Ornette Coleman 「Of Human Feelings」(1982)

 乱雑で緻密。躍動する混沌を描いたファンクネスが魅力だ。

 アルバムとしては"Dancing in Your Head"(1975)に端を発するハーモロディクス理論スタイルを押し広げた。
 2ドラム、2ギター。ベースはタクーマ一人で逆ハの字型に広がるアンサンブルで、痛快なフリーに見せかけたタイトな音楽を作る。

 プライム・タイムとして"Dancing in Your Head"、"Body Meta"(1978)に続く3枚目。
 デジタルの2ch録音らしい。マルチでなくいきなりマスターにしたそうだ。
 録音は79年。発売まで3年も放っておかれたことになる。アイランドの傘下レーベルAntillesから発売された。CD化もされたが、今は廃盤。Youtubeで聴ける。


 主役はあくまでオーネット。猛烈な自由と強烈な統制が混在するアルバムだ。根本論として、完全に自由なのはオーネットのみ。サウンドはがっちりアレンジされ、キメの部分も多い。
 しかし完璧にタイトでジャストな演奏に締め付けないのが特徴だ。これはどこまで狙ったものだろう。磨き上げるのはカッコ悪いって価値観か、あえてルーズさを残したヘンテコさをもくろんだか。

 統制と言いつつ、バンドメンバーがすべて譜面って意味じゃない。ときどきのキメを除けば、フレーズは自由度が多そうだ。
 ギターは刻み役が明確ならばアドリブを入れてもよさそう。
 ドラムもマーチみたいな前のめりのパルス・ビートを繰り広げれば、フィルもけっこう自由に入れてるっぽい。
 ベースも支えの役割さえ守れば、フレーズ展開はアドリブに聴こえる。

 しかし。アンサンブル全体を見た時に、引っ張ってるのはオーネットのみ。ソロを好き放題入れ、いやオーネットはソロしかとってない。ソロ回しの構造は無く、根本的に主役はオーネットだ。

 両極端の二極構造が透ける。

 和音展開も不安定で、アルバム全体が寄る辺ない浮遊感に満ちている。せわしなくまくしたてるビートを軸に、背中を蹴飛ばされ続けるような勢いは素晴らしく高揚を促す。
 突飛な上下フレーズを駆使するオーネットのサックスが青白く響き続け、バンドは崩れそうな危うさを漂わせるも、根本は恐ろしくタイトだ。

 ハーモロディクス理論をぼくは明確に説明できない。
 だが本盤に通底する、一つの色合いは確かにある。つるつると引っかかりなく滑り、脈絡や起伏、起承転結はあってないようなもの。しかし強靭に前へ進むベクトル感は持ち続けている。

 曲としての物語性をグイグイそぎ落としながら、アンサンブルは涼し気に疾走した。
 オーネットはソロのみと言ったが、完全にフリーではない。テーマのメロディを吹き、アンサンブルの一員としてバンドを引っ張っている。
 だが本盤の中でオーネットが異質であり続け、なおかつ主役で居続けるのも確かだ。

 本盤は掴みづらい。全8曲入り、個々の楽曲はそれぞれ違う。でも似通ったニュアンスが溢れてる。どれもこれも。
 アルバムの終わり間際は"Dancing in Your Head"に向かいそうなムードもあり。
 オーネットの音を消したら、ジャム気味のしぶとくしたたかなファンク・ジャズが味わえる。オーネットの音は異物だ。
 その一方で、本盤のサウンドはオーネットの甲高いアルトが無いと成立しない。

 演奏はフリーに聴こえてキメが多く、きっちり整然に向かいそうで荒ぶるラフな零れっぷりがそこかしこに。リズムを箱から溢れさせ、つじつまはあうが危なっかしい。
 下手くそ、ではない。むしろ無茶苦茶にうまい。整った完成品へ向かう前の手慣らし気味な無造作さと、破綻を起こさぬ確かさを内包した。

 相反する要素をどっぷり巻き込み、混沌と整然さが一体となっている。
 安定とは逆。常に躁状態でまくしたてる。いったん整ったうえでの着崩しではない。ばっちり決める前に、試してる感じ。リハーサルって表現が合うだろうか。いや、違うな。ここには余裕を持つ寛ぎは無い。
 
 本盤は抜群にかっこいい。そしてその魅力は不明瞭に表現した。不安定な完璧さに満ちている。
 
Track listing:
1 Sleep Talk 3:31
2 Jump Street 4:19
3 Him And Her 4:15
4 Air Ship 6:01
5 What Is The Name Of That Song? 3:56
6 Job Mob 4:51
7 Love Words 2:50
8 Times Square 6:00

Personnel:
Ornette Coleman - alto saxophone, production
Charlie Ellerbee - guitar
Bern Nix - guitar
Jamaaladeen Tacuma - bass guitar
Calvin Weston - drums
Denardo Coleman - drums

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