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Bob Dylan 「Oh Mercy」(1989)

 ダニエル・ラノアのプロデュースと、大量の新曲で産まれた力強い傑作。

 ディランはこの時期、今も続くネバー・エンディング・ツアーを立ち上げた時だった。ゴスペルに傾倒した時期を抜け、迷いが見えた"Down In The Groove"(1988)へ。毎年の新譜とプロモーション・ツアーのルーティンに飽いたディランは、この時期にグレイトフル・デッドとツアーを行う。
 
 デッドのスタンスに大きな影響を受けたらしい。ディランは小編成のバンドを組んで、アルバムとは全く無縁にツアーを重ねる"ネバー・エンディング・ツアー"のコンセプトに至った。気ままでコンパクトな活動はディランの性に合うらしい。このスタイルは25年以上たった今も続いている。

 そしてこの時期、ディランは膨大な創作が溢れていた。本盤のみならず、アウトテイクとしてブートレッグ・シリーズでいくつものちに発表されている。
 だが録音手法に迷い、棚に溜めていた作品群を見てラノアを薦めたのがU2のボノだったそう。

 当時のラノアはネヴィル・ブラザーズ"Yellow Moon"(1989)を製作中。その流れで本盤にもネヴィルのメンバーがどっと参加している。
 録音はすべてニューオリンズ。もともとは現地のザイデコ関係のミュージシャンらを起用してセッションを開始したが、出来に納得がいかずネヴィルの投入が実際のところらしい。

 本盤にはラノア流のリバーブ感と揺らぎがそこかしこに聴こえる。この空気感は時に、オーバープロデュースに感じるけれど。
 それを超えてディランの力強さがある。確かなメロディがある。

 ニューオーリンズのしたたかさは、セカンドラインの定型導入ではなく緩やかなグルーヴの注入に留められた。
 ラノアの構築美はきっちりとサウンドを支配しているけれど、ディランの力強い歌声とカントリー寄りの素朴な楽曲はしっかりと本盤を固めた。

 ディランはギター、ピアノ、ハーモニカなど様々な楽器を弾いている。たぶん本作は弾き語りでも成立した。だがラノアやミュージシャン勢による伴奏は、ふくよかに歌声を包み込む。
 残響と確かなリズム感が、震えながら声を絞るディランを頼もしく支えた。
 
 テンポはむやみに速くしない。やたらとセンチメンタルにも溺れない。素朴だがアレンジはラノアが隙無くまとめた。
 楽曲も演奏も歌声も、ぴりっと緊張感漂う。聴きどころ満載だ。

Track listing:
1 Political World 3:43
2 Where Teardrops Fall 2:30
3 Everything Is Broken 3:12
4 Ring Them Bells 3:00
5 Man In The Long Black Coat 4:30
6 Most Of The Time 5:02
7 What Good Am I? 4:45
8 Disease Of Conceit 3:41
9 What Was It You Wanted 5:02
10 Shooting Star 3:12
 

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