Miles Davis 「Milestones」(1958)

 バックビートが飛び交うスピーディな緊迫感に溢れた、総決算なアルバム。

 マイルス・デイヴィスはコンセプトの人だった。アルバムの構成、メンバーの編成を常に意識し、自らを魅力的に演出することに長け、なおかつ新しいことに手を伸ばすのを好んだ。
 同時代のジャズのほとんどが瞬間もしくは即興の切り取りを意識したのに比べて、すごく対比的だ。だからマイルスのアルバムはどれもが特徴あり、メンバーの変遷に意味がある。

 同時代のジャズの盤で傑作とそうでないものの区別は、コンセプトの観点で難しく思える。深く当時の時代背景やメンバー変遷を前後で見比べると、山谷や変遷がなんとなく想像を膨らませられるのだが。
 このブログでジャズを取り上げるとき、今はぼくの興味対象として「コンセプト」に着目している。

 ジャズはライブでのきらめき、現場の躍動感こそが魅力と思う。だがアルバムに録音するには何か意味を込めたのでは、と空想するのが楽しいからだ。
 音楽の良しあし、もしくは好みとは別の観点で見たら、もっと音楽を楽しめないかなと思っている。

 そんなわけで本盤。マイルスは研究者も多く、いい加減な背景を想像する前に勉強しなきゃいけないこともたくさんある。でもまあ、ここではあえて想像力だけで書くことをお許しいただきたい。
 ひさしぶりに本盤を聴いて、鋭いバックビートの嵐が凄くカッコよく思え、それを記したくなったんだ。

 ものすごく大雑把に分類すると、本盤はハードバップを駆使してコンボ編成を突き詰め、コルトレーンを筆頭に長尺アドリブ・ソロの魅力を追求した時代の直後にあたる。
 プレスティッジのマラソン・セッションを経てコロンビアに移籍し数年たっている。

 マラソン・セッションの最後が56年の10月26日。"'Round About Midnight"(1956)でカルテットを磨き上げた。
 そしてギル・エヴァンスと再び組み、大編成の"Miles Ahead"(1957)を録音する。
 パリで現地のミュージシャンとお仕事の"Ascenseur pour l'echafaud"(1958)をこなした。
 
 久しぶりに"'Round About Midnight"ぶりに馴染みのコンボ編成に戻ったのが本盤。
 58年2月と3月、二回に分け録音された。ほとんどが2月4日の録音。3月4日のセッションからは(1)(2)が採用された。すなわちコンセプトをいったんまとめ、さらに追加でもう一セッションって趣き。
 
 メンバーはマラソン・セッションの強固なアンサンブルへ、さらにキャノンボール・アダレイが加わった。長尺アドリブ・ソロの拡大を図ったわけだ。
 だがマイルスはアルバムだとメリハリを付けている。たぶん途中でテープ編集は入ってない。

 (2)と(6)は10分越えでじっくりと。だが他の曲は6分前後に抑えた。ソロの応酬が聴きたければライブに来い、アルバムでは実験をするって意思だったのかもしれない。 3管体制の編成は音が分厚く鳴り、いかようにも長尺で盛り上げられる。そこからそぎ落とす緊張感を狙ったのかもしれない。

 さらに。本盤ではひときわ小刻みなスイング感、裏拍の強調がいかしてる。
 特に顕著が(4)。一糸乱れぬ統制で、スマートに裏拍を叩くさまがエレガントだ。
 シンプルなテーマのメロディは頭打ちで取らない。すべて八分の裏で全員がグルーヴを唸らせた。
 ホーン隊がアドリブを取る裏で、ガーランドのピアノが素晴らしく冴えている。ベースとグルーヴの頭を明示し、ドラムが鋭く刻んで表と裏を行き来する。そしてピアノはほぼ、裏一辺倒。

 このアプローチは大なり小なり、他の曲でも味わえる。
 三者三様のリズム解釈が、本盤のビート感を猛烈にドライブさせた。

 ホーン隊と対、がマイルスのコンセプトではなさそうだ。最小のコンボ編成でギル・エヴァンスとの大編成なダイナミズムを模索だろうか。
 さらにテンポも(2)を除いて速い。パーカーらとテクニック至上を追求したビバップを踏まえ、録音技術の発展も手伝った長尺主義のハードバップ、合間に挟まるギルとのノネットや"Miles Ahead"。これらを集大成したかのよう。

 マイルスはハード・バップに飽きたのかもしれない。自己模倣と再生産を防ぐべく。
 そして本盤のあと、マイルスは再び大編成の"Porgy and Bess"(1959),モード・ジャズの"Kind of Blue"(1959)に向かう。

 メンバーに対しマイルスはどこまで支持をしてたろう。少なくとも、コルトレーンは全く違う世界を向いている。言うことを聴かなかったわけではあるまい。
 マイルスはメンバーの才能を尊重しつつ、自らの音楽性を意識的に変えていったと思う。
 実際、"Kind of Blue"ではホーン隊三人とベースは残留。ドラムとピアノが入れ替わる形だ。

 だがコルトレーンの独特な吹き回しは、なんとも本盤で異質を放つ。
 バックビートの歯切れよさが飛び交う中、フレージングはアタックを明確に誰もが提示する。そのなかで、コルトレーンだけがスラーを多用した。平たく言うとタンギングが甘い。
 トランペットの奏法は知識が皆無だが、少なくともマイルスのアドリブはがちがちにタンギングを入れてるっぽい。

 キャノンボールもしかり。高速フレーズでのタンギングひけらかしが主目的でないが、意図的にタンギングを多用してる。逆にコルトレーンはタンギングを少なくする意図はなさそうだが、シーツ・オブ・サウンズの個性としてスラーの連発。なんともモッサリ聴こえてしまう。アドリブ・フレーズの鮮烈さとは別次元の話で、だ。

 ここでサックス二管は個性が分かれた。異なるリズム解釈の多層性と、ホーン隊の多様性。これらを組み合わせる立体的なアンサンブル構築と、その総決算。
 本盤はそんな味わいが漂う、傑作だ。 

Track listing:
1 Dr. Jeckyll 5:46
2 Sid's Ahead 13:01
3 Two Bass Hit 5:13
4 Milestones 5:41
5 Billy Boy 7:14
6 Straight, No Chaser 10:41

Personnel:
Alto Saxophone – Julian "Cannonball" Adderley*
Bass – Paul Chambers
Drums – "Philly" Joe Jones
Piano – Red Garland
Tenor Saxophone – John Coltrane
Trumpet – Miles Davis

Producer – Teo Macero

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