Brian Wilson And Van Dyke Parks 「Orange Crate Art」(1995)

 疑似的なカントリーで描いた、アメリカーナ回帰。リハビリではあるが、愛もある。

 前も書いたが、ぼくはブライアン・ウィルソンに対して評価軸が異様に低い。生きてくれてるだけで良い。復活してくれただけで良い。・・・といいつつ、デニスもカールもおらず、現役で活動がブライアンだけという現実は、いまだに戸惑う。人の命はままならぬが、こんなこともあるんだな。
 
 ドラッグに溺れた60年代から80年代、若かりしときにブライアンが生き生きと活動して欲しかったとは思う。けれど生き続けて作品を発表し続けてくれてる現実は素晴らしい。

 で、本盤。連名だが実質はヴァン・ダイク・パークスのアルバムであり、ブライアンは素材である。
 ブライアンの喉は復活してない。危なっかしいところもしばしば。しかしけっこう声が出てるのに、当時は驚いた。プロデュースのなせる技か。

 88年にソロ作をリリースで復活後、"Sweet Insanity"(1989)が未発表に終わり、ブライアンはアルバムとしてはすっかり音沙汰無くなっていた。
 またも隠遁かと思うなか、ひょっこりリリースが本盤だった。

 (11)(12)のカバーを除き、作曲はすべてヴァン・ダイク。ブライアンは歌だけ。だが独特の和音感覚はそこかしこにある。だがこれらもヴァン・ダイクの仕業だ。
 全編に漂うアメリカーナ回帰も、カリプソやトロピカル色を薄めてブライアンの世界に近い。この盤の製作に至る経緯はよくわからない。
 
 "東京ローズ"(1989)でポップさを出し、"The Fisherman And His Wife"(1989)でジョディ・フォスターと企画アルバムをだしたヴァン・ダイクとしても久々のアルバム。
 ブライアンという絶好の素材を元に、ヴァン・ダイクはアメリカの素朴で雄大かつ保守的な世界を優雅に描いた。

 もちろん素直には行かない。トロピカルやエキゾティック要素を足し、和音や構成もひねった技があちこちに注がれた。アレンジはすべてヴァン・ダイク。
 だがブライアンという免罪符、いやブランド力があればすべてが許される。そんなアルバムだ。

 ヘンテコな感じ、奇妙な風景。しかし本盤の味わいはすべてこの一言で成立する。「いかにもブライアンがやりそう」
 なにせヴァン・ダイクとブライアンなら"スマイル"の前例がある。

 本盤は凝りまくった。だが実験要素に行かない。しゃがれたブライアンの声は、けっこう復活の予感すら感じさせる。多重録音もあるだろうが、実際にはブライアンだけのボーカルではない。元スリー・ドッグ・ナイトのDanny Hutton、スタジオ・コーラスでならしたArnold McCullerなど脇はきっちり固めてる。

 ヴァン・ダイクの拘りが濃密に詰まって、むしろブライアンは無垢を担当した。のちのブライアンの傑作、"That Lucky Old Sun"(2008)と比べるといい。もう少しブライアンは無邪気だ。そもそも本盤の時点、どのくらいユージン・ランディの洗脳からブライアンは復活してたのやら。

 と言うふうに、ぼくは本盤をどうも素直に聴けない。妙なブライアンへの思い入れが邪魔をする。
 
 だがなるべく虚心に聴きたい。きれいでヘンテコなハーモニー、素朴でカントリー風味な毒の無い世界観、そして滑らかかつ丁寧な演奏と、凝ったアレンジ。
 エキゾティックな凝りっぷりと、美しいメロディ。
 唯一、もどかしいのは本盤にロックンロール的な溌剌さ、躍動感に欠けるところだ。

 いまさら若さを追求も無いのは分かってる。だが、永遠の若さを負わされたビーチ・ボーイズの幻想から、ぼくは逃れられなかった。
 箱庭で内世界を追求したサイケデリックなポップス・・・と言うには、病みっぷりが少ないが。直感的な勢いでなく、あくまでも職人技で作り上げたアルバム、と読むべき。

 この盤に詰まった音楽そのものは美しい。素直なアメリカ賛美のアルバムではない。様々な要素、文化が混ざり、爽やかさは人工的なものだ。
 けれどもブライアンに代表する歌声のおかげで、演技臭さや毒気は消されてる。

 うーん、どうも素直にこのアルバムを持ち上げられない。何度も言うが、音楽は素敵だ。

Track listing:
1 Orange Crate Art 3:00
2 Sail Away 5:14
3 My Hobo Heart 3:15
4 Wings Of A Dove 3:06
5 Palm Tree And Moon 4:06
6 Summer In Monterey 4:13
7 San Francisco 4:27
8 Hold Back Time 3:39
9 My Jeanine 3:13
10 Movies Is Magic 3:54
11 This Town Goes Down At Sunset 3:21
12 Lullaby 6:05

Personnel:
Arranged By, Producer – Van Dyke Parks
Vocals – Brian Wilson

Backing Vocals – Arnold McCuller (tracks: 2, 8 to 10), Bob Joyce (tracks: 2, 8 to 10), Carmen Twillie (tracks: 2, 8 to 10), Danny Hutton (tracks: 2, 8 to 10), David Joyce (tracks: 2, 8 to 10), Donny Gerrard (tracks: 2, 8 to 10), Doug Lacy (tracks: 2, 8 to 10), Johnny Britt (tracks: 2, 8 to 10), Jules Greene (tracks: 2, 8 to 10), Mona Lisa Young (tracks: 2, 8 to 10)

Bass Guitar – Carl Sealove, Lee Sklar
Concertmaster – Bruce Dukov, Sid Page
Drums, Percussion – Bernie Dresel, Chili (Darryl Francis) Charles
Dulcimer [Hammer] – Terry Schonig
Guitar, Mandolin – Brian Otto, Dennis Budimir, Fred Tackett, Grant Geissman
Guitar, Mandolin, Programmed By – Ira Ingber
Harmonica – David McKelvy, Tommy Morgan

Orchestrated By – Fredric Myrow (tracks: 10, 12)
Programmed By – Bruce Donnelly, Marvin Saunders, Mike Watts
Steel Drums – Robert Odin Greenidge*
Trumpet [Solos] – Dan Savant
Violin [Solos] – Richard Greene

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