲土重来。売れ線を狙った、最後のアルバム。そしてプリンスは本作のあと、栄光の孤高を突き進む。

 The Artist (Formerly Known As Prince) 名義で発売された最後のアルバム。だがプロデュースはプリンス名義。
 ワーナーと決別してEMIと組んだ"Emancipation"(1996)。来日までした積極的なプロモーション活動を行ったが、売れ行きはどのていどプリンスは満足したのだろう。自主レーベルで"Crystal Ball"を発売し独立独歩の活動を模索。さらにチャカ・カーンやグラハム・セントラル・ステーションの製作に関与など、自由に活動していたプリンス。
 オリジナル・アルバムとしては3年ぶりにリリースの本作は、また別のメジャー・レーベル、アリスタから発売となった。

 またしてもワンショット契約で。戦略の上か、結果的かは分からない。しかしいかにもアリスタらしい、ぐいぐいと売れ線を狙った硬質な仕上がりが本盤だ。プリンスは作品に愛着はあったろう。しかし釈然としないとこもあったのか。2年後に"Rave In2 The Joy Fantastic"と題したセルフ・リミックス盤を自主レーベルでひっそりとリリース。
 さらにいったん地下へ潜り、"The Rainbow Children"(2001)で華々しく復活する。

 "The Rainbow Children"は"復活"って表現がふさわしい。すべてプリンスの思うがままなのは当然として、音質がファットでアナログっぽくなった。
 "Batman"(1989)から"Rave Un2 The Joy Fantastic"(1999)までの10年間、プリンスの音盤はすごく音が硬かった。流行り狙い、だと思う。ソリッドでタイト。ファンクのしなやかさを持ちつつも、磨いてつるつるの質感だった。
 プリンスの意向か、最終マスタリングでレーベル側の意向かは分からない。とにかく、本盤以降でプリンスの音盤はぐっと音の感触が変わった。

 売れ線、と冒頭に書いた。本盤はなりふり構わない。豪華ゲストを招き、メロディもポップ。ヒップホップに食指を伸ばし、バラエティ豊かな楽曲が並ぶ。
 プリンスは根本的にメジャー志向だ。先鋭だが前衛ではない。ヒットでちやほやされたいのか、単に予算として金が欲しいのか。セレブの気持ちは分からない。とにかく結果を示すために、ヒットに拘ってる気がしてた。

 本盤でアリスタを舞台にプリンスはスタジオで孤独もしくは手下に囲まれた世界でなく、ビッグネームらを招いた。成功かどうかと言えば、失敗だった。
 本盤でのプリンスは輝いている。しかしプラスティックな明るさだ。楽曲はもちろん悪くない。むしろキャッチーな曲が並ぶ。じっくり聴くとひねりまくりだけど。
 けれどもプリンスらしさと言うより、ヒット狙いのあざとさがほんの少し滲む。

 本盤につけられたUntoは"to"の古語。ぼくはてっきり"Undo"みたいにネガティブな意味を込めてるのかと誤解していた。
 だから、なのか。プリンスは本盤をぶち壊すようなセルフ・リミックス盤の"Rave In2 The Joy Fantastic"を発表し、己が道を突き進む吹っ切りをした。
 というより完全に自分の地位を確立し、プリンスって権利を自由に使えるようになり、本盤を最後にほんと何も気にする必要が無くなったかもしれないな。

 そもそも"Rave Unto The Joy Fantastic"のタイトルは1988年に遡る。"Lovesexy"に続く盤のコンセプトだった。Prince Vaultに詳しいが、数回の曲構成を経て結局は没ってしまう。世に出た作品は"Batman"のサントラ。いくつかの曲は"Graffiti Bridge"(1990)に引き継がれた。
http://www.princevault.com/index.php?title=Album:_Rave_Unto_The_Joy_Fantastic
 
 そのタイトル曲を復活は気まぐれだろう。プリンスの中でしか、何が新曲で何が旧曲かは分からない。録音されたタイミングでのみ、ぼくらは新曲かどうか分かる。だが音盤へ残すまで、もしかしたらプリンスの頭の中で鳴り続けてたかもしれないし。

 とにかく本盤は鮮やかなビジュアル・イメージをまとってリリースされた。
 ちなみに日本盤は終わりの曲順が違う。オリジナル盤は最後に自主レーベル"1-800-NewFunk"のコマーシャルが流れ、隠しトラックの"Partyman"だった。だが日本はコマーシャル以降をカットして、"The Greatest Romance Ever Sold (Adam & Eve Remix)"を収めた。
 ぼくはずっと日本盤を聴いてきたため、それがなおさら本盤へのトラウマになっていた。そんなにシングル"The Greatest Romance Ever Sold"をアピールして売りたいのかよ、と。
 原盤のシーケンスもコマーシャルで形式上はしめるから、本質的には似てるんだけど。
アリスタからリリースしながら自分のレーベルを宣伝でまとめ、さらにおまけ曲を流すっていう皮肉な構成である原盤のほうが、プリンスの大胆不敵さが利いてて面白かったのでは、と思う。

 この盤でプリンスは何をしたかったのだろう。ポップなヒットを飛ばせるぜって気概と、多彩さのアピールとぼくは想像しているが。
 とはいえ曲のアプローチはけっこう突飛なものが多い。ヒット曲の仮面をかぶった実験作集でもあるんだよな。

 フェイドインから多重コーラスの(1)、ギターが唸りカッコよく決めると思いきや。リズムは打ち込みで妙に軽く、テンポもゆったりめ。メインボーカルはいきなりファルセット。観客の口ずさみを振り落とすかのようなアレンジだ。
 メロディ自体はキャッチーだが、和音感や音域はかなりトリッキー。プリンスのメロディをなぞって口ずさむと、すごく変なのが分かると思う。プリンスでしか出せないクールさだ。多重ボーカルで歌われない音程こそが主旋律って幻聴がした。

 パブリック・エネミーのチャック・Dを招いてヒップホップへ急接近した(2)は、リズムの質感が(1)と地続きで見事。リミックスの"into"盤を聴くと、このアレンジの巧妙さに唸る。
 メロディ感を残しながらも、空白を多く作ってシンプルなファンクネスを滑らかに作った。あちこちに飛ぶ構成だが、崩れずにひとつながりにした大胆な曲。

 先行シングルで切られた(3)は耳馴染みいいメロディ。凄くキャッチーだ。乾いたドラムを軸に細かく楽器が足され、幾層にもプリンスの声が重ねられた。
 これもスルメ・ソング。最初は甘さに惹かれ、次第に飽きてしまう。とはいえここ数年、聴き返したら精密なアレンジの手腕がいいなと思い始めてきたから。

 わざわざ無音の(4)を入れて(5)へ。(4)の意味は何だろう。LPで言う曲間の白身を作り、音世界の変化をつけたかったのか。LPの曲順では(3)でA面が終わり。B面の頭に敢えて4秒の空白な(4)がクレジットされてるらしい。無音を敢えて曲扱いすることで、なんか形而上的なものを表現したかったのか。

 (5)はペンシルベニア出身で売り出し中の女性ラッパーEveをフィーチュアして、ドライなラップと加工されたプリンスの声を混ぜ合わせ繊細なファンクを描いた。
 逆回転風のシンバルをアクセントに、一歩引っ込んだプリンスのメロディが親しみやすい。しかし全体像は乾いた空虚さが漂った。

 (6)は名曲の一つ。キュートなプリンスのファルセットで、こじんまりと内省的だがベース、ギター、キーボードが細かく絡み合った。可愛らしい小品。
 女性歌手に歌わせたら似合いそう。(3)ほどの重力をメロディに持たせず、ふんわり浮かぶ。

 ロック・ギターに導かれる(7)は逆にポップ狙いか。リズムをわざと重ためにして、疾走感を絞ってる。それがもどかしい。もっとイケイケなビートだと、ぐっとダンサブルになるのに。
 ゲストはGwen StefaniとMarva King。グウェンはソロの前、No Doubtに在籍の頃だった。Marvaはスタジオ・ミュージシャン的な参加かも。

 (8)はロマンティックなプリンスの持ち味が出た。"Emancipation"のアウトテイクでも不思議じゃない明るさと、象徴的な世界観だ。ラテンとかスカのトロピカルなムードが漂う。これも押しつけがましいシングルの圧力こそないが、じわじわ来る良い曲だ。
 波のSEとストリングスがハマってる。シンセと生のストリングスを重ねてるような。
 そういえばこの盤の時期くらいで、鍵盤をギターのラインへダビングする手法を多用してたってプリンス周辺のスタッフが述懐してたインタビューを昔にギターマガジンか何かで読んだ気がする。

 (8)のテンションから加速する繋ぎが上手い(9)へ。楽曲はシェリル・クロウのカバー。ボーカルにLarry Grahamをゲストで呼んでいる。
 平歌では裏拍のシンバル、サビでは頭打ちのビート。アクセントを使い分け、風景をがらりと変える。単純だが巧みなアレンジのセンスで効果的な盛り上げを作った。

 流麗なストリングスの響きで、ムードを豪華絢爛に持ち上げる19秒のセグエ(10)を挟み、むせび泣くような多重ボーカルが愛おしい(11)へ。これも最初はトゥー・マッチな甘い曲と思い込んでいた。
 何年も聴いてるうちに、ようやくこの曲の魅力に気づく。単に主旋律を追うだけでなく、ハーモニーの組み立てやボーカル・ラインの細かい重ねに耳が行き、丁寧で情感あふれるプリンスの手腕に絡めとられた。

 一気にロックな(12)。これもシングル向き。ハーモニカを入れカントリーっぽさを漂わせ、ゲストにシェリル・クロウを招く芸の細かさだ。
 飾りを取り去り、演奏の方はあまり重ねすぎない。構造はプリンスとシェリルの掛け合いを目立たせ、背後に多層多重ハーモニーでプリンスは曲を包んだ。このミックス・バランスがばつぐんだ。エレキギターのソロも短めで、渇望感を煽る。

 アニ・デフランコにアコギをダビングさせた静かなバラード(13)は名曲。細かいシンセの味付けを施し、一筋縄ではいかないけれど。 
 何とも皮肉なラブ・ソングめいた曲だ。非英語圏な人間の特権かもしれないな。
 きれいで切々としたピアノ中心の楽曲は、心落ち着く寛いだ雰囲気。それこそ恋人に「いい曲だよ」と薦めたくなるような。
 だが歌詞を読んだら、さあたいへん。という仕掛け。逆に歌詞と曲調のギャップが楽しい。

 キュートな曲調はどんどん続く。(14)も小品な面持ちだ。おなじみクレア・フィッシャーのきめ細かいストリングスが美しく曲を彩った。
 本当にこういう曲こそ、プリンスの多重コーラス・アレンジの妙味が分かる。メロディラインはたおやか。和音展開の跳躍が夢見心地を味合わせてくれる。

 いっきにドライな風景に突き落とす(15)。これは逆に削ぎ落しを突き詰めた04年頃のNPG Music Club時代の先鞭と感じた。和音感なく、語りで進むかのよう。しかしちょっとしたプリンスの抑揚に、全体の流れに確かなメロディアスさを感じる。巧みだ。

 表向きの本編は(16)で終わる。そう、なんともボリューミー。このアルバムはバラエティに富んでて、おなかが一杯になる。
 (16)も"Emancipation"時代の曲って気がする。何の根拠もないのだけれど。センチメンタルさが通底してるんだ。あまり派手さは無く、そっとカーテンをおろす静かな雰囲気を持った。
 シンプルなリズム・アレンジにエレキギターをまとわりつかせ、ボーカルを数本重ねていく。途中の転調が素晴らしく鮮やかで良い。
 
 曲は3分過ぎに終わり、5分の空白へ。そしてシンセの幻想的なラウンジ・ミュージックに導かれ、低音の語りでレーベル宣伝する(17)へ。

 最終曲はメイシオ・パーカーらがサックスを吹く、オーソドックスなJBマナーのファンク(18)。比較的デジタルで硬いリズムが続く本盤の最後に、こういうアナログでファンキーな路線を持ってくるところがにくい。
 そう、にくいんだよ。だからこそ日本盤の構成は興ざめだ。オリジナル・シーケンスで最初にこの盤を聴きたかった。だいぶ印象が変わってたと思う。

 ちなみに日本盤の最終曲、(3)の(Adam & Eve Remix) は先行シングルのカップリング曲。ラップ色を強調し(5)と同様にEVEを招いた。だからこのタイトルなのだろう。
 正直、バリエーションとしての価値が勝つ。オリジナルの(3)のほうが親しみ深い。ああ、日本盤アルバムの終わり方は蛇足だなあ。

Track listing:
1 Rave Un2 The Joy Fantastic 4:19
2 Undisputed 4:20
3 The Greatest Romance Ever Sold 5:29
4 Segue 0:04
5 Hot Wit U 5:08
6 Tangerine 1:39
7 So Far, So Pleased 3:24
8 The Sun, The Moon And Stars 5:17
9 Everyday Is A Winding Road 6:16
10 Segue 0:19
11 Man 'O' War 5:14
12 Baby Knows 3:17
13 Eye Love U, But Eye Don't Trust U Anymore 3:37
14 Silly Game 3:31
15 Strange But True 4:15
16 Wherever U Go, Whatever U Do 3:16
17 Commercial 0:43
18 Prettyman 4:25

Personnel:
Prince – all other vocals and instruments
Mike Scott – guitar (3)
Ani DiFranco – acoustic guitar (13)
Rhonda Smith – acoustic bass (6), bass (7)
Kirk Johnson – drums (7), percussion (11)
Michael B. – drums (12)
Kenni Holmen – saxophone (5)
Kathy Jensen – saxophone (5)
Maceo Parker – saxophone (18)
Steve Strand – trumpet (5)
Dave Jensen – trumpet (5)
Michael B. Nelson – trombone (5)
Gwen Stefani – co-lead vocals (7)
Sheryl Crow – co-lead vocals and harmonica (12)
Marva King – backing vocals (7)
Larry Graham – backing vocals (9)
DuJuan Blackshire – backing vocals (9)
Johnnie Blackshire – backing vocals (9)
Kip Blackshire – vocoder vocals (2, 9)
Chuck D – rap (2)
Eve – rap (5)
Bros. Jules – scratches (2, 18)
Gwen Stefani – co-lead vocals (7)
Sheryl Crow – co-lead vocals and harmonica (12)
Marva King – backing vocals (7)
Larry Graham – backing vocals (9)
DuJuan Blackshire – backing vocals (9)
Johnnie Blackshire – backing vocals (9)
Kip Blackshire – vocoder vocals (2, 9)
Chuck D – rap (2)
Eve – rap (5)
Bros. Jules – scratches (2, 18)
Clare Fischer – orchestration (8, 10, 14)

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