Bill Evans 「Sunday At The Village Vanguard」(1961)

 オリジナルLPならではの凄みと美しさが詰まった。至高の傑作。

 ビル・エヴァンスといえばジャズ・ピアノ、いやジャズの定番。ファンも多数おり、発掘や研究も進む。どのようなアプローチで本盤に触れたか、で印象が変わる。
 ぼくはボートラ多数の盤で本盤に触れた。今回にオリジナル曲順で本盤を聴いて、改めて本盤のかっこよさにやられた。
 
 楽曲や演奏の美しさはいかなる形でも成立する。しかし曲順や状況によって聴くことで、異なった魅力が現れると痛感した。
 先日出た本「アナログ・レコードで聴くブルース名盤50選」、少し昔の本ならば「ジャズ選曲指南―秘伝「アルバム4枚セット」聴き」。
 これらの本ではオリジナルLPで聴くことでの凄み、続けて選曲することで新たに付与される魅力について語られている。
 

 本盤は61年6月25日のライブ録音から編集された。昼に2セット、夜に3セット。当時は本盤と"Waltz for Debby"のLP2枚に振り分けてリリースとなる。
 その後に没テイクが復刻され、今ではオリジナル・シーケンスの他に4曲入りボートラや、全音源をまとめたボックスも存在する。
  

 いやむしろ、ボートラ5曲入りのほうが入手はたやすいだろう。ぼくも最初はこのボートラ入りで聴いた。しかもCDで。ずっとビル・エヴァンスの良さがわからず、ジャズを聴き始めて10年以上たってから、本盤に触れた。
 予備知識なしにオリジナル・シーケンスで本盤に触れた人がうらやましい。ただ、この盤の凄さを分かるかは別にして。

 本盤はライブ盤である。メロディアスにベースを奏でるスコット・ラファロが加わるトリオ編成で、エヴァンスはピアノ・トリオの常識と美意識を覆した。
 曲によってはふんだんに観客の喋りや皿の音がノイズとして楽曲に加わる。しかしそれが、けっして音楽の邪魔をしない。

 静かに集中して聴けよ、とは思う。なのにビックリするほど音楽へ溶けているノイズ。
 エヴァンスを聴くことが第一義でなく、ジャズを楽しむ。もしくは飲み食いのおかずとしてのジャズがある。そんな価値観、だろうか。拍手は聴こえる。しかし熱狂ではない。もっとクールに観客はジャズへ接している。

 そんな距離感を見事に感じさせる演出の曲順だ。「ライブ録音の名盤」と意識してぼくは、ボートラ入りのシーケンスで本盤を聴き流してしまってた。

 だが改めて本盤に触れると、最初は観客の声が無い。演奏中にカチッとガラスのノイズ。シンバルの打音かな、と思わせるがすぐに忘れる。しかし拍手の音で、これがライブ盤とわかる。
 しかししだいに観客のしゃべり声や食器の音が曲間に聴こえる。息をのんで演奏を聴いてるってわけじゃなさそうだ。楽しんではいるっぽいが。

 拍手は聴こえる。しかし熱狂とは少し違う温度感。それでも演奏は進んでいく。ベースが野太く響き、ピアノは怜悧に空間を描く。ドラムも淡々と、しかし単調でないリズムを重ねる。
 それでも観客は雑談を辞めない。なのに演奏は集中力を切らさず、クールでかっこいいジャズを奏でた。

 アルバムではB面1曲目の"Alice In Wonderland"。もしこれがA面1曲めなら、すごく異様だった。演奏に全く構わず、しゃべり声が聴こえ続ける。だがアルバムは実際のところ、"Gloria's Step"で始まる。ほとんどオーディエンス・ノイズが聴こえない楽曲で。

 オリン・キープニューズは忍びなかったのか。せっかくの名演を集中して聴かぬ観客たちのスタイルに。なるたけノイズの少ない演奏を探して曲を並べたのかもしれない。
 いや、そもそも喋りながらジャズを聴くって自然体の文化そのものが、当時の日常だったのかもしれない。

 少なくとも本盤は演奏で観客の雑念をねじ伏せて、やがて音楽に集中させるってドラマを描こうとしていない、はず。今までぼくが書いてきたことは、ほとんど本盤の演奏には関係ない。
 だがたまたまオリジナルの曲順で本場を聴いたとき、そんな録音する空気感が妙に気になったんだ。どんな風景で録音され、どんな意図や価値観で編集したのだろう、と。

 本項はほとんど演奏について触れてない。なお楽曲分析ではこのブログが読み応えあった。こういう音楽的な解説が好きだ。ぼくには書けない。
http://takashi-homma.sakura.ne.jp/wordpress/?p=557

 何はともあれ、未聴の人はためしに聴いてみるといい。ジャズに詳しく無いなら、詳しいなら、それぞれの価値観で。決して損はない。

 ジャズに詳しく無いなら、端正な美学とテンションを上げ過ぎない淡々としたセッション風景が味わえる。エヴァンスは孤高だ。観客に媚びず、アピールもしない。ただ、音楽と遊んでいる。テンポの違いはあれ、ダイナミクスやスピードのけれんみは控えてる。

 ジャズに詳しいなら、さらにそれぞれの時代のジャズを聴いてきたならば、歌いまくるベース・ラインに圧倒される。現在の耳で聴くなら、古びていない。ラファロの影響はがっちりと脈々と受け継がれている。
 当時の他の盤を聴き、そのうえで本盤を聴いたら初めて、ベース・ラインの自由さに気づくだろう。

 どうせならまとめて聴きたい、とボックスを聴いてから本盤に戻るのもいいだろう。とはいえ、ぼくはまだボックスのシーケンスで聴いてないのだが。
 ともあれ本盤のシーケンスだけで味わえば、実際の空気感を捻じ曲げて再構成する美学、に気づけるだろう。

 全6曲。ここにはエヴァンスの自作は収められていない。ラファロの作品を2曲、元ボスのマイルス作を1曲。あとはスタンダード。エヴァンスは本作で、ぐっと自分の色を控えてる。

Track listing:
A1 Gloria's Step 6:01
A2 My Man's Gone Now 6:14
A3 Solar 8:39
B1 Alice In Wonderland 8:25
B2 All Of You 8:10
B3 Jade Visions 3:40

Personnel:
Bill Evans - piano
Scott LaFaro - bass
Paul Motian - drums

関連記事

コメント

非公開コメント