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TZ 7610-4:Wadada Leo Smith "Kabell Years 1971-1979" (2004)

 孤高のトランペット奏者がデビュー時期に自主製作で4枚のLPを出した。それを軸に未発表音源を足した、貴重なCD4枚組。

 ジョン・ゾーンのワダダ・レオ・スミスに対する敬意が現れたボックス・セットだ。初期のインディ盤だけでなく、多数の発掘音源もあり。スミスは丁寧に自分の音源を溜めていたようだ。
 ここではCDごとに感想を書いてみよう。

[Disc 1] "Creative Music - 1"(1971)

tracks 1-6 recorded December 18-19, 1971, originally released as "Kabell 1"
tracks 7-10 recorded at Mapenzi, Oakland, CA, 1976

 ワダダ・レオ・スミスが30歳の時、自主レーベルKabellを立ち上げてデビュー盤をリリースした。それが本BoxのDisc1、1~6まで。71年の12月18~19日に録音された。

 無伴奏でスミスはトランペットを筆頭にさまざまな管楽器を吹く。さらにリコーダーやパーカッションも操った。
 特徴はビート性を排除し、小節線から解放されたこと。リズムがあってもテンポを刻まない。当時の録音技術があったにせよ、リズムをループさせながら同時に吹くといった手法も使わない。吹くときは吹き、叩くときは叩く。

 ここでスミスの特異なところはノイズや無秩序に行かなかったところ。順番に即興で吹いたり叩いたりするところは、あきらかにフリージャズ。しかし破壊衝動や準拠枠の解体みたいな破天荒さは希薄だ。

 和音が無いのにどことなくメロディアス。テンポは不透明なのに、打楽器は強烈なビート感を感じる。アフリカ的な野生性がある。とはいえ体の中でテンポを取りながら、断続的に楽器でグルーヴの片鱗を出してるわけでもなさそうだ。
 連続でなく寸断。瞬間を大切に、その時々で身体から湧き出るビート性やメロディを表現してる。

 単調で静かなサウンドだ。だがむやみに長尺で淡々とパフォーマンスを披露ではない。
 10分程度に一曲を切り、不思議にユーモラスでチンドン屋のように親しみやすいサウンドを作った。アプローチや場面ごとの風景は、透徹な即興を追求してるのに。緊迫さも漂うが、全体像は僅かに寛いだ趣きがある。
 フリージャズにありがちな聴き手に緊張を強いる圧力が、すごく少ない。

 トランペットの音使いも朗々たるもの。断続的なフレーズや、特殊奏法っぽい場面もある。だが根本は、牧童が角笛を吹くかのような大きなスケール感を魅せた。

 なお本盤の7-10は、5年後の76年にカリフォルニアで録音した未発表音源。こちらも無伴奏で演奏される。テイストは本盤と似た感じ。すでに1作目からスミスの本質と方向性はブレていなかった。
 本盤よりこれら76年の音源のほうが、いくぶんストーリー性というか起承転結を意識してるような気がする。
 
Track listing:
1-01 Nine (9) Stones On A Mountain 5:29
1-02 Improvisation N° 4 7:16
1-03 Creative Music ー 1 11:54
1-04 Afmie - Poem (Solo) Dance 3 13:12
1-05 Ogotommeli: Dogon Sage 8:14
1-06 Ep - 1 3:01
1-07 Ngoma: Gravity And Lightwaves 8:44
1-08 Seeds 4:19
1-09 Zekr 4:10
1-10 Until The Fire 11:28

Personnel:
Wadada Leo Smith - trumpet, flugelhorn, seal horn, recorder, Indian wooden flute, harmonica, autoharp, hand zithers, bells, parade drum, hand drum, tin drum, aluminum pot drums, cymbals, mobile sounds-gong, metal-plates, steel-o-phone, gongs, Indian bell


[Disc 2] "Reflectativity"(1974)
tracks 1-5 recorded at the Educational Center for the Arts, New Haven, CT, November 22, 1974
tracks 1, 2 originally released as "Kabell 2"
tracks 3-5 never before released

 ディスク2は2ndリーダー作"Kabell 2"(1974)と、同じセッションでの未発表テイクを収録した。よく音源が残っていたな。
 なおスミスのソロでなく、New Dalta Akhri名義で発売した。

 録音は74年11月22日。1stから3年後になる。今の感覚だとずいぶん間を置いているが、レコーディングがたやすく出来なかった70年代だから1stを手売りしながらじっくり次のチャンスを狙ったのではないか。

 完全独奏だった前作から、本盤ではピアノ・トリオ編成のフリージャズに変わった。LPでは各面1曲の長尺構成。アウトテイクは17分越えの長尺もあるが、10分未満の小品も2曲あり。
 特に構成は無いインプロで、興の乗るまま短めに数曲を録り、LP用に改めて長尺を製作ではなかろうか。
 聴いていて特段に曲ごとのストーリー性は無く、どの順番で録ったかは想像だが。

 欧州風の透徹なストイックさはいくぶん抑え、若干のグルーヴがサウンドから滲む。
 いわゆるソロ回しではないが、ピアノの見せ場は長めに作って独断専行の嵐ではない。ベースがちょっと控えめかな。
 ピアノ・ソロの時にスミスが打楽器へ回る場面もあり。ただし叩きっぱなしでリズム隊の役割を務めはしない。
 なおクレジットにあるatentebenとはガーナの竹笛。トランペット一本に絞らず、スミスは楽器を吹き分ける。

 抽象的な繊細さを持つ音像であり、特にベースがいささかぎこちなく、緊張よりも危うさが漂った。
 そもそもNew Dalta Akhriとは、スミスに師事する学生がメンバーの流動的なユニット名だったらしい。
 本盤では二人を起用した。ベースのWes Brownは本盤がレコード・デビューかな。AACMに所属のAnthony Davisも本盤の前は数枚の録音経験があるのみ。
 のちに二人ともプロで活動するが、本盤の時点では若手だった。

 アフリカの幻想性とクラシカルなメロディぶりを混淆させるスミスのコンセプチュアルな姿勢に対し、他の2人は弾かされてる感じが強く今一つ盛り上がりに欠けるのは否めない。
 ベースやピアノだけだと弛緩して、スミスが入れば引き締まる構図になってしまう。

 リバーブ効かせて象徴的な音像を演出はしているけれど。三人とも弾き倒さず、休符も生かした演奏。
 従って無音部分でいかに緊張さを保てるかがカギ。本盤では古めかしい間が音から滲む。ライブ演奏だと、もう少し集中ぶりが伝わるだろうが。

Track listing:
2-01 Reflectativity 22:24
2-02 T Wmukl - D 18:47
2-03 North American Stomp 6:55
2-04 Visions 17:35
2-05 Transcendental Suite 10:07

Personnel:
Wadada Leo Smith - trumpet, flugelhorn, Indian flute, atenteben, percussion
Anthony Davis - piano
Wes Brown - bass, atenteben


[Disc 3] "Songs Of Humanity"(1975)
tracks 1-6 recorded at The Gallery, New Haven, CT, August 4, 1976, originally released as "Kabell 3"
track 7 recorded at WKCR FM, NYC, February 16, 1975

 Disc 3はNew Dalta Akhri名義で2nd、前作から2年後に録音された。本盤はボートラとしてその1年前、75年にNYのFM局WKCRでの未発売ライブ音源を30分弱もの長尺で収録。

 メンバーはDisc 2"Reflectativity"の二人をそのままに、Oliver LakeとPheeroan AkLaffと凄腕二人を投入し、強力さを増した。本ボックスの中で、もっとも引きしまった演奏だ。
 レイクは数年前にレコード・デビュー済み、アクラフは本盤がデビューに近い。二人とも売り出し中の頃合いだが、特にアクラフのタイトなスティックさばきの堂々たる迫力が聴きもの。
 
 ただしアクラフは控えめかつメリハリつけた手数で、空白を生かしたスミスのスタイルを尊重している。
 ぐっとグルーヴィーな即興に行く場面と、孤高のソロな二つの要素が交互に現れた。

 (2)と(4)はピアノのAnthony Davis作。スミスは自作に拘らず、メンバーの個性も取り入れる柔軟さを示す。
 レイクとスミスの2ホーン体制でアンサンブルに厚みが出た。LPでは6曲を収録し、長尺の垂れ流しでなく引き締まったフリー・ジャズを作る。レイクもフルートなど持ち替えるため、曲ごとの音色も多彩さを増した。

 逆にスミスの主役ぶりがいくぶん薄まった。静と動のメリハリつけた緊迫感あるスミスの志向はガッチリ構築ながら、やたらにスミスが前に出ない。

 デイヴィスの進化ぶりが興味深い。彼はピアノだけでなくオルガンも使用。膨らみある音色が、ほんのりファンキーさも漂わせた。ピアノでも滴るグルーヴを粘らせる。

 アンサンブルの充実を念頭に置いたアレンジ。
 音数の少なさが寂し気なムードを漂わすけれど。立ち止まらず風景を変え続ける音像はスリリングだ。

 特に(7)でのアンサンブルが整っている。静かだが張りつめたテンションが持つ美しさをばっちり表現した。この名演が未発表で終わっていたとは。

Track listing:
3-01 Songs Of Humanity 5:13
3-02 Lexicon 7:40
3-03 Peacocks, Gazelles, Dogwood Trees & Six Silver Coins 8:30
3-04 Of Blues And Dreams 11:03
3-05 Pneuma 1:34
3-06 Tempio 6:59
3-07 Play Ebony Play Ivory 27:12

Personnel:
Wadada Leo Smith - trumpet, flugelhorn, sealhorn, atenteben, steel-o-phone, percussion
Oliver Lake - flute, soprano sax, alto sax, marimba, percussion
Anthony Davis - piano, electric piano, organ
Wes Brown - bass, atenteben, odurogyabe
Pheeroan AkLaff - drums, percussion

[Disc 4] "Ahkreanvention"(1979)
tracks 1-4 recorded at The Gallery, New Haven, CT, 1979
tracks 1-3 originally released on "Kabell 4"
tracks 5-7 recorded at Mapenzi, Oakland, CA,1976

 第7回メールス・フェスのライブ盤"Mass on the World"(1978)を挟み、自レーベルKabellからリリースした4thリーダー作。
 ボートラは同セッションの未発表曲を1曲と、オークランドでの76年音源3曲を収録した。

 なおDiscogsによれば、本盤の収録曲は次の通り。すなわちA1、A3が本盤へは未収録だ。なぜだ。著作権の問題か、それとも内容が気に入らずスミスが本盤へ収録をやめたのか。
 オリジナルの"Ahkreanvention"でCD再発は無いみたい。機会あれば聴き比べをしてみたいもの。
Track listing:
A1 Sarhanna
A2 Life Sequence I
A3 Kashala
B1 Love is a Rare Beauty Movements 1-5
B2 Aura

 演奏は完全独演。Disc 1との対比で進歩を味わえる構成になった。
 一発録音だとしても、パーカッションを左右のチャンネルへ極端に振るなど定位の工夫もみられる。
 さらに1stに比べメロディアスさが増したのは、キャリアを積んだ証拠だろう。

 激しくなく美しいフリージャズ、間を生かした象徴的なアプローチが1stよりもぐんと洗練され、本盤では独特のきめ細やかな牙城を築いた。
 アルバムからの収録曲は長めの楽曲を取り上げ、じっくり朗々と世界を描くさまを披露する。

 そして場面展開にパーカッションを使う手法も堂に入ってきた。静かな鈴の響きで一つの風景が終わり、次へ切り替わる合図になる。

 この盤は単独で聴いても静かなインプロとして楽しめる。しかしできれば、長尺だとしても本ボックスの流れで一枚目から順に聴いたほうが面白い。
 一人の奏者の進化が、あきらかに分かる。独りぼっちにも似た即興が、他者の助けを借りぬ唯一無二の位置に立ったことが分かる。

Track listing:
4-01 Life Sequence 1 12:34
4-02 Love Is A Rare Beauty: Movements 1-5 18:25
4-03 Aura 2:57
4-04 Ankrasmation 20:04
4-05 Atoke 3:24
4-06 Fana 7:10
4-07 The Zebra Goes Wild 10:44

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