Diggs Duke 「Civil Circus」(2015)

 浮遊するジャズ風味の密室ソウル。軽やかでどことなく病んだ空気感が素敵だ。

 メリーランド州バルチモア出身のミュージシャン、ディグス・デュークが放った2ndアルバム、でいいのかな。自主製作のCD-Rと日本盤限定のCDがフィジカル・リリースあり。
 とはいえ彼はBandcampで精力的に数曲入りEPをデジタル・リリースしており、アルバムって概念は昔前と異なる発想で作ってる。本盤も10曲入りだが25分。ボリューム的にはEPのサイズだ。 彼のオフィシャルWebのディスコグラフィーにはアルバムもEPも分け隔てなく膨大に並ぶ。
 http://diggsduke.com/discography
 本盤は2015年12月のリリース。ここから(10)を翌16年11月に自選デジタル・アルバム"Because You're So Wonderful"で再度取り上げた。

 ディグス・デュークは菊地成孔が絶賛のコピーに惹かれて"Offering For Anxious"(2014)を聴いて知った。不穏な空気と揺らぐリズムのノリが不思議な魅力を放ってた。だが、そこからのめりこんでは聴きそびれてた。


 単にそれは、ぼくが古い人間だからだろう。デジタル・リリースが山のようにあるが、まずいことに「いつでも聴ける」と余裕かましてしまい、がつがつとMP3を「とりあえず」落とすって発想に至らないからなあ。

 改めて本盤を聴きながらディスコグラフィーを並べて、今の若者の発表形態がどんどん変わってると実感した。パッケージに拘らずデジタル・リリースの場合、アルバムはコンセプトの具現化か、販売単価を上げる手法の一つでしかないのかも。
 特にデュークのようにほぼ自分で多重録音するタイプは、あるていど曲がたまったらEPでどんどん出す、って発想のようだ。別にCD一枚で40分~60分って容量に拘らず。そして時に改めて自作を編み直してるのかな。

 そう、彼はマルチ楽器奏者。もはや様々な楽器を自分でやるミュージシャンは珍しくないし、打ち込みを駆使したら一人で全て行う形態はありふれてる。しかしどうも、「マルチ楽器奏者」って言葉には、わくわくする。
 千手観音のようにすべてをコントロールし、あふれさす才能の息吹を象徴してる気がして。特に彼の場合、打楽器に鍵盤と弦に加え、木管も演奏できる多才が強み。

 とはいえジャジーな要素はあるけれど、デュークはどちらかといえば歌手寄り。アドリブ・ソロや楽器テクニックに血道をあげるタイプではなさそう。
 
 なお本盤ではホーン奏者を多数招き、インストを多く披露した。
 ゲストの楽器奏者たちはセッションかな。何となくだけど、音源ファイルをやり取りしてダビング的に行った風にも聴こえた。

 プロデュースとミックスはデューク自身。いっぽうで自らの多重録音の歌モノもあり、完全に演奏コンセプトは統一していない。それこそ器楽寄りでいくつか曲ができ、さらにコンセプトを広げてアルバムにした格好か。
 (1)(4)(8)(9)がゲスト奏者入り。あとはハーモニー以外デュークの多重録音で比率的にはゲスト曲のほうが少ない。

 緩やかなテナー・サックスの独奏で(1)は幕を開けた。やがてダブ処理されドラム、ベースが入り、多重録音サックスのメロディに。アレンジ的にはトリオ・ジャズだが複数のサックスと揺れる音処理で一筋縄でいかぬ。曲も3分ほどで終わってしまった。
 (2)は歌モノ。静かにフルートもデュークは重ねる。リズムの工夫よりメロウさが先に立つ。

 小刻みなリズムの変化が小気味よい(3)は涼やかかつ性急。いっぽうでプラスティックなつるっとした硬質さが淡々としたノリを作った。
 再びセッション的な(4)。いきなりフェイドインしたサックスの独奏へ、さらに(1)同様にダブ処理の複数サックスがダビングされた。
 だがサックス奏者たちはあくまでイントロの飾り立て。静かなデュークの歌が曲の主体になる。

 打ち込みビートで変拍子な(5)へしなやかにデュークは歌声の断片を混ぜた。コール&レスポンスと少し発想が異なる、波打つ声の対話が涼やかだ。
 そしてクラリネットとサックスを自分幾層もダビングした(6)で、空気を柔らかく震わせる。きっちりと操る木管の響きが心地よい。アドリブっぽいフレーズはそれこそ小節単位で断片を切ってる。サックス・ソロが流れる場面は、断片を幾度もつぎはぎしてそうなぎこちない危うさがスリリングだ。
 (7)はピアノのソロ。ミニマルにフレーズが重なる。生ピアノの、ちょっと引いた空気感で録音された穏やかなムードは、グルーヴィな一方で少し遠慮がち。

 (8)が良い。バスドラでTrae Crudupがクレジットあるものの、実際はデュークの多重録音な(8)。Jada Irwinのハーモニーで背後でそっとなぞらせ、時にグイッと前に出す。
 ドラムのブレイクを挟み、華やかかつしたたかなグルーヴを出す。キープさせず、場面ごとにばっさり切られるのに、全体的なノリは持続させる構成が凄い。

 リプライズのようにサックスが出てくる(9)。本盤では常に無伴奏でサックスがいきなりイントロで登場するアレンジを多用した。ダブ風に処理なとこも同じ。セッションではない。木管群は味付け。
 デューク自身とRachel Brotmanのボーカルが風のように漂った。

 アルバム最後はピアノの弾き語り風にベースが重なる。ボーカルはマルチ・トラックで揺らぎと太さを演出した。前曲の華やかさと一転して、静かにまとめた。

 そう、このアルバムは全体的に静かだ。独特の少し病んだ空気感は漂う。しかしぐいぐい前にでず、ふわりと目の前で浮遊する。それが、気持ちいい。
 ある意味、潔い。木管のソロやリズムの持続に拘らず、次々とアイディアを披露しては次に向かう。

Track listing:
1 Busker 2:26
2 Compensation 1:26
3 Ambition Addiction 2:03
4 Stoplight Lessons 5:36
5 Postcard 1:21
6 Street Preacher 2:23
7 Bumper To Bumper 1:53
8 Warming Warning 4:13
9 Damn Near Home 1:45
10 We Don't Need Love 2:24

Personnel:
Diggs Duke : vo,g,b,p,ds,per,prog,fl,as,cl

Luke Stewart : b on 1
Warren G. Crudup III : ds on 1
Jelani Brooks : ts on 1,4,9
Dante Pope : vo on 2
Herb Scott : on 4,9
Terry Orlando Jones : on 4
Rachel Brotman : on 4
Trae Crudup : bass drum on 8
Jada Irwin : vo on 8

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