101(1988)【Prince未発表曲】

 妖艶なメロディはすべて計算づくだった。プリンスの表現力が凄い。
 

 厳密には未発表曲でない。シーナ・イーストンの10thアルバム"The Lover In Me"(1988)に、"Cool Love"と合わせてジョーイ・ココ名義で提供した曲だ。

 アルバムから2ndシングル・カットもされた。シングル・チャートで英54位、米はダンスチャートで2位まで上がったとある。
 今回Youtubeでプリンスのテイクが聴けたため、感想を書いてみる。
 
  

 Prince Vaultには、2012年にシーナがこの録音に対するインタビューを紹介あり。
2012-08-08付でシカゴのゲイ・コミュニティWebメディア,Windy City Timesに掲載された。
 
 そのインタビューに寄れば、シーナはプリンスからいきなり完パケ版を聴かされ、ろくに咀嚼もしないままレコーディングに導入。ボーカルがちょっと危ういところもあったというが、プリンスはOKテイクにして録音が終わったそう。

 シンセとボーカルだけの簡素なアレンジ。だがデモというには凝っている。リズムともやもやしたベース・ライン、アルペジオと数音のループがアレンジの基礎。
 そこへオーケストラ・ヒット風の響きやカウンターのフレーズがひっきりなしにかぶる。つまりはこのままリリースを想定したエレクトロ・ファンクだ。
 ただしシーナのテイクはアレンジはそのままに、シンセの音色は差し替えてる。録音し直しか、ピッチが違うのか。ぼくの耳では区別できない。

 ボーカルもプリンスは多重で作りこんでた。主旋律はファルセットか。ハモるラインを幾層もダビングして、幻想的で妖しい雰囲気を構築する。
 最後までブレず、崩れない。終盤で情熱的に暴れるけれど、それはきっちりとコントロールされている。隙の無い作りだ。

 面白いことに、シーナのバージョンを聴いたうえで臨むと、この曲はむしろ単調に聴こえてしまう。ボーカルがきっちりと制御されてるために。

 シーナの歌声はプリンスのスタイルをなぞる。だから冒頭はむしろプリンスの表現力に圧倒される。女性的な艶めかしさを見事にスタイルへ。
 しかしシーナのテイクは曲が進むにつれ、暴れていく。シーナは歌がヘタなわけでなく、たんにメロディを崩してるだけ。自分の喉に任せるまま、張りが気持ちいい声域でぐわっと喉を開いた。

 ボーカルのスタイルはプリンスの版と同様に、複数のラインを作っている。けれどそれぞれのラインが強すぎて、プリンスみたいに溶け合わない。主旋律と伴奏をきっちり分けてしまった。
 だからこそ主旋律が引き立っている。もっともこの作りが正統派は違いない。

 今回、プリンスとシーナのテイクを聴きならべると、個性の違いがよくわかる。そしてプリンスはシーナのように炸裂する不安定さをこの曲へ込めなかったからこそ、提供したのだろう。
 完成度、隙の無さでは圧倒的にプリンス。ふわふわとファンクな粘っこさが漂う。ボーカルとハーモニーの総力戦なアプローチも良い。
 だが曲の仕上がりでは軍配をシーナにあげたい。思い切り主旋律を立て、自己表現を猛烈にアピールした。終盤に向かって壊れるスリルも、シーナのほうがわかりやすい。

 プリンスが完全に作りこんだ楽曲をこうして残したからこそ、よくわかる違いだ。
 ああ、やっぱりこういう音源が気軽かつ公式に聴けるようになってほしい。プリンスのデモ版は、ブートらしく音質が少し籠ってるし。

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