南博 Go there! 「From me to me」(2010)

 ロマンティックなダンディズムに満ちた、繊細でしなやかなジャズ。

 "Celestial Inside"(2002)から7年ぶり、3rdにあたるGo There!の3rdアルバム。ほんらいジャズは、彼らの音楽はライブを追ってしかるべき。本質的な変化は現場でしか味わえない。変わっていようと、いまいとも。
 しかしぼくはそのへんをさぼっており、このバンドが前作から今作までどのような遍歴を追ったか、今一つわからない。

 決して南は本作の間の7年を立ち止まっていない。ぼくが言いたいのは、この楽曲群がライブで練られた楽曲かどうか、ってとこだけ。どっちであろうとも、本作の演奏にぎこちなさや危なっかしさは無いのだが。

 CD化で一種のバブル的な盛り上がりを見せたEWEから数々のジャズ。その一環で菊地成孔のプロデュースでリリースされた前作だが、本作も本質的には変わらない。
 菊地のライナーはきっちり載っており、関係性が崩れてもいない。プロデュースはKawabata Junと記されている。本作のレーベルの関係者だろうか。なお本盤の写真も彼の手による。
 
 作曲はすべて南博。コンピ盤"Boycott Rhythm Machine"(2004)で発表された(9)を本作で再演している。なお再演はあともう一曲あるそう。

 メンバーにも変化は無い。余裕たっぷりのダンディなピアノを筆頭に、繊細かつ柔軟なリズム隊としなやかなサックスが本作でもたっぷり聴ける。

 本盤は2010年3月16日と17日に録音された。アルバムの印象は性急なる寛ぎ。芳垣のリズムがきめ細かく降り注ぎ、水谷が早いフレーズで猛烈にグルーヴさせる。
 リーダーはあくまで南ながら、竹野のサックスはたっぷりスペースを取って吹きまくった。

 南のピアノには気取りが無い。硬質で繊細なタッチに嫌味は無く、頑固な一徹さで美しさを追求する。そこに芸術家の浮世離れした滑稽さが皆無だ。このサウンド、この姿勢にぼくはダンディズムを感じる。
 ステージのMCでは強烈なブラック・ジョークも飛ばすが、本盤ではユーモアをスマートに体の中にしまい、丁寧なピアノに集中した。

 その気になればいくらでも前衛的なインプロを展開できる、テクニシャンぞろいの顔触れなのに。本盤には隙がどこにもない。
 破綻を見せず美学をまっすぐに追及した。

 (6)がいくぶん、ペース・チェンジ。サックスの音色が軋み、わずかにフリー・ジャズ的な荒々しさを残す。
 たとえば(9)の冒頭で内部奏法やリズムの交錯にフリーな要素が見える。
 
 だがそれらはあくまでもアクセント。本質はストレートにジャズを演奏した。
 ソロ回しのお約束や、お仕事っぽいそっけなさは皆無。どこまでも演奏は熱い。しかし崩れない。
 リバーブを効かせた小宇宙で美しいジャズを真摯に演奏した。

 なおプロモーションとして本盤のメイキング映像も、Youtubeで公開されていた。南がジャケットを引っ掛けてる以外は、全員が寛いだ服装で演奏してる。
 しかしサウンドは凛として、全員がスーツ姿でばっちり決めてるかのよう。そんなスマートさに溢れてる。

Track listing:
1. Barack Obama
2. Sea and the ocean
3. December’ December
4. Window in the sky
5. SAKURA -cherry blossom-
6. Angie Dickinson
7. Tears
8. Falling Falling Petals
9. Praise Song

Personnel:
南博(p)
竹野昌邦(sax)
水谷浩章(b)
芳垣安洋(ds)

関連記事

コメント

非公開コメント