Aodron (2017:Automation Records)

 重低音の圧迫も少なめで、意外と聴きやすいノイズ作品。

Recorded and mixed at Munemihouse, Tokyo May-Oct 2016
Music by 秋田昌美

 16年5月から10月まで断続的に録音された作品を一枚にまとめた。コンセプトや共通性があるかはわからない。組曲形式の冒頭3曲と、15分程度の作品を2曲収録した。
 シアトルのレーベルから初めての発売。どういう脈絡かは不明だ。

 タイトルのAodronは造語か。アルバムのコンセプトは不明。ジャケットのデザインは特にクレジット無く、メルツバウ側が関知してないのかも。

 サウンドはコンピュータとアナログ要素が融合したハーシュ・ノイズ。ミニマル要素が強い。シンセの味わいが濃く、実際はアナログがメインだろうか。背後に溢れるハーシュ・ノイズは、ときどき波形編集のようにも聴こえる。
 こんがらがったケーブルのジャケット写真が象徴するように、混沌が溢れた。

<全曲感想>

1 Ao Part 1 6:12

 冒頭はシンセの音でテクノめいた表情で幕開け、すぐに金属質な貫きとハーシュ・ノイズが沸き立ち、空間を埋め尽くした。強烈なパワーノイズが充満し隙間なく広がった。だが個々の響きがくっきり分離し、潰れないのが現代的だ。サウンド全体の濃密さや圧力よりも、細部を明確に律した上で全体像を描く。

 中心のノイズは無い。すべてが並列で溢れた。地を這う低音、うなりを上げる中域、高音域はあまり強調が無いかな。ガラガラと力技で回転し繰り返しながらパワフルに進行した。

2 Ao Part 2 12:51

 インダストリアル・ハーシュ。がっしゅがっしゅと機械仕掛けのうねりが強力に脈動した。整然一辺倒でなく、揺れやブレを内包する荒っぽさが古めかしい。サーボ・モーターでなく蒸気機関のよう。
 底へ彩にシンセや軋むフィルター・ノイズがかぶさり、ざらついた空気の圧迫感を増した。ここでもやはり複数のノイズ要素が並列で動く。ミニマルな繰り返しの打音とうねりが微妙にずれていく。ポリリズムほどの明確な計算高さはなく、むしろ正常を目指しながらも不安定さを残す機械のよう。

 変化はし続ける。同じ構成にはとどまらぬメルツバウ・スタイル。中盤ではゴムのような柔軟性ある響きを軸に、ぐっと乾いて平板な空気が荒々しく吹いた。脈動するシンセの隙間を電子ノイズが貫き縫い暴れる。
 最後はフェイドアウトで締めた。

3 Ao Part 3 9:15

 冒頭から強烈な噴出のパワー・エレクトロニクス。ビート感を希薄に、埋め尽くすハーシュにシンセのうねりがくっきり自己主張した。
 これまでのミニマルさやビート感を打ち消し、無秩序をまず大きく広げた。
 だが二分過ぎに静かに脈動するパルスが現れる。奔放さの全体像と、強烈な対比構造を持って。

 暴力的な混沌と、冷静沈着なパルスの両極端な連立が強烈にかっこいい。メルツバウの過去作に無いアプローチだ。
 これは意識的なアレンジと思う。だがあくまでも一要素で楽想の基本コンセプトではない、のか。
 しばらくすると音像はがさつくパワー・エレクトロニクスに埋め尽くされる。その背後に明瞭なパルスの幻聴は残り続けるのだが。

 太さも長さも材質も違うノイズの糸や綱で編まれた音像は貫きもなく明瞭度も低い。奥底で静かに存在するパルス。

 だがこの世界も7分過ぎにいきなり打ち払われた。全体がすっぱり切り裂かれ、いきなり見通し良い世界が現れる。
 いくぶん増えるノイズ要素。しかし中盤とは打って変わって鮮やかで空白が多い。

 そのあとに溢れる金属質な音は鉄板をひっぱたくかのよう。ウネリ響き捩れ雑味をたっぷりまとった音色だ。乾いた金属質な音はループする。やけに規則正しいため、PCでサンプリング・ループし波形編集かもしれない。

4 Tetsu To 18:32

 世界観はそのままにこの曲へ移った。ざらついた中心で暴れる音、背後でブツブツと沸き立つ音。複数用途が並列した。最初は隙間を見せ、やがて埋めていく。シンセも加わり、中心や主客が読みづらい曖昧かつ複雑な構造だ。
 シンセや生音のディストーション加工っぽい音色も加わり、規則性が取りづらくなった。この混沌さがダイナミックで刺激たっぷり。

 やがて音は整理され、シンセの音が溢れる世界へ粗い傷を刻む世界に変化した。
 タイトルは「鉄と」か、全く違う意味か。

 錆ついた鉄骨をこそげる風景をノイズで描くさまを妄想する。まっすぐ太く硬く逞しく主軸を中心に据えて、表面の夾雑物をこそぎとる様子を。力任せに、ビームで整然と。
 どんなにこすっても削っても、いきなりきれいになりはしない。表面のざわめきは残り続ける。

 ノイズの構造はシンセが中心は変わらない。ぴちぷちと細かくはじけ、溢れる。ドリルで貫くように前へ太く進むベクトル感は維持された。
 オーケストレーションを意識し、単一のノイズに終わらないところがメルツバウ流。特に7分過ぎから低い音が伸びる一方で、上部で細かく溢れるさまは対比が美しい。
 最後はインダストリアルな打音中心でパワフルに仕上げた。呆気なくフェイドアウト気味に終わる。

5 Melo 14:55
 
 ハーシュと低音のシンセで幕を開け、やがてハーシュの軸足に重心がかかる。金属質なきらめきがたちまち降り注ぎ、混沌を作った。個々の分離がしっかりしてるのは本盤の他の曲と変わらないが、質感に一体性あり。アナログ・テープのような滲みをこの曲には感じた。
 クラシックのオーケストラめいた音列が響き、ハーシュと陣取り合戦を始めた。ノイズと音楽の押し引きは本盤でも屈指の美しさだ。破壊衝動とは異なる、純粋ノイズの奔流とシンセの響きが溶け合い、独特の浮遊感を作った。

 タイトルのMeloは意味不明。メロディの断片、もしくは破片と言う意味で解釈してみよう。Yが無いメロディ。ノイズがその一音にとってかわることはない。あくまで異物としてシンセとノイズは対比され、溶けながらも混ざり合うことはない。
 その連立構造が独特の退廃的な美しさを産んだ。

 太いフィルター・ノイズがメロディの残骸を塗りつぶすように、激しく吹いている。
 特段の余韻も無くあっけなく、フェイドアウトで曲が終わってしまうのが残念。

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