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Miles Davis 「The Musings Of Miles」(1955)

 後追い聴きだからこそ感じる。習作で、輝く寸前を切り取った柔らかな盤。

 リアルタイムで本盤を聴いていたら、全く違う感想を持ったに違いない。新たなステップを目指し、マイルスは実験を本盤で行った。

 ジャズは物理的に音盤が多い。マイルス一人をとっても膨大なアルバムがある。新たにジャズを聴くときに、よほど惚れこまないと一人のリーダー作すら全部追えない。しかも今はブートもいっぱい、復刻版も次々、Youtubeに細かな音源すらある時代。
 20年前は財布が一つのブレーキになったが、今は熱意が原動力。すなわちどこまで惚れこめるか、にかかってる。半端な聴き方ときっちり聴くことの幅がますます広くなった。

 というわけで僕はジャズが好きだが、マイルスをすべて聴いてるわけでもない。この盤もつい最近、初めて聴いた。だから素直に本盤を楽しめたとは言えない。余計な思い込みがぐるぐると頭をめぐる。

 本盤の録音は55年6月7日。わずか4ヶ月後にはマイルスの黄金クインテットが稼働する。どっちを先に聴くかと言えば、やっぱり黄金クインテットだろう?

 この盤はマイルスのワン・ホーン。ライブでは知らないが、音盤では初めてレッド・ガーランドとフィリー・ジョー・ジョーンズと組んだ。
 なおベースはオスカー・ペティフォード。彼がポール・チェンバーズと入れ替わり、コルトレーンが加わって黄金クインテットの出来上がり。
 
 たぶんマイルスは2ホーンで録音したかったのだろう。自分を引き立てるためにも、サウンドを複雑に輝かせるためにも。前年にはソニー・ロリンズをはじめ様々な組み合わせでセッションを行っていたが、このときにはメンバーが揃わなかったとも言われる。
 5ヶ月後の同年10月、マイルスはプレスティッジと契約があるにも関わらず、コロンビアでクインテットの録音を行った。約1年半後、"'Round About Midnight"(1956)で発表される音源の一部だ。

 本盤録音の5月時点で、コロンビアと交渉は始まっていたのではないか。
 ならばすでにマイルスはプレスティッジを見限っていたろう。自分がビッグになるために。ついでに音楽の美味しいところもコロンビアへ持って行きたかったと想像する。
 華々しく新しい音楽を作るために。アイディアを具現の前段階、習作として、本盤を録音したのではないか。
 
 手抜きって意味じゃなく、ワンホーンでくっきりと個性を立たせて青白いアンサンブルをつくるために。
 
 本盤の音楽は素晴らしくクールだ。熱く燃えず、冷静かつスマートに音が運ばれる。シャープに刻むリズム、和音を優美に奏でるピアノ、そして骨太なベース。このベースをさらに強力にしたくて、マイルスはチェンバーズを選んだのだろう。

 そしてワンホーンのサウンドは、ソロ回しの冗長さを削ぎ落した。このあとのフロントはコルトレーンを筆頭に吹きまくるタイプが多い。ロリンズもそうか。マイルスはコンセプトを決めて才人を集め、美味しいところは持って行く。
 だがここでは、他のメンバーにソロを振ってもマイルスが吹かなければ成立しない。

 そこでマイルスは吹く。しなやかに、滑らかに。本盤最後の曲で高らかに吹く瞬間のスリルにゾクッと来た。
 饒舌に自己アピールをせず、引き算の美学でマイルスは自らを鮮やかに表現した。"チュニジアの夜"あたりはペットのピッチが甘い気がするけれど。

 本盤はのちの黄金クインテットに比べ、どことなくぎこちない。アンサンブルが慣れてないって意味ではない。分かりやすく熱狂する盛り上がりを抑えつけながらも、甘くしっとり路線でない立ち位置に、戸惑うかのよう。

 ファンキーな爽快さよりエレガントを狙うジャズ。それが本盤の肝だ。
 そしてワンホーンがゆえに、そのコンセプトは引き立った。この盤でクールさは青白く燃え立つ。

 当時、こういう路線はどのくらい一般的だったのだろう。例えばマイルスが強い影響を受けたアーマッド・ジャマルの演奏は本盤に似て穏やかで涼し気だ。この流麗さにスイング感を濃くして、ビバップ的なスリルを加えたのがマイルスの狙いか。

 
 いっぽうでマイルスは本盤を作って、洒落てるが華に欠けると考え2ホーン体制に戻ったのかもしれない。トランペットのしなやかで、か細い響きは時に寂しく漂う。

Track listing:
1 Will You Still Be Mine? 6:20
2 I See Your Face Before Me 4:44
3 I Didn't 6:02
4 A Gal In Calico 5:15
5 A Night In Tunisia 7:20
6 Green Haze 5:48

Personnel:
Miles Davis - trumpet
Red Garland - piano
Oscar Pettiford - bass
Philly Joe Jones - drums

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